( 284549 )  2025/04/20 06:52:38  
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トランプ政策の関税発表による相場の影響に振り回されている投資家たちの実態が明らかになった。

関税関連の暴落で損失を被った個人投資家や、立ち直るために努力する投資家の姿が描かれている。

一方で、暴落をチャンスと捉えて追加で株を購入した人の成功体験も示唆されている。

市場にはまだ不確定要素が残っており、経済の動向や企業の業績発表が今後の相場に大きな影響を与える可能性がある。

個人投資家は慎重に銘柄選定をして臨む必要がありそうだ。

(要約)

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トランプ政策にいつまで振り回されるのか。写真:AP/アフロ 

 

トランプ大統領の“関税ショック”が相場に影を落としている。1月には4万円台にあった日経平均株価は、4月7日の「ブラックマンデー」に3万1000円台まで急落。そこでいったん底打ちしたが、今なお3万5000円台を回復できずにいる。 

 

* * * 

 

 そんな急落のショックから立ち直れずにいるのは、大きな損失を被った個人投資家たちだ。 

 

「ニュースを見ても、悲観的な見方をするアナリストは多くなかったので、『同盟国の日本に対して高い関税をかけることはないだろう』と楽観的に考えていました。それで3月の調整局面に、日経平均先物を3万6000円台で買って握りしめていたのですが……暴落の恐怖に駆られて、すべて損切りしました」 

 

■投資で人生を変えようと 

 

 そう話すのは40代の女性。トランプ関税発表後の暴落で160万円の損失を被って以降、投資から距離を置くようにしていると話す。 

 

「7日の暴落時に『最悪、2万5000円まで下げる可能性がある』というアナリストの予想を読んで、損切りしないと死ぬと思い、底値に近い3万1000円台で投げ売ってしまった。さらに、そのあと損失を取り返そうと、熱くなって日経先物の短期売買を繰り返して、傷口を広げてしまったんです。昨年も先物取引で150万円以上損しているので、私には投資の才能がないんだと改めて気づかされました。残りの資金は100万円しかないけど、今後は自分の意思が介在しない自動売買ソフトを利用して運用することを考えています」 

 

 この女性は月3万円ずつ新NISAでS&P500に連動する投資信託を積み立てているが、それも含み損になったという。 

 

「一流企業の男を捕まえて人生一発逆転なんて望めません。だから、投資で人生を変えようと思ったのに……トランプに台無しにされました」 

 

 女性はそう恨み節を漏らすが、もっと大きな損失を被った人もいる。 

 

「暴落を真正面から食らうショックよりも、上昇相場に乗り遅れて後悔するショックのほうが大きいと判断して、3月以降の下げの局面で買い向かいました。現物株だけでなく、信用取引でも買いポジションを増やしていました。その信用ポジションのマイナスが大きく響いて、資産は年初から50%のマイナスに。金額にして2千万円近く失ってしまいました」 

 

 そう話すのは、兼業個人投資家のエル川さん。中長期で値上がり期待のある個別株に投資してきた。資産は5年で約4倍に増え、3月時点では5千万円に到達していたが……大きく目減りしてしまったという。 

 

■ほぼ一睡もできずに 

 

「2日にトランプ関税が発表された以降も、都合のいいように解釈してしまい、ポジションを減らさなかった自分はどうかしていたと思う。4日夜の下落で青ざめて、土日(5、6日)はずっと心臓が痛くて食事もほとんど喉を通りませんでした。過去の急落相場と同じ過ちを繰り返す自分が嫌になって、かといってどうすることもできない状況にわめき散らかしたりしていました。月曜日(7日)まではもう地獄のような時間でした」 

 

 ほぼ一睡もできずに7日を迎えたエル川さんは、日本経済新聞の「トヨタ、米関税『想定の中で最悪』」と題した記事を目にして絶望したという。午前7時に取引が開始された日経先物が大幅安となったことで、「最悪の場合は借金を抱えることになると覚悟して両親に泣きながら報告する妄想までした」と話す。 

 

「奇跡的に現物株の取引が始まるまでに、相場が若干戻したので、すぐさま信用ポジションをすべて清算しました。大きな損失を被りましたが、7日は投資人生のターニングポイントになった日だと、今は前向きに考えています」 

 

 

 エル川さんは、信用取引は一切しないと心に誓ったという。信用取引とは、証券会社からお金や株を借りて株を売買すること。証券会社に手持ちのお金や株を担保として差し出すと、その約3倍まで取引できる。大きく儲けることができるが、損失も大きくなるリスクがある。エル川さんは今後、無茶なリスクを取るのをやめて、10年、20年先まで株を続けられることを最優先にしたいと話す。 

