( 283149 )  2025/04/15 06:39:45  
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公的年金は「社会的扶養」、「国民の共同連帯」、「所得再分配機能」という大きな理念を持っています。

最近の議論では、基礎年金(国民年金)の底上げ案が浮上しており、厚生年金を減額してその資金を活用する案も出ています。

しかし、この案が国会で通るかどうかは未定であり、議論が続いています。

(要約)

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公的年金は「社会的扶養」「国民の共同連帯」「所得再分配機能」(写真提供/イメージマート) 

 

 5年に一度おこなわれている年金制度改革の議論において、基礎年金(国民年金)の底上げ案はほぼ確定と言われてきた。厚生年金減額で資金をまかない2028年度から底上げを始める見通しだったが、2031年度以降に先送りする案が浮上と報じられた。とはいえ、就職氷河期世代を支えるためにも底上げは必要という声もあり、議論は継続中だ。人々の生活と社会の変化を記録する作家の日野百草氏が、まるで借りパクのようなやり口で資金を移動させる「年金」について考えた。 

 

 * * * 

【1】社会的扶養 

 

【2】国民の共同連帯 

 

【3】所得再分配機能 

 

 日本政府による公的年金の考え方である。社会科(公民など)でも習う通り、これを引っくるめて「相互扶助」という理念になる。 

 

 年金は自分が納めた分にプラスされて戻って来るとか、基礎部分の国民年金(基礎年金)に上乗せされる形で厚生年金があり別であるという認識は合っているようで違う。胴元(この表現をあえて使う)である日本政府や所轄官庁もまた「相互扶助」としている。 

 

 4月、自民党は国会提出が長く先送りとなっている年金制度改革法案について、国民年金の底上げとそれに伴う財源を厚生年金の活用で賄う案を提示した。受給金額の少ない国民年金のみの受給者の給付水準を上げるためにサラリーマン等の厚生年金の積立金を活用することになるが、自民党内でも国民年金の給付水準を上げるために厚生年金を使うことの理解は得られるのか、それによって厚生年金の給付が下げられることに納得してもらえるのかなど、10日の話し合いもまとまらず終えた。 

 

 つまるところ「国民年金のみの高齢者の受給額を上げるために厚生年金被保険者である現役の支払い分を活用する」ということになる。もちろんこの案が通るならの話だが、すでに自民党内でこのような案を前提に調整しているという現実がある。 

 

 やばい、人口ピラミッドや少子化という現実の数を見れば明らかな話ではあるが、公的年金制度の胴元はそうとう厳しい立場に追い込まれている。そうとうな反発が予想されるため「今年の夏の参院選後に」という意見もある。しかし後述するが自民党は2000年代に年金問題で大敗、一度下野しているため忌避感は強いだろう。公明党もそうか。 

 

 一部報道と野党の試算によれば国民年金の受給額を引き上げるために厚生年金の積立金を活用すると厚生年金分は月額で7000円ほどの減額(2040年度見通し)となる。年間では単純計算だが8万4000円の減額、あくまで試算であり提出前の段階とはいえ、年金者になってこの減額は大きい。また、いわゆるサラリーマンなどの厚生年金加入者が国民年金のみの受給者に対する積立金の流用に納得するかどうか。 

 

 

 そこで冒頭の「相互扶助」の話となる。公的年金は自分が積み立てたものでもそれがプラスになって返って来るものでもなく「社会的扶養」を目的とした「国民の共同連帯」による「所得再分配機能」ということになる。今回の案も「そういうことだから」ということか。 

 

 まず【1】の「社会的扶養」は厚生労働省の「年金制度の仕組みと考え方」にある。 

 

〈現行の公的年金制度は、現役世代が納めた保険料をその時々の高齢者等の年金給付に充てる仕組みを基本とした財政方式を採っている(賦課方式)〉 

 

〈我が国の産業構造が変化し、都市化、核家族化が進行してきた中で、従来のように私的扶養だけで親の老後の生活を支えることは困難となり、社会全体で高齢者を支える「社会的扶養」が必要不可欠となってきた。公的年金制度は、こうした高齢者の「社会的扶養」を基本とした仕組みである〉 

 

〈社会的扶養は、現役世代の間で高齢者の扶養の負担を均等化する機能も有する〉 

 

 1961年(昭和36年)の国民皆年金(拠出制)から半世紀以上、この国の公的年金制度はまさに「社会的扶養」を実現してきた。60歳を過ぎたら悠々自適の年金暮らし、ふた昔前のアニメに出てくるおじいちゃんおばあちゃんそのものであった。このときの掛け金は35歳未満が100円、35歳以上が150円である。 

 

 その年の経済企画庁(現・経済産業省)の年次報告書によれば当時の平均賃金は2万4232円(30人以上事業所)。それを考慮しても割安というか、いかに高齢者に比べて支える労働人口が多かったかがわかる。中卒が「金の卵」だったので労働市場にすぐ送り込むこともできた。 

 

 思えば戦争が終わり15年とかそこら、まだ社会は不安定だったし戦争で親や家族を亡くした人がたくさんいた。これからの社会を安定させるために年金制度が必要だった。ベビーブームで子どもはたくさんいたし安い掛け金で当時は十分だった。それまでの現役世代の多くが戦争やその関連で死んだため高齢者の数もいまに比べれば少なかった。そもそも寿命もいまほど長くない。そういう時代に生まれた制度である。 

 

 次に【2】の「国民の共同連帯」は日本年金機構の基本理念にある。 

 

