( 282199 )  2025/04/12 03:50:31  
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日本の障害年金制度において、昨年から障害年金の不支給が増加しており、特に精神障害や発達障害の不支給が2倍に増えている状況が報じられている。

記事では、障害年金の申請者である城島志帆さんのケースが取り上げられ、申請が不支給となった理由や制度の問題点が明らかにされています。

年金機構の判定が厳しくなり、判定医の個人差や基準の古さなどが問題視されています。

障害年金法研究会などが障害年金制度の改革を訴えているが、現状で制度改正は進んでおらず、「ブラックボックス」とも言われる判定の透明性や公平性の欠如が指摘されています。

(要約)

( 282201 )  2025/04/12 03:50:31  
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悲しむ女性のイメージ(記事とは直接関係ありません) 

 

 国の公的年金は高齢者だけが受け取るものではない。病気やけがで一定の障害がある場合、現役世代でも受給できる「障害年金」という制度がある。全国で240万人近くが受け取っているのだが、昨年からこの障害年金で異変が起きている。支給を申請しても「障害が軽い」と判定され、認められないケースが増えているのだという。どれぐらい増えているのか、記者が各地の社会保険労務士に協力してもらってサンプル調査をしてみると、精神障害と発達障害では、不支給と判定される人の割合が2倍に増えていた。なぜなのか。取材すると、いろいろと不可解なことが出てきた。(共同通信=市川亨) 

 

城島志帆さん(仮名)が受け取った障害年金の不支給通知(画像の一部を加工しています) 

 

 ▽「助けてほしい」 

 

 東海地方に住む20代の城島志帆さん(仮名)は、もともと発達障害があり、対人関係が苦手だった。高校時代にはいじめを受け、不眠や自殺願望があった時期もある。 

 

 結婚、出産したものの子どもを亡くす不幸に見舞われ、5年ほど前にうつ病を発症した。意欲が湧かず、仕事はできない。現在は実家で訪問看護を受けながら両親と暮らす。 

 障害年金はうつ病でも要件を満たせば受給できる。両親との生活が精神的な不安定さの一因でもあるため、城島さんは「障害年金を受け取って、1人暮らしをしたい」と昨年、社会保険労務士に手続きを依頼した。 

 

 申請に必要な診断書を主治医に書いてもらったところ、城島さんの日常生活能力は、日本年金機構のガイドラインに当てはめると、2級の年金支給(障害基礎年金の場合で月約6万9千円)が目安になるという診断だった。障害年金の等級は重い順に1~3級と定められている。 

 ところが、結果は不支給。理由は、障害の程度が軽いとみなされたためだ。年金機構から届いた通知では、判断の根拠の一つとして「抗うつ剤の処方がされていない」ことが挙げられていた。 

 

社会保険労務士の白石美佐子さん。「以前なら障害年金を受け取れたはずの人に支給されなくなり、障害者の生活に影響が出ている」と訴える=2月、愛知県安城市 

 

 ただ、これには理由がある。城島さんは一時期、薬を過剰摂取(オーバードーズ)したことがあり、「またオーバードーズしてしまうのでは」という不安から、年金を申請した頃はあえて薬を処方してもらっていなかった。現在は服薬している。 

 

 「こんなにつらいのに障害年金、もらえないんだ…」。城島さんはがっくりした。「助けてほしいので、認めてほしい」。取材にそう声を絞り出した。 

 ▽「揚げ足取りのようだ」と社労士 

 

 不支給という結果は、城島さんの申請を代行した社労士の白石美佐子さんにとっても驚きだった。依頼を受けたとき、城島さんは母親に連れられて来て、面談中も泣いてうまく話せない状態だった。白石さんは「これだけ重いケースだったら、当然受け取れるだろうと思った」。 

 

 一方で白石さんはこうも話す。「2024年に入ってから、年金機構の判定が明らかに厳しくなった。診断書とは別に、昔のカルテの開示や主治医の意見照会を求められることが増えた。不支給にする理由を何とか見つけようとしているとしか思えない。城島さんの薬についての指摘も揚げ足取りのようだ」 

 取材すると、ほかの社労士からも同様の声があった。そこで、障害年金を専門に扱う各地の社労士にデータの提供をお願いして、サンプル調査をしてみることにした。 

 

 

(写真:47NEWS) 

 

 障害年金の審査は、東京にある年金機構本部が一元的に行っていて、地域の違いは影響しないが、愛知県の白石さんのほか、福島県の菅野峻太さん、群馬県の萩原秀長さん、兵庫県の松岡由将さん、大分県の飯塚泰雄さんに依頼した。 

 ▽年金機構は「適正に判定している」 

 

 この5人の社労士が2023年1~12月に扱った新規の支給申請は全体で1430件。うち不支給と判定されたのは2.9%だった。2024年1~7月では申請917件のうち4.7%となり、1.6倍に増えていた。 

