( 284794 ) 2025/04/21 06:09:03 1 00 金融庁が高齢者向けの少額投資非課税制度(NISA)を創設する検討を始めた。
政府は高齢者にも投資を促すことで日本経済を活性化したい。
投資を検討する高齢者に対しては、人気の上位投資信託商品を選び、時間軸で投資を分散させること、毎月分配型の商品は避けることなど、3つのルールを提案する。
(要約) |
( 284796 ) 2025/04/21 06:09:03 0 00 写真はイメージです Photo:PIXTA
金融庁が高齢者向けの少額投資非課税制度(NISA)を創設する検討に入った。老後資金に目をつけた政府の意図はどこにあるのか。「高齢者向けNISA」で損をしない方法を考えると、そもそも政府の目論見が無駄骨に終わりそうな予感がしてきた。(百年コンサルティングチーフエコノミスト 鈴木貴博)
● なぜ高齢者は投資をしないのか?
金融庁が高齢者向けのNISA制度を創設する検討に入りました。背景を説明します。
日銀によれば直近でも家計の金融資産のうち51%が現預金です。株式や投資信託の比率は20%に過ぎません。もっとも新NISAがはじまる前の2023年3月末では株や投資信託の比率は15%でしたから、新NISAで預金から投資への流れができたことは間違いありません。
一方でなぜまだ金融資産の半分が預金なのかというと、新NISAに積極的なのは若者が中心で、高齢者にはそれほど浸透していないという実態があります。
私の周囲には実際に銀行に1億円超を定期預金で預けている高齢の知人がいます。その人にとって重要なことは減らないことです。本人によれば、「100歳まで生きたとしてもあと30年間。毎年300万円ずつ取り崩していって、それで人生おしまいでちょうどいいのよ」ということで、確かにそれは理屈です。
銀行の定期預金金利は上がり始めたとはいえ年利0.4%ですから、1億円の金利は40万円にしかなりません。経済の専門家は、あまりお勧めしないでしょう。
一方で投資信託のうち高齢者向けの野村世界6資産分散投信の分配コース(外貨と円貨それぞれ債権、株式、不動産に投資)なら過去5年間の運用実績は年利回りで6%。つまり利益が年600万円だと考えれば、仮に毎年300万円ずつ取り崩していったとしても100歳で死ぬときには遺産は1億円よりも増えている計算です。
金融理論的にはたとえ高齢者でも預金から投資へと資産をシフトするのが、リスクを加味したとしても理にかなっていると考えられています。実際そう考える人が多いアメリカでは、個人金融資産の約53%を株と投資信託が占め、現預金は12%程度にすぎません。
じゃあ、なぜこのような差が生まれたのかというと、ここは日本の金融機関が猛省すべきところですが、高齢者は過去、金融機関に食い物にされた知人をたくさん知っているのです。証券会社の言うままに株を売買して財産を減らした友人や、銀行員が勧める仕組み商品で資産を減らした知人がたくさんいて、金融商品はリスクだと実体験しているのです。
実際、業界は浄化されつつあって、若者が新NISAで投資を始めるにはとてもよいタイミングです。長期のインデックス投資なら投資リスクは低くおさえられるわけで、だから若者は預金から投資へと財産をシフトします。一方で高齢者はもう資産を減らしたくない。自衛本能から銀行預金を堅持する。この状況で「別にいいんじゃないの?」と思えるのです。
では、なぜ政府がいまさら高齢者向けのプラチナNISA制度を検討するのでしょう。理由は投資が増えないと日本経済は成長できないからです。
旧来の考え方では個人が銀行に預けたお金は、貸出金となって企業の成長投資に寄与します。昭和の高度成長はこのメカニズムでもたらされました。ところがバブル崩壊後の日本経済では銀行に対する企業の借入ニーズが減り、銀行は余った預金で国債を買うしか運用先がなくなっています。
では日本経済の投資を誰が支えてきたのかというとアベノミクス以降は日銀でした。日銀が日本国債とETFを購入することで、国に対しても企業に対しても投資資金が供給されたのです。その日銀が今、これ以上の資金供給が難しいところに来ています。
この状況を打開するために都合がいいのは、個人が銀行に預けている預金が投資に向かうことです。ただこのアイデアは現実には機能していません。
というのも若者が新NISAでどこに資産を移したのかを見ると、2大人気となっているのがオルカンと呼ばれる世界株式に投資をする投資信託か、アメリカ株のS&P500に投資をする投資信託です。簡単に言えば新NISAで増加した投資は日本ではなく世界に向かっているのです。
そこで金融庁が高齢者に目をつけたと考えたらどうでしょうか?
