( 284739 )  2025/04/21 05:06:55  
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京都で料理の提供を縮小する宿が増えている理由は、インバウンドの活況で外国人観光客の需要が高まる中で、提供される日本食が期待と異なることが原因の一つです。

外国人客が日本食のハイカロリーや地元料理とは異なるものを提供されることに不満を持ち、食事を残すことが増えているためです。

また、人手不足やクレーム対応なども理由として挙げられます。

他の施設では、仕出し弁当の提供やプランの見直しなど、様々な対策を取っていることが示されています。

(要約)

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インバウンドが活況の京都でなぜ今、料理の提供を縮小するのでしょうか(写真:Skylight/PIXTA) 

 

 京都で料理の提供を縮小する宿が静かに増えている。 

 

 素泊まりのみのプランを用意したり、朝食のみを提供したり、修学旅行生にのみ食事を用意したり、飲食店の予約代行をしたりと方法はさまざまだが、一般的な“1泊2食付き”プランからの撤退という点では共通している。 

 

 オーバーツーリズムが問題になるほどインバウンドが活況の京都でなぜ今、料理の提供を縮小するのだろうか。宿に話を聞いてみると、人手不足だけではない意外な理由が見えてきた。 

 

■「想像していた日本食と違う」 

 

 今回、匿名を条件に京都市内の4軒の旅館が取材に応じてくれた。 

 

 京都の老舗料理旅館Aは昨年の夏から夕食の提供をやめて、食事は朝食のみにした。旅館Aのインバウンドの宿泊需要は高く、客の9割以上が外国人観光客。その反面、食事つきプランの需要はほとんどなく、料理旅館として面目を保つべく粘ってみたものの、料理長が定年退職したのを機に料理の提供をやめることにしたという。 

 

 外国人観光客はSNSや観光情報誌などで日本での食事を楽しみにして来日する。しかし、そこで紹介されているのは霜降り肉が輝くすき焼きや、今にも熱気が伝わってきそうなラーメンなど日本食の中でもハイカロリーなものばかり。豆腐や煮物など素朴な味わいの日本食とはかけ離れている。 

 

 外国人観光客も最初はそんな日本食も楽しもうと、2食付きのプランを宿泊日数分予約して訪れる。食べてみて初めて自分が思い描いていた味との違いを実感し、1回目の食事で「明日からは出さないでくれ」とキャンセルするパターンが続出した。 

 

 当時、実際に食べ残された朝食を見せてもらったことがあるが、豆腐は1片だけ欠けていたり、歯形の付いたしいたけやふき、にんじんなどが手付かずの含め煮の上に乗っていた。 

 

 「ほとんどすべての食事を残し、ファストフード店の朝食メニューや、コンビニで手軽なサンドウィッチなどを購入して食べている姿をよく見かけますね」(旅館Aの経営者) 

 

 

 確かに日本のコンビニ食は外国人から人気だ。コンビニにも地域限定商品や、季節限定の商品も販売されているため、コンビニ食もある意味日本文化に触れるチャンスといえるが、旅館側としては複雑な心境だろう。 

 

■「料理長の定年」を機に徐々に縮小 

 

 旅館Aの経営者はこのまま料理の提供を続けるべきか悩んでいた。創業して約100年、ずっと美味しい料理でおもてなしをしたいと営業を続けてきた。料理は旅館Aのアイデンティティーのようなものだからだ。 

 

 しかし、料理が利用客からの最大のクレーム原因になってしまっていた。食材を用意しても、キャンセルされる。「準備しているから無理だ」と断っても、「食べていないのになぜお金を払わないといけないのだ」と詰められる。お互い言葉が違うし、意思の疎通が難しい。キャンセルを受け入れたら、事前決済の場合は予約サイトやクレジットカード会社へ返金の連絡をしなければならない。海外サイト経由の場合がほとんどのため、そこでも言語の壁が立ちはだかる。ただでさえ人手不足なのに、対応に追われて忙しくなる。 

 

 そんな中、料理長が定年を迎えた。旅館Aは引き留めたが、料理長は田舎に帰って妻とゆっくり過ごしたいと固辞した。旅館Aはその意思を尊重し、料理の提供をやめることにした。 

 

 周りの旅館を参考に、仕出し弁当の提供をしたり、朝食だけ続けてみたりとひとつずつ試して、徐々にやめた。 

 

 筆者が話を聞いたのは、朝食の仕出し弁当の提供を打ち切る直前だった。専務は「弁当ももうやめます。結局は同じことでした。クレームの原因になってしまう」とほとんど手を付けられていない弁当を見つめて、寂しそうに言った。 

 

 現在は朝食としてご飯や味噌汁、豆腐などの日本食と、パンやカレーライスなどの少ない品数をビュッフェ形式で用意している。残ったものをアルバイトの賄いにできることも結果として良かった。 

 

 提供をやめたことでクレームも激減した。朝食は別途料金が不要で、食べる・食べないは自由というスタイルだから朝食がクレームになることもないのだ。 

 

 「以前は食事を提供する際、従業員たちの間に緊張が走りましたが、今は皆ゆったりと働いていて館内の雰囲気も良いです」と旅館Aの経営者は嬉しそうだ。 

 

 

 今回話を聞いた旅館A以外の3つの宿泊施設も同様に課題を抱えていて、それぞれ対策を進めている。 

 

 旅館Bでは、仕出し弁当付きのプランを販売していたが、あまりにもキャンセルが相次いだため、そのプランの販売をやめ、飲食店の予約代行をすることにした。日本語も英語も達者な日本人が間に入ることで、予約先の飲食店も安心して予約を受けてくれ、宿泊客からも喜ばれている。担当者は「業務が(仕出し弁当の準備に比べ)倍以上になり、大変だがそれでも喜んで貰えるから今後も継続して頑張りたい」と語る。 

 

 旅館Cでは、素泊まりへとプランを切り替えた。滞在期間中のおもてなしに徹することができるとあって、評判も上々だという。 

 

 旅館Dでは、提供する食事メニューにすき焼きや、しゃぶしゃぶを加えた。これが大当たりだった。旅行情報誌に掲載される飲食店はどこも人気で、希望日に予約が取れなかったり、電話で予約しても、言葉が通じなかったりするからだ。そこで宿泊する施設で提供ができると、飛ぶように売れた。 

 

■「料理なし」にはリスクも 

 

 京都では外国資本の宿泊施設が増える一方だ。外国人が外国人向けに作り、値段も手頃だし、なにより言葉が通じる。 

 

 そうして競争が激化する中で、顧客のニーズに合わせサービスを変化させる必要が出てくるのは当然ともいえるが、外国人に照準を絞ったサービスをするのはリスクもはらんでいる。 

 

 コロナのようなパンデミックや、国際問題などさまざまな理由でいつ足が遠のくのかわからないからだ。 

 

 インバウンドの盛り上がりとは裏腹に、京都の老舗旅館は難しいかじ取りを迫られている。 

 

後藤 華子 :ライター 

 

 

 
 

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