 

 精神・発達障害に限ると、23年の不支給割合は2.2%だったが、24年は4.4%で2倍に増えた。一方、知的障害の不支給は23年がゼロで、24年も1件だけだった。 

 

 専門の社労士が代行せずに一般の人が自分で申請しているケースを含めると、全体の不支給割合はもっと高い可能性がある。 

 年金機構は2019年度分から不支給割合などの統計を例年9月に発表している。23年度までの統計では、ここまで大幅に不支給割合が増えたことはない。 

 

日本年金機構本部=2023年12月、東京都杉並区 

 

 なぜ24年はこんなに増えたのか。年金機構に問い合わせたが、「9月に統計を発表するので、増えたかどうか自体、答えられない」という趣旨の回答だった。「審査方法などは変更しておらず、基準に基づき適正に判定している」と答えた。 

 ▽判定は「ブラックボックス」 

 

 結局のところ、不支給が増えた理由はよく分からない。では、そもそも障害年金の審査はどのように行われているのか。 

 

 まず、申請は主治医の診断書などの書類を市区町村役場や年金事務所に提出する。書類が年金機構本部に送られ、機構から委託を受けた判定医が書類で審査する。言い換えれば、その障害者本人に会ったこともない医師が障害の程度や支給の可否を決めるということだ。 

 

 年金機構によると、機構本部の判定医は今年1月現在、140人いる。ただ、例えば障害者Aさんの申請書類を見るのは、基本的に1人の判定医だけだ。医師も人間。判定の厳しさには個人差が出ざるを得ない。特に、数値などで判断できない精神障害や発達障害では、ばらつきが出やすい。 

 

 

(写真:47NEWS) 

 

 つまり、厳しい判定医に書類が回れば不支給となり、そうではない判定医であれば支給される―という事態があり得る。 

 

 また、「精神科医でも発達障害には詳しくない」といったことは珍しくなく、専門ではない医師が審査している可能性もある。ところが、判定医の名前は非公開。専門分野や経験年数も明らかにされていない。 

 判定医に申請書類が渡される前には、年金機構の職員が「事前判定」をしていて、職員の意向が影響を及ぼしている可能性もあるが、どのような内実なのかはほとんど分からない。事実上「ブラックボックス」だ。そのため「恣意的に判定される恐れがある」との批判が以前から絶えない。 

 

 ▽判定基準は半世紀以上変わっていない 

 

 もちろん、支給の可否や等級を決めるための判定基準は定められている。ところが、基準の基本的な部分は50年以上変わっていない。その結果、どうなっているか。障害年金の受給者のうち、大半を占める2級の基準を見てみると、次のように書かれている。 

 

障害年金の改革を求めて記者会見する「障害年金法研究会」の藤岡毅弁護士(中央)ら=3月25日、東京・霞が関の厚生労働省 

 

 「病院内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね病棟内に限られるもの。家庭内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね家屋内に限られるもの」 

 

 だが現実には、病院や家の中でしか過ごせないなどという2級の受給者は少ない。作業所に通ったり、企業で働いていたりする人がたくさんいる。障害者を取り巻く環境は半世紀前とは大きく変わっているのに、基準は古い考え方のままだ。 

 

 そのため、この基準を持ち出されて「あなたの障害はここまで重くないですよね」として、不支給にされるケースも時々ある。 

 弁護士や社労士らでつくる「障害年金法研究会」は以前から、こうした古い基準の見直しなど制度改正を厚生労働省に求めてきた。3月下旬にも、障害者団体と合同で厚労省に申し入れ書を提出した。 

 

 今年は5年に1度の年金制度改革の年に当たるが、高齢者の老齢年金がメインで、障害年金は事実上、何も変わらない。研究会の藤岡毅弁護士は記者会見してこう訴えた。 

 

 

 「5年に1度の制度改革では、障害年金は常に後回しにされ、いつまでたっても変わらない。全体の改革とは別に、障害年金に関する検討の場を設けるべきだ」 

 ▽取材後記 

 

 例えば、介護保険の要介護度認定や障害福祉サービスの支援区分は、調査員が当事者の自宅などを訪問。本人や家族、支援者らに話を聞いて調査票をまとめ、医師や福祉専門職ら複数の合議で判定する。 

 

 それに比べて障害年金の判定に関わるのは、診断書の作成にしても、年金機構の審査にしても医師1人だけ。医師の中には「患者さんの日常生活の様子なんて見たこともないのに、『話を聞くだけで生活能力を診断しろ』なんて、そもそも無理がある」と本音を明かす人もいる。 

 

 客観性や第三者性、透明性に欠ける判定の仕組みを根本的に変えなければ、問題は解決しないと思う。 

 

 

 
 

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