( 283654 )  2025/04/17 05:53:27  
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四国地方で働く30代の女性が、今後の年金制度について不安を感じていることを述べています。

彼女は夫と2人の娘との4人暮らしで、パートタイムの医療事務として働いています。

106万円の壁制度の見直しや年金3号制度の廃止についての議論が進んでおり、この状況に戸惑う人が多いと報告されています。

経済ジャーナリストは年金3号廃止論について否定し、主婦が年金に加入しなくても将来年金を受け取る制度が導入された経緯を説明しています。

現状で年金3号被保険者は減少傾向にあり、制度の廃止理由は不明瞭とされています。

女性の働き控えや収入などを踏まえ、新たな支援策の整備が必要と提案されています。

(要約)

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写真はイメージです(gettyimages) 

 

「ニュースで制度の話は聞きますが、わからないことばかりです。この先どうなるか不安で仕方がないです」 

 

 そうつぶやくのは四国地方で働く女性(30代)。介護職で働く夫(30代)と2人の娘の4人暮らしで、長女は保育園に通い、次女はようやく一人で歩けるようになったばかり。実家の両親のサポートを得ながら、自宅近くのクリニックで医療事務の仕事をパートタイムでしている。 

 

「今は夫の扶養の範囲内で働いています。いろいろと制度が変わることは知っていますが、これ以上、金銭的な負担が増えると家計が大変なので、週20時間以上は働かないように調整するかもしれません」(女性) 

 

 2026年10月にも撤廃する方向で議論が進められている「106万円の壁」の見直しは、妻がパートなどで働く際、週20時間以上働く人はすべて「第3号被保険者」から「第2号被保険者」にするように制度を変更して、将来受け取る年金額を増やそうというもの。年収106万円で社会保険料の負担は年間約15万円にもなるので、女性のように戸惑う人も多い。 

 

「子どもが大きくなったらフルタイムで働きたいという気持ちはもちろんありますが、娘たちは体が弱いので長時間、留守にするのは難しいです。私が住む地方都市には、再就職できるような職場もそう簡単に見つかりません」(同) 

 

■1985年4月に成立 

 

 そんななか、さらに女性を悩ます問題が持ち上がっている。国は年金制度改革の中で、一人でも多くの主婦に保険料を納めさせようと改正の準備を進めている。「106万円の壁」の撤廃もその一つだが、より重要なのが「年金3号制度」の廃止だ。 

 

 年金3号(第3号被保険者制度)とは、会社員もしくは公務員として厚生年金に加入している人の配偶者で、年収130万円未満、20歳以上60歳未満であるといった条件を満たすと、国民年金の保険料を納めなくても老齢基礎年金を受け取る資格が得られるという制度。1985年4月に成立した。 

 

 

 パート従業員の働き控えを招くとして日本商工会議所や連合などが「3号廃止」を求めていたが、厚生労働省は「すぐに廃止をすると不利益を被る人が多い」と、今回の年金制度改革では見送り、本格的な議論は5年後に持ち越した。 

 

「年金制度改正の度に『3号廃止』の議論が出て、生活者の不安をあおっています。3号を廃止させたい人たちは、働き控えを招く、あるいは1号被保険者の配偶者は保険料を納めているので不公平だと、廃止の理由を主張していますが、不公平でも何でもない。『3号被保険者は保険料を納めないのに、将来年金を受け取るからズルい』というのは大きな誤解です」 

 

 そう指摘するのは、経済ジャーナリストの荻原博子さん。荻原さんはコラムなどでこの「3号廃止論」を真っ向から否定している。 

 

「3号被保険者の保険料というのは、配偶者が加入している厚生年金制度の財源から一括して国民年金に納められています。2号被保険者(厚生年金の加入者)が全体で負担しているので『3号の人たちは得している』と、損得で考えるのは間違った議論なのです。制度が導入された当時は、夫は働き、妻が専業主婦として家庭を支えるといった世帯が一般的だったので、専業主婦にも年金の受給資格を与えようと導入されました」(荻原さん) 

 

■「フルタイムで働かせたい」  

 

 さらにこんな背景もある。サラリーマン世帯の専業主婦は、公的年金に未加入のままだと、万が一離婚した場合、老後に無年金や低年金に陥ることが予想された。それを回避するため「3号被保険者」制度を導入。サラリーマン世帯の専業主婦は保険料を徴収しない形で強制加入にしたという経緯があるのだ。 

 

「3号廃止論は、すべての女性をフルタイムで働かせたい。国民にできるだけ多くの保険料を納めてもらいたいという経済団体と政府の思惑から出ています。そもそも年金3号に該当する人は、共働きの増加に伴い、年々減ってきています」(同) 

 

 

 2023年度現在は約686万人でピーク時の約1220万人(1995年度)と比べて4割強減少。分母が減ってきているため、今すぐに年金3号の制度を廃止する理由は見当たらないという。 

 

 また、厚生労働省のデータ(※)からは、生活の厳しさも浮かび上がる。3号被保険者は、「約9割が子どもあり。5割以上が就業。年収100万円前後に分布が集中」だ。 

 

「このデータは、少しでも世帯収入を増やそうとパートで働く女性が多いことを裏付けています。家計がぎりぎりといった家庭では、追加負担によって生活が成り立たなくなる恐れがあります。将来もらえるお金よりも、今使えるお金があるほうが大事なのです」(同) 

 

■新たな支援策を 

 

 冒頭の女性も年間約20万円の負担が今増えるのは、「正直痛い」と語る。荻原さんが続ける。 

 

「子育て支援策が充実してきたこともあり、育児休業を取得しながら正社員で働き続ける女性も増えています。しかし、すべてではありません。中には育児休業を取得しにくい環境の女性もいます。2人目の出産をきっかけに会社を辞めて子育てに専念する人もいます。お子さんの病気や親の介護があり、働きたくても働けない人もいます。サラリーマンの妻といえども、さまざまな立場の人がいます。そういう状態で年金3号を廃止したらその人たちはどうなるのでしょうか」 

 

 また、精神疾患などが原因で会社を辞めて専業主夫になる夫もいる。廃止するのであれば、フルタイムで働くことができない妻(または夫)に対して、保険料の負担を減免する仕組みや補助金、新たな支援策を整備すべきという。 

 

 年金保険料の負担を新たに課したことで、結局未納となり、将来的に低年金や無年金になることだけは避けたい。誰もが加入しやすい制度作りのほうが必要だと言える。 

 

(※)2023年9月厚生労働省社会保障審議会年金部会「第3号被保険者制度について」 

 

(ライター・村田くみ) 

 

村田くみ 

 

 

 
 

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