( 282864 )  2025/04/14 05:34:31  
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大阪・関西万博が間近に迫り、交通アクセスの混乱が懸念されている。

万博協会の遅い意思決定により、交通インフラの準備が進んでおらず、シャトルバスやタクシー移動が主なアクセス手段になる見通し。

しかし、準備が不十分であり、シャトルバス運転手の確保やタクシー乗り場の問題などが指摘されている。

また、日本型ライドシェアの対応も遅れており、交通事業者の間では万博での利益増が期待できない声もある。

(要約)

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交通アクセスの混乱が予想される大阪・関西万博(写真:アフロ) 

 

 4月13日の開幕が間近に迫った大阪・関西万博。各種メディアで指摘されてきたような工期の遅れやチケット販売問題など続々と表面化しているが、現地取材をしてきた筆者がもっとも懸念しているのは交通インフラの視点である。より正確に言うのであれば、あまりに場当たり的なそのプロセスともいえるだろうかーー。 

 

 理由は単純明快である。万博協会の意思決定があまりに遅すぎて、事業者側の準備も進んでいないのだ。万博への主なアクセス手段は大阪メトロの中央線、シャトルバスが中心となる見込みだ。加えてタクシー移動などの可能性がある。 

 

 一方で、会場まで橋一本、トンネル一本というアクセス問題はかねて取り沙汰されてきており、不安が募っている。大阪タクシー協会の関係者が苦言を呈する。 

 

■利用者ファーストではない 

 

 「はっきり言って輸送計画が立っていない。仮に電車の運休、遅延、バスの事故などが生じた場合機能不全に陥ることは目に見えている。45秒に1度というシャトルバス運行が仮に実現するのなら、渋滞も避けられない。開催場所である夢洲へのアクセス方法を考慮しても、とてもではないが利用者ファーストとは言えない」 

 

 肝心のシャトルバスの運転手の確保には相当苦心してきた側面もある。ある大阪府議がこうも明かす。 

 

 「予測はしていましたが、結局は必要な数のバス運転手を確保できなかった。そのため主要バス会社は期間中に自社の事業よりも優先して、万博のために運転手を派遣するという対応を行うそうです」 

 

 交通インフラに関しては、タクシー乗り場1つとっても、その対応には強い批判が集まっていた。会場となる夢洲乗り場は、現在49両分の待機場が予定されている。これらは協会が発行する入館証を取得した車両のみが利用可能だ。 

 

 しかし、乗り入れの際の降車場へのタクシーにも「事前に講習を受けたうえで取得する入館証が必要だ」と万博協会は主張してきたのだ。 

 

 これに対して大阪タクシー協会は猛反発してきた。仮に降車のみの場合でも入館証が必要となるのであれば、タクシーで来場する一般客は車両を把握していないために、大層使い勝手が悪いものとなると指摘されてきた。 

 

 万博協会とタクシー協会の攻防は数カ月に渡り続いてきたが、「3月中旬時点でいまだ乗り場の運用ルールは正式に発表されていない」という企業もあった。なぜこれほど万博協会の対応が頑なだったのだろうか、という疑問はいまだ残っている。 

 

 

■直前になっても情報が降りてこない 

 

 市内の中堅タクシー会社の役員はこう嘆息するのだった。 

 

 「タクシーに限らず、万博運営全般に伴う対応が全て遅すぎる。利用者視点というのが根本的に欠けています。我々は当然、万博に向けてシフトや人員を組もうとします。ですが、直前でも読めないため準備もできないしどうにもならない。 

 

 一方で、決して優先順位は高くなく、未知数な部分もある日本型ライドシェアだけは頑なに進めてようとしてきた矛盾がある。開幕が迫った今の時点ですら我々に降りてくる情報はかなり限定的。恩恵が生まれるイメージはとても持てません」 

 

 万博が他の国際イベントと異なるのは、半年間という長期スパンでの開催になる点が挙げられる。当然ながら大阪に住む人々の通勤や交通渋滞などの兼ね合いも含めて検討が必要となる。 

 

 一昨年をピークに、大阪もタクシー不足の状態に陥っていた。それが今では台数も回復し、新大阪やなんばなどの主要駅では手持ち無沙汰な様子のタクシードライバーを見かけるようになった。なんばで利用したタクシー運転手の意見は説得力を帯びていた。 

 

■万博効果はあまり期待できない?  