 

 FXで致命傷を負った人もいる。40代の男性が話す。 

 

「トランプ関税が発動されたら、輸入物価の上昇を通じてインフレが進み、アメリカの長期金利には上昇圧力が加わり、ドルが買われやすくなる。一方で、欧州中央銀行は低迷する欧州経済を背景に利下げ傾向にありました。だから、ユーロ/ドルの売りポジションを持っていたんです。しかし9日にトランプさんが急に『相互関税の90日停止』を決めて、期待はもろくも崩れました。関税停止でインフレ圧力が低下してドル売りが進み、関税リスクが低下したことでユーロ買いが進むことに……。その結果、ユーロ/ドルは3年ぶりの高値まで爆騰して、気づいたら私のポジションは強制ロスカットされていたんです」 

 

■見たくなくて 

 

 男性が失った資金は240万円。昨年からコツコツ増やしてきた資金は、一気に80万円まで減少したという。 

 

「最大の敗因は、損切りできなかったこと。関税停止の速報を受けて、すぐにチャートをチェックしたのに、大幅な含み損を抱えるポジションを見たくなくて、すぐにパソコンの画面を閉じてしまいました。『もしかしたら、トランプさんがすぐに関税停止を撤回するかも』なんて甘い期待を抱いて……」 

 

 一方で、こうしたなか、好機と捉えて安値で株を仕込んだ人もいる。投資系YouTuberとして知られるJINさんが話す。 

 

「トランプ関税が発表されてから日米ともに株安が進んで、『絶好の買い場がやってきた!』と思いました。4千万円弱保有していた現物株の含み益が7日の暴落で吹き飛びましたが、以前から目をつけていた米国株を中心に1千万円ほど追加で仕込みました。そのおかげで、1週間足らずで700万円の含み益が出ています」 

 

 

 購入したのは半導体大手のエヌビディアに、ソフトウェア企業のパランティア・テクノロジーズ、フィンテック銘柄のロケット・カンパニーズ、そして日本の商社の丸紅だという。 

 

「エヌビディアは中国向けに設計したAI半導体がアメリカの輸出規制の対象になったこともあって大きく売られましたが、誰もが認める超高成長企業。100ドルを割ったら絶対買いだと思って指し値を入れておきました。パランティアもAIを活用した防衛テクノロジー企業で、昨年、株価が大きく上昇した超高成長銘柄。暴落局面では間違いなく買いだと思ってました。一方で、ロケット・カンパニーズはネット経由で住宅ローンを提供する企業なので、トランプさんが利下げを訴え続ければ、利用者が増えるだろうと思って買いを入れました。丸紅は、完全に“投資の神様”に便乗しただけ。ウォーレン・バフェットが買い増している商社株のなかで、最も業績がいい丸紅を安値で仕込ませてもらいました」 

 

 そう話すJINさんだが、実はFXでは大きく負け越している。今抱えているFXの含み損は1億円を超えるという。 

 

■低調な相場が夏まで続く 

 

「1ドル=126円台からドル/円の売りポジションを2年以上握りしめていて、これだけで3千万円以上の含み損を抱えてます(16日時点で1ドル=141円台)。そのほかにもユーロ/円や英ポンド/円の売りも含み損だらけ。FXの含み損がなければ、もっとエヌビディアなどを買い増せたのに……と悔やまれます」 

 

 暴落相場にはしばしば“二番底”が訪れる点には注意が必要だ。ベテラン証券関係者が話す。 

 

「関税ショックはいったん織り込んだように見えますが、世界の金融市場への関税の影響はどのように出てくるかまだ見えていません。日本株に関して言うと、注目は5月中旬から本格化する企業の決算発表です。ここで、厳しい今期26年3月期の業績見通しが相次ぐと、日経平均は二番底を形成しにいくことも考えられる。一方で、関税の影響を測りかねて業績予想を公表しない企業が出てくる可能性もある。そうなると、買い材料が不足して低調な相場が夏まで続くことが予想されます。個人投資家は、下げた局面で好業績が期待できる銘柄を拾う守りの姿勢を取るほうがいいでしょう」 

 

 二番底も想定して、トランプ相場に臨むほうがよさそうだ。投資はくれぐれも自己責任で。 

 

(ジャーナリスト・田茂井治) 

 

田茂井治 

 

 

 
 

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