( 286696 ) 2025/04/28 05:04:13 0 00 政府備蓄米で作ったおにぎりを試食する江藤拓農林水産相(時事通信フォト)
ごはんを炊くのにコンニャクなどでかさ増しをする、なんて生活の知恵は、近年ではダイエット目的でしか聞かれなかった。ところが、最近は高いコメを食べ繋ぐためのノウハウとして共有されている。全国のスーパーで1週間に販売されたコメの価格が15週連続で値上がりし、前年同時期の5キロあたり2078円に対して、4217円(農林水産省4月21日発表)と倍以上を記録している。人々の生活と社会の変化を記録する作家の日野百草氏が、コメをめぐる政府と国民のすれ違いについてレポートする。
* * * コメはどこに消えた。
コメなんてあってあたりまえだった。
いつでも店頭にあって、安くて、それでもちょっと前まで「コメが売れない」「コメ離れ」なんて話もあった。
あったというか、いまから30年以上前の1993年ごろ、いわゆる「平成の米騒動」の収束以降ずっと、コメに関してはそうだった。減反と補助金頼み、農協支配の果てに「もう内需が見込めないから輸出産業に転換しては」だった。
しかしもう、ずっとコメの価格が上がり続けている。上がり続けるどころか店によっては米がない。安いコメが無いどころか、そこそこ出して買うレベルのコメも品薄だ。
「(コメの品薄について)お金さえ出しさえすれば手に入るということをですね、日本人が信じ過ぎたがゆえにですね、私は食料自給率が低過ぎたという、私は側面があると思っています」
はいはい、またテレビのよくわからないコメンテーターの戯言か、と思うかもしれないが、この国の農林水産大臣、江藤拓氏(自民党・宮崎2区)の4月22日の会見上で出た言葉である。「日本人が信じ過ぎたがゆえ」だそうだ。
「(コメの価格について)今年ですね、なかなか国民のご期待に応えられない。備蓄米を出してもですね、店頭価格が下がらないということについては、責任を重く感じておりますし、申し訳ないと、私自身もですね、思っておりますよ」
そして、ついに大臣は謝罪した。
通信社や全国紙はこれを「責任を重く感じている」「申し訳ないと思っている」など要約しているが、端折ることなくこうして一字一句きちんと起こしてみると印象は変わるものだ。ちなみに謝罪なのに「申し訳ないと、私自身もですね、思っておりますよ」の「よ」は「余計」だと筆者も思っておりますよ。
「(コメの輸入について)日本の米の国内生産がですね、大幅に減少してしまうということがですね、国益なのかということはですね、国民全体として考えていただきたい」
この江藤農水大臣の会見、農林水産省の公式YouTubeチャンネル「maffchannel」でも観ることができる。4月23日20時40分時点で1338 回視聴しかなく可哀想なのでぜひ観てあげて欲しい。案の定コメント欄は閉じられているが。まあ、大臣のこの発言も姿勢もまた「ご覧の通り」である。国民全体として考えていただきたいそうだ。どうしよう。
筆者は2024年9月に『《令和の米騒動リポート》足りないのは安い米? 米は本当に不足しているのか 米農家は「価格の知覚がおかしな消費者が増えた」』を書いたが、あれから半年以上を経ても解消されない。むしろ米の小売価格は上がり続け、都内ではブランド問わず5キロで4000円から5000円程度、これまで知られていない国内産地の銘柄でも4000円を切ることは少ない。有名産地のブランド米なら5キロ6000円とか7000円、それ以上という店もある。
都内の中堅スーパーマーケット、副店長の話。
「倍近い価格ですね。コメがあるだけましというか、この周辺のスーパーでコメがない店もありますから」
副店長の言う通り別のスーパーの「お米コーナー」はパックご飯が山積みだった。眺めていた高齢女性に聞くと「お米がないって怖い」と語った。
主食が無くなるのではという潜在的な不安感、少し離れた業務用食品系のスーパーでは高齢の男性が少ない選択肢の中から一番安い4000円ちょっとの馴染みのない産地のブランド米を買っていた。「それでも4000円を超えるなんてね」と苦笑い。「ちょっと前まで2000円で買えたのに」とも。
中学生の娘さんを連れた母親いわく「うちは家族が多くてね。麺類を増やしてる」とのこと。確かに各スーパーのお米コーナーにはパスタやうどんを代わりに並べている店もあった。パックご飯すら