〈政府管掌年金が国民の共同連帯の理念に基づき国民の信頼を基礎として常に安定的に実施されるべきものであることにかんがみ、政府管掌年金事業に対する国民の意見を反映しつつ、提供するサービスの質の向上を図るとともに、業務運営の効率化並びに業務運営における公正性及び透明性の確保に努める〉 

 

 

 日本年金機構はかつて社会保険庁(社保庁)と呼ばれた。筆者も何人か70代、80代の元社保庁の職員を知っているが彼らの口は固いし全員が「自分は悪くない」「もう過ぎた話」とだけを本気で言っている。 

 

 職員全体による組織的かつ計画的な怠慢行動によって消えた年金記録、それを主導した労働組合幹部らによるヤミ専従、次から次へと汚職で逮捕される幹部職員、不正閲覧と特定の受給者に対する不正便宜に手を染める末端職員、そして3682億円もの損失を出した社保庁による保養所「グリーンピア」経営の失敗で2009年に廃止され、現在の日本年金機構となった。実質的にほとんどの職員がそのまま移る形となったことも批判された。 

 

 おまけに社保庁は年金保険料を長官の交際費や職員のゴルフ道具、マッサージ機、プロ野球観戦などにも流用していた。とてつもなく無茶苦茶で若い人には戦前の話かと思う向きもあるかもしれないが21世紀まで続いた話である。というかまだ発覚(2004年ごろ)から20年そこらの事件である。 

 

 この「消えた年金問題」や「公的年金流用問題」など一連の不祥事によって2007年の参院選で自公連立の安倍晋三内閣(第1次)は小沢一郎民主党に惨敗、2009年の衆院選でも自公連立の麻生太郎内閣が鳩山由紀夫民主党に惨敗で自民党は下野する。 

 

 下野の理由はそればかりではないが、この年金問題が(当たり前の話だが)一般国民の怒りを買ったと政府および厚生労働省も認めている。「政権交代の原動力」という鳩山由紀夫首相の言葉もあった。 

 

 その民主党も結局のところ親玉である財務省に勝てなかったわけだが、この国の年金制度とは冒頭にあるような綺麗事を並べた私利私欲の連中による胴元の目的外利用でしかなかった現実がある。 

 

 かつての社保庁の幹部やベテラン職員も多くは70代や80代、知る限り、悠々自適にたいそうな家を子や孫のために建て替えたり高級旅館をはしごで旅行三昧の毎日を送ったりで逃げおおせている。当時の社保庁の職員は約2万人で正規職は1万3000人、みなさんの知る年金暮らしの高齢者の中にもいるかもしれない。まず名乗らないだろうが。 

 

 筆者は『財務省が約6000億円をいまも借りパク状態 自賠責保険積立金を2024年度も完済せず、「100年後に返す」で誰が納得するのか』でも書いたが、この国の社会倫理はこうした連中によって破壊され「金だけ今だけ自分だけ」の現在に至る。現在の「老人憎し」は以前のような「老人憎し」と性質が異なる。無関係な高齢者には可哀想だが「社会的扶養」「国民の共同連帯」を破壊したのはこの国の歴代の政治家や官僚どもである。 

 

 

 最後に【3】の「所得再分配機能」だが、これも厚労省の資料「公的年金制度の所得再分配機能」から引く。 

 

〈厚生年金保険では、社会全体で高齢者等を支えるという助け合いの制度であることに加え、公的年金は、社会保障制度として所得に応じた負担を求めるとともに、必要性に配慮した給付を行うことにより、所得再分配機能を果たしている〉 

 

 これが今回の「国民年金のみの高齢者の受給額を上げるために厚生年金被保険者である現役の支払い分を活用する」の根拠のひとつである。まさに「相互扶助」は錦の御旗だ。 

 

 厚労省は『いっしょに検証! 公的年金 ~年金の仕組みと将来~』という漫画で主人公の「ゆい」、友人の「ともちゃん」、そしてしゃべる猫の「ミーコ」のやり取りでこう表現している。※一部抜粋 

 

〈ゆい「てっきり自分の年金を貯めてると思ってたのに…」 

 

ともちゃん「きちんと保険料を払って支え合いに貢献したからこそ、将来年金を受け取れるんじゃないかな?」 

 

ミーコ「長く働くことはより若い世代と一緒に高齢化した社会を支えていくためにも重要なんだニャ、これまでより働く人が増えて日本経済が成長すればそもそものパイのサイズが大きくなるニャン、そうすれば切り分けられる公的年金(ピース)も大きくなるニャン」〉 

 

 なにがニャンだこの野郎、とうっかり筆が滑ってしまうが、実のところ政府も官僚も年金に関してまったく反省していないのだと思う。自賠責保険の積立金同様、所詮はときの政府と官僚、つまるところ財務省のお金、という感覚なのだろう。 

 

 国民年金加入者の納付率は上がっているように見えて免除・猶予は596万人(2024年)で納付率の計算から除外されている実態がある。足りないなら黙ってても取れる巨額の厚生年金から、サラリーマンなどから給料天引きで確実に取れる厚生年金に「社会的扶養」を目的とした「国民の共同連帯」による「所得再分配機能」による「相互扶助」に頼ろうというのが今回の年金制度改革法案の真意ということか。 

 

 この自民党内の一部案がそのまま国会へ提出されるかは不透明だが、確実に厚生年金は狙われている。 

 

 

 
 

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