( 282769 )  2025/04/14 03:47:11  
00

政府が物価高騰やトランプ関税に対処するために消費税減税を検討する中、与党内からは、「最も効果的な対策は減税」との声が出ている。

消費税減税や現金給付などが議論されている中、減税が重要視されており、具体的な経済対策が求められている。

政権の方針に対する野党や与党内からの批判もあり、失望や反発の声が強くなっている。

給付金や安易なバラマキ策ではなく、減税や歳出削減策による経済対策が必要であるという見方が強まっている。

(要約)

( 282771 )  2025/04/14 03:47:11  
00

物価高騰とトランプ関税の「非常事態」に有効策を打ち出せない石破茂首相(写真:共同通信社) 

 

 読売新聞が4月11日付朝刊で、自民、公明両党が物価高やトランプ政権の関税措置の対応策として、消費税減税を政府に求める方向で検討に入ったと報じた。消費税減税に否定的で「国民1人当たり5万円給付」の実施に向けて調整に入ったとされる石破政権に与党内の勢力が公然と異を唱えているかのように見える。選挙目当てのバラマキがミエミエで実効性も期待できない給付金では岸田政権時代の失敗を繰り返すだけという思いが強いのだろうか。 

 

 長期化する物価高騰にトランプ関税の暴走で日本経済は連日、吹き荒れる嵐にもみくちゃにされている。そこへもってきて政局まできな臭くなってきた。この先、どうなってしまうのか──。ジャーナリストの山田稔氏がレポートする。 

 

■ 物価高騰、トランプ関税対策でパッとしない石破政権の対応 

 

 トランプ政権が巻き起こした春の嵐で世界経済が大混乱に陥っている。東京株式市場は暴落と急騰が日替わりメニューのように繰り返され、円相場は一時1ドル142円台をつけた。半年ぶりのドル安水準だ。 

 

 トランプ政権は「相互関税90日間停止」の方針を打ち出したものの、対中国では合わせて145%の関税措置を取る強硬姿勢を見せ、これに中国が猛反発。米国からの輸入品に対する関税を125%に引き上げる措置を発動した。両国の貿易戦争はエスカレートするばかり。これがまた世界経済を混迷に陥れている。 

 

 日本国内では物価の高騰に歯止めがかからない。4月の食品値上げは4000品目以上に及び、備蓄米が放出されたにもかかわらずコメの最新のスーパー販売価格(3月24日─30日)は4206円と13週連続の値上がりとなった。 

 

 こうした中、実質賃金(2月)は前年同月比で1.2%減り、2カ月連続のマイナス。2024年の年間の実質賃金は前年比0.2%減で3年連続のマイナスとなった。昨年は大幅賃上げと話題になったが、結局は物価上昇に食われてしまった格好だ。今の状況が続けば今年も期待できそうにない。 

 

 そうした状況下で物価高騰、トランプ関税対策としての石破政権の対応が注目されているのだが、これがどうにもパッとしない。物価高騰対策では消費税減税に否定的な石破政権内で「国民1人当たり5万円の給付金」という案が浮上し、今年度補正予算案の中で財源を確保するという。 

 

 一方、トランプ関税対策では石破首相の最側近の赤沢亮正経済再生担当相を米国に派遣して交渉を進めていく方針だ。運輸官僚時代に日米航空交渉を経験したとはいえ、政治家になってからの外交交渉経験は乏しく、党内からは「未知数」「荷が重い」などの声が上がっている。 

 

 

■ 与党内からも出る「最も効果的な対策は減税」との声 

 

 そんな日本政府の動きをどう見ているのか、トランプ大統領は10日「われわれは数千億ドルも払って日本を守るが、彼らは何も支払わない。われわれが攻撃されても何かをする必要がない」と日米安全保障条約への不満をぶちまけた。 

 

 今後、防衛問題で日本に対して大幅な負担増を求めてくるのは間違いない。自動車、農産物の市場開放に続き防衛も。トランプ政権の対日要求は激しさを増すばかり。大臣経験や外国交渉の乏しい側近の派遣で大丈夫なのか。国民の不安は募る一方だ。 

 

 石破政権の姿勢に対しては、野党だけでなく政権与党内からも反発や失望の声が強くなってきている。その典型が消費税減税を求める動きだ。 

 

 自民党では松山政司参院幹事長が8日の会見で「給付も減税も含めてあらゆる選択肢を排除せず、国民生活に寄り添いながらしっかりと対応することが重要」と述べた。さらに踏み込んでいるのは公明党の斉藤鉄夫代表で、「最も効果的な対策は減税で家計や企業の負担を直接軽減することだ」(10日の党中央幹事会)と、減税の重要性に触れた。 

 

 ただし減税には法改正が必要で時間がかかることから、即効性の観点から現金給付についても実現すべきとの考え。そのうえで食料品などを念頭に消費税率の時限的な引き下げを考慮しているとみられ、政府に対して減税を柱とした経済対策の取りまとめを求めていく構えだ。 

  

 野党からは立憲民主党の江田憲司元代表代行らの勉強会が10日の会合で食料品にかかる消費税を当分の間ゼロにすべきだという提言の素案を示した。これより前には小川淳也幹事長が8日の会見で党の経済対策に消費税引き下げを盛り込むことも検討するとの考えを示した。 

 

 国民民主党の玉木雄一郎代表は10日、林芳正官房長官と面会し、今年度の補正予算案の速やかな編成や消費税率の一律5%への引き下げを求めた。さらに30歳未満を対象に所得税を減税する「若者減税法案」を国会に提出した。動きが目まぐるしい。 

 

 

■ 安易な「バラマキ策」は国民のさらなる失望を招くだけ 

 

