( 282674 ) 2025/04/13 07:01:16 1 00 総理大臣の石破茂へのトランプ関税に対する批判が高まっている中、エネルギー資源の輸入をトランプ政権との貿易交渉のカードとして活用することが提案されている。 |
( 282676 ) 2025/04/13 07:01:16 0 00 (c) Adobe Stock
トランプ関税を巡り石破茂総理の対応には批判が集まる。そもそも総理就任後もなかなか首脳会談を実現させることができなかったわけだが、実現したとてこの有様である。テレビ番組で石破氏はトランプ氏について「相性はあうと思う」などと発言していたが、全くコミュニケーションがとれていないことがうかがえる。しかしそんな石破氏にも「トランプの盟友」になれるチャンスはまだ残されているという。米共和党関係者に太いパイプを持つ、早稲田大学招聘研究員で国際政治アナリストの渡瀬裕哉氏はその鍵に「パリ協定の離脱」をあげる。詳しく解説していく。全3回の第2回ーー。
トランプ大統領との貿易交渉のカードとして、エネルギー資源の輸入が候補として挙がっている。
米国は第一次トランプ政権下でエネルギー純輸出国に転換しており、そのエネルギー資源を日本が購入することは極めて自然なことだ。ただし、米国産のエネルギー資源はシェールガス・シェールオイルであり、その価格は若干割高であるとされている。また、その資源埋蔵量の規模等を疑問視する向きもある。しかし、米国の東欧・中東などでのプレゼンス低下が予測される中、日本が単独で中東からのエネルギー輸入のためのシーレーンを防衛できるはずもなく、米国からのエネルギー輸入を増加させることは多少のプレミア価格を払っても十分に価値があるものであろう。そして、米国からのエネルギー資源購入は日米の貿易不均衡を是正するものとなり、トランプ政権からの追加関税を回避する友好な手立てとなる。
一方、トランプ政権は日本がエネルギー資源購入を増加させることは、日米交渉の前提として既に織り込み済のはずだ。トランプ政権からの要求をこれだけで満たすことは極めて難しい。したがって、日本側からトランプ大統領を驚かすほどの大胆な提案、しかも日本の国益にかなった内容を提示することが求められる。
2月頭に実施された日米首脳会談において、石破首相はアラスカ開発に関してトランプ大統領との間で協議を行っており、その内容は日米首脳共同声明の中にも盛り込まれた。トランプ大統領はアラスカ開発を就任早々の大統領令で高らかに謳っており、共和党議員達からの期待度も極めて高いものだ。しかし、帰国後の国会答弁の中で、石破首相は民間企業同士が行うべきことで経済産業省が場を設定する、という極めて消極的な答弁を行っている。日本の民間企業や経産省自体も決して同プロジェクトに前向きではないからだ。
アラスカ開発プロジェクトは政治的・経済的リスクが伴う。つまり、このまま民間企業と経産省に任せた場合ほとんど進展することはないことは自明だ。つまり、石破首相はトランプ大統領に空手形を切った形となっており、このプロジェクトが前向きに進まない場合、米国から激しい怒りを招くことは避けられない。
アラスカ開発プロジェクトには、長期に渡る日米両政府による支援のコミットメント、連邦議会による恒常的な開発許可の法制化、民間企業に対するインセンティブ付与などを与える必要がある。日米首脳会談を経て数か月、石破首相はトランプ大統領に自らの大胆なプランを示さなくてはならない。まして、ノープランのままでは「石破の約束は信用できない」と判断されて追加関税を課される可能性がある。石破政権はトランプ政権の怖さを真面目に捉えるべきだ。
一方、アラスカ開発プロジェクトを大幅に前進させるとともに、更にトランプ政権に決定的な交渉の一打を加えることも可能だ。それは「パリ協定の離脱検討の開始」を伝えることだ。
トランプ政権はパリ協定からの離脱を2度行っている。第一次トランプ政権時代に離脱し、今回もパリ協定からの再度の離脱を宣言し、1年後の正式離脱待ちとなっている。トランプ政権は、エネルギー純輸出国になったこと、中国を不当に利する甘すぎる協定内容、その他の政治的な理由も含めて、パリ協定に関しては極めて否定的である。現在のエネルギーや環境関連の主要閣僚もパリ協定を良く思っている人物は一人もいない。
京都議定書以来、この手の気候変動に関する協定は、欧州や中国のご都合主義的な内容(基準や特例)が多く含まれており、日本は無い袖を更に絞られる不利な対応を迫られている。かつての日本のお花畑な政策担当者らが日本の産業に与えた打撃は計り知れない。また、EUが予定している炭素国境調整メカニズムはWTOルールを逸脱した貿易障壁と解釈することもできるため、このような行き過ぎた気候変動是正措置に警鐘を鳴らすことは自由貿易国である日本の役割とも言える。
そこで、仮に「石破首相がトランプ大統領との首脳会談時にパリ協定離脱検討の開始を表明」したとしよう。その政治的インパクトは極めて大きい。トランプ大統領の満足感は計り知れないものとなるであろう。おそらく、トランプ大統領は「石破は盟友」と確実に扱うことになる。相互関税解消に向けて成果は絶大なものとなるはずだ。
一方、欧州や中国は石破首相の動きを激しく批判するだろう。したがって、パリ協定離脱検討の開始に合わせて、現状の目標は当面維持すること、そして現在の欧州や中国がパリ協定に盛り込んでいる不公正な内容の是正を求めることが重要だ。このような状況がなければ、欧州も中国も自国に有利で、日本に不利な内容を見直すはずもない。トランプ政権を梃として、数年間の離脱検討期間を設けて、不公正な内容に関する是正措置を求める良い機会だ。その後、実際に離脱するか否かは、欧州や中国の態度、新興国の排出量増加、米国の政治状況を見て数年後に改めて判断すれば良い。日本も石破政権がその時まで存続するとは思えないので、同政権が「離脱検討」するだけなら幾らでもやり直しはできる。
日本政府は国益を踏まえた上で、トランプ関税を回避することは簡単にこなし、その上でトランプ政権を使い倒すことを考えるべきだ。トランプ政権の存在を奇貨として、日本が過去に失敗した政策を修正するきっかけとして活用すべきである。
渡瀬 裕哉
|
![]() |