人気のオルカンにしてもS&P500にしても、10年スパンの長期投資なら一定のリターンが期待できる金融商品です。実際、過去5年の成績はたいしたもので、投信のオルカンは2.8倍(年利換算で約23%)、S&P500は3.1倍(同約25%)と信じられないハイペースで財産を増やしています。 しかし足元のトランプ関税の混乱とAI投資が一巡した影響でこれからの2年、これまでの反動もあってこれらのインデックス投資がマイナスに転じるリスクがあると思います。
こういった時期は投資家にとっては債権や不動産へも投資するバランス型ファンドのほうが乗り越えやすいものだと、古典的なファンド理論は教えます。ここが着眼点ではないでしょうか?
若者に人気のファンドは株価下落のリスクに加えて為替リスクも抱えています。その資産が目に見えて減ってくれば、資産分散型ファンドが注目されるようになるはずです。たとえば、先ほど挙げた6資産分散投信なら、投資資金の半分は日本の株、債券、不動産に投資されることになります。日本政府にとっては都合がいい投資環境です。
● 「高齢者向けNISA」で損しないための3ルール
さて、今回新設されるプラチナNISA制度では、高齢者に人気のある、運用益を毎月払い出す「毎月分配型」の投資信託商品を高齢者限定でNISAの対象に加える方針だということです。年金生活の高齢者から見れば、毎月分配金が払い出されるなら生活が安心ですし、その分配金に20%の税金がかからないのはさらに魅力に感じるかもしれません。
ではもしあなたが仮に高齢者の父母から、「預金からプラチナNISAに老後資金を移して、投資を始めてみたいんだけどどうかな?」と相談されたとします。どうアドバイスしたらいいでしょう?
私なら、これから5年ぐらいの当面の間、取り崩す必要がない余力の銀行預金があれば、それを以下の条件でNISAに移すことをアドバイスします。
1. 投資信託ランキングで人気の上位商品(トップ3のうちのどれか) 2. 年間投資額を決めて毎月一定額を(時間軸で)分散投資 3.「毎月分配型」の商品は選ばない
考え方としては若者の投資方針と実は変わりません。結果としてバランスファンドも毎月分配型ファンドも選ばないことになります。説明しましょう。
円貨と外貨に半分ずつ、株と債券、不動産にそれぞれ3分の1ずつ投資するバランス型ファンドは一見、安全に見えます。しかし実際は2つのリスク商品(ないしは3つ?)を取り込んでしまっています。それは日本国債と日本の不動産です。
日本の国債と日本の不動産について、読者のみなさんはどう考えますか?
政府が無制限に発行する国債で、日本政府の国家予算は一般会計・特別会計ともに増加し続けています。しかも今後、日銀の利上げがあるたびに債券価格は下落します。
一方で首都圏のマンション価格は相変わらず好調で、平均価格が1億円を超えました。それがこの先も上がり続けるのでしょうか。債券と不動産は安全資産だと言えるのでしょうか?
実際に数字を見るとちょっと不安になるかもしれません。投資信託には円資産に分散して投資するファンドもあります。
調べてみると債券70%、株式15%、不動産15%という以前の理論では安全重視に該当していた投信(東京海上・円資産バランスファンド)の過去5年間の平均利回りはマイナス1%、つまり日本株は上がっていても3資産への分散投資ではマイナスになっているのです。そのうえ、もしトランプ関税で日本株が下がり続けることがあれば、バランスファンドの抱えるリスク商品は3つに増えてしまうでしょう。
これがバランスファンドのリスクです。私のアドバイスは金融機関のアドバイスは聞いてはいけない、市場原理を信じて投資信託の人気ランキング上位3つから選べというものです。その考え方ならこの先もバランスファンドではなくオルカンか米S&P500が選ばれることになるでしょう。
次に高齢者がNISA投資をするタイミングですが、この先、為替レートがどうころぶかがまったく読めません。一般には短期的には円高、しかし来年以降はふたたび円安に戻るのではないかなどと言われますが、その通りになるかどうか、為替の予測は難しいものです。
ですから、外貨商品であるオルカンやS&P500に投資する場合は投資予算全体を12分割して、毎月一定額を投資するような時系列での分散投資が好ましいといえます。
3番目の毎月分配型を除外することに関しては、もともとの新NISAで除外されたときの考え方が本質です。運用益が再投資ではなく分配金に回るメカニズムから、もともと毎月分配型の投資信託は中長期の資産形成の主旨に沿わないとそもそも政府が言っていたのです。
さて、私がここで述べたアドバイスは、別に私だけの意見ではなく広く若者の間に広まっている新しい投資の常識になりつつあります。仮に、若い世代の新NISA経験組がそのようなアドバイスを高齢者にしたとしたらどうなるでしょうか?
日本の金融資産のかなりの部分を占める高齢者の銀行預金は投資信託へと向かうことになるのですが、その最終的な行き先は主にアメリカ経済への投資ということになってしまいます。そうなればせっかく金融庁がプラチナNISAを創設しても、国が期待するのとは違う変化がおきそうです。
鈴木貴博
|
![]() |