 一連の動きに林官房長官は11日「新たな給付金や減税を検討している事実はない」と打ち消しに必死だった。財務省とのパイプが太く減税に否定的な森山裕幹事長も同じ日に「社会保障のどこを国民に我慢してもらうのか」とけん制した。 

 

 物価高やトランプ関税への対策として永田町で浮上しているのは「給付」よりも「減税」が主流となっている。それはそうだろう。過去の給付金の実施例をみても財源コストや事務コストが膨れ上がった割には、目に見えるような経済効果は見られなかったからだ。 

 

 例えば、コロナ禍におけるさまざまな給付金。子育て世帯への臨時特別給付、持続化給付金、特別定額給付金など10事業・総額約28兆円が実施されたが、これに伴い政府は6756億円もの巨額の事務費を計上した。家計への給付金は多くは貯蓄に回ったとの指摘があり、消費活性化に結び付いたとの見方は少ない。さらに事業者向けの給付金では不正受給が相次ぎ、24億5996万円(2411社)の不正が明らかになったのだ。 

 

 岸田政権で実施された複雑な仕組みの定額減税(1人当たり4万円の減税 所得税非課税世帯は1世帯10万円給付。子ども1人当たり5万円加算など)は、減税と給付で総額5.5兆円規模の政策コストがかかった。減税といっても1回限りなので、実質は給付金と変わらない。財源は実質国債発行頼み。これといった効果もなく、将来にツケを回しただけである。 

 

 与党内には「給付金は選挙目当てが露骨すぎる。しかも貯蓄に回ったりして効果も期待できない。岸田政権の時も政権浮揚にもつながらず、総裁選出馬を断念した」と給付金にウンザリというムードもある。ある経済ジャーナリストは、こう指摘する。 

 

 「今回、国民1人当たり5万円を給付するとなれば事業規模は6兆円超となります。これは文部科学省の年間予算5兆5094億円(令和7年度)を上回る規模です。それだけの額をばらまくには数千億円規模の事務コストがかかる可能性がある。それでいて、これまでの激しい物価高騰分の穴埋めになるのかどうか。 

 

 恐ろしいのは国際情勢、エネルギー情勢、食料争奪戦などで今後も物価高騰が収まる気配がないこと。さらに関税戦争で国内景気が冷え込み、スタグフレーションの恐れも懸念されています。一過性の給付金では効果らしい効果は期待できないでしょう。 

 

 それでも減税を認めない財務省や自民党内の税調関係者を敵に回すことができず、石破政権が消費税減税に見向きもせず、安易なバラマキ策でしかない給付金に走れば国民の失望が一段と高まり、政権は文字通り詰んでしまいます」 

 

 トランプ政権との関税問題交渉役に赤沢経済再生担当相を指名した石破総理は、「国難ともいえる事態に日米双方の利益になる幅広い協力のあり方を模索すべく、林官房長官をはじめとする関係大臣と密に連携し、アメリカ側と鋭意、協議を行ってほしい」と指示したという。 

 

 

■ 減税分を穴埋めする大幅な歳出カット・予算削減策は?  

 

 終わりが見えない物価高騰にトランプ関税ショックは、コロナ禍を上回る「国難」かもしれない。そんな非常事態を乗り切るには従来型の経済対策では無理。失われた30年間で財務省と自公政権が行ってきた政策に見切りを付け、その反対の路線を進むしかないのではないか。 

 

 具体的には5年間なり10年間の時限付きでの消費税減税、食料品は一律税率をゼロにして、その他は5%に引き下げる。ガソリンの暫定税率は廃止する。そしてコメの価格高騰を抑えるためには備蓄米の放出を継続する。同時に農政のあり方を見直し、専業農家、酪農家などへの所得補償政策を打ち出す──。財源は来年度予算以降で大幅な歳出カットを実施するしかないだろう。 

 

 その最有力候補は増強路線をひた走っている防衛費の見直し、削減だ。東アジア情勢の緊迫などを理由に防衛費増強が当たり前のように進められてきたが、もう一度冷静に議論すべきではないか。 

 

 令和7年度の防衛費は8兆7005億円と過去最大に膨れ上がった。今後トランプ政権の増額圧力は必至だが、すんなりと受け入れていたらキリがない。国防総省内には日本の防衛費をGDP比で3%に引き上げるべきと主張する人物もいる。対米追随にも程がある。 

 

 38兆円規模に達している社会保障費の改革も欠かせない。石破首相が執着した社会的弱者の命を削ることになる高額療養費制度の見直しなどではなく、ほかに手を付ける領域がある。 

 

 巨額の金融資産を保有している高齢者の負担割合引き上げ、OTC類似薬〈OTC薬(市販薬)に効果やリスクが近いにもかかわらず医師の処方が必要な薬(湿布など)〉を公的医療保険給付対象外にするなどの改革による予算削減は十分可能なはずだ。 

 

 こうして生まれる財源を、例えば医療・介護従事者約900万人の待遇改善につなげていきたい。2年連続で春闘の回答が5%を超える中、医療従事者の賃上げ状況は厳しい。 

 

 日本医療労働組合連合会によると、2025年春闘で回答のあった181組合のうち135組合が「賃上げしない」との回答だったという。病院経営が厳しさを増す中で、物価高騰が追い打ちをかけ、医療従事者たちの生活を脅かしているのだ。ここを改善していかないと日本の医療が崩壊してしまう。 

 

 21世紀最大の国難に直面しながら、石破首相の頭には従来と同じレベルの経済対策、それも選挙対策のバラマキ給付金しかないのだろうか。一歩間違えば、政権交代の一大政局に進みかねない中、政権与党内部からの突き上げで給付金プラス消費税減税に踏み込むのか。日本の今後のかじ取りを見据えた賢明な決断を期待したいものである。 

 

山田 稔 

 

 

 
 

IMAGE