 

 「たぶん、万博でお客さんが大幅に増えると思っているドライバーはいないんじゃないかな。大阪に住んでいても万博の話題が上がることはほとんどないから、私達も自然とそう思ってしまう。今はタクシーもずいぶん増えたことで、正直稼ぎはだいぶ落ちてますよ。盛り上がってくれるといいんだけど、期待はしてへんわ」 

 

 3月上旬に関西国際空港に足を運ぶと、平日の日中にもかかわらず忙しなく動く長距離タクシーの列があった。関空タクシー運営協議会の報告書によれば、2024年2月度の空港専用タクシーの輸送回数は約6万回。これはコロナ禍前の3割増に当たる数字だ。聞き込みをしていくと、「体感的には今年はさらに10%程度多いのでは」と話す運転手もいた。 

 

 

 その背景について、空港を拠点とする安田さん(仮名・50代)はこう分析する。 

 

 「はっきり言って利用者の8割強が外国人の方です。日本人はせいぜい1割もいたらいいほど。その大半が市内のホテルに直行の上客ばかり。つまり外国人さまさまなわけ。そもそも万博来場者は9割近くが国内の人と予測されるとニュースで見た。我々は外国人頼みだから、万博が開催されて多少賑わおうが、これ以上増えるかは疑問だよ」 

 

 同じく空港にいた別のドライバーは、バッサリと切り捨てた。 

 

 「そもそも私達(の会社)は万博会場に入構できない。メリットがないわけ。もちろん開催がマイナスになることはないだろうけど、収入が伸びることも期待していない。それでも、実際に始まれば盛り上がってくれたらいいな、とは願っているけどね」 

 

■生活圏の交通秩序を保てるのか?  

 

 おそらく万博開催中に関しては、会場へのアクセスというよりは、生活圏の人々の交通混乱を起こさないという視点のほうがより重要になる。 

 

 移動需要の増加を想定して、大阪府とタクシー協会は営業区域を条件付きで撤廃し、全域運行を認めて旅客運送を可能にする「なにわモデル」の導入を発表している。 

 

 だが、これは配車アプリのマッチング率が一定の数値を下回った場合発動するという、緊急対応のようなものである。利用者の喫緊の需要に対応できるか、と問われると未知数と言わざるを得ない。 

 

 そして、万博開催時の日本型ライドシェアについても対応は後手後手に回っている。3月26日には使用可能時間帯・地域の拡大が発表され、北摂・泉州もようやく対象になった。台数は北摂35両、泉州は29両の稼働となる。 

 

 ここでも、府や万博協会、タクシー協会とでは水面下での綱引きが行われてきた。2月末時点で万博の日本型ライドシェアの許可は105両で、応募事業者は33社にとどまっている。 

 

 ライドシェア解禁に伴うタクシー業界の動きを語る際に、「既得権益」という言葉が利用されがちだ。だが、万博開催に伴うその動きについて、強い違和感を感じる部分もある。 

 

 特に強く解禁を訴えてきた維新の会では、国会答弁や大阪の各種委員会レベルでも「既得権益の打破」という言葉は何度も繰り返してきた。その一方で、あまりに安易な行動も散見されるのだ。 

 

 ライドシェアのハイブリッド運用を掲げる新興企業「newmo」の会見では、吉村洋文知事が参加し、PRに一役買っていることもその1つだろう。知事や共同代表という立場にもかかわらず特定の企業への肩入れがあるという点は、新たな「既得権益を生む」という批判が生じても何ら不思議ではない。事実、タクシー業界や永田町からはそんな声も聞こえてくる。 

 

 

■「いざ開催となれば盛り上がる」は本当か?  

 

 前出のタクシー会社の役員は筆者にこうも明かした。 

 

 「万博にしろライドシェアにしろ、情報が全く降りてこないから、どうなるかの予測もつかないというのが正直なところです。ただ、本来であれば旅客輸送事業者にとって大歓迎な万博開催に対して、ほとんどポジティブな意見が聞こえてこないのが現状を表しているとも思います。せめて微増となれば御の字、というところでしょうか」 

 

 開幕前から問題が山積だった大阪・関西万博だが、いざ開催となれば盛り上がりを期待する声も根強い。そして、直接的な売り上げに繋がる交通事業者ほどその思いは切実だ。 

 

 だが、仮にそうなった場合には、「交通問題」が表出する可能性は高まる。上述してきたようなあまりに“無計画”な過程から判断するに、とてもではないが楽観的な観測を持てないのは決して筆者だけではなかろう。 

 

栗田 シメイ :ノンフィクションライター 

 

 

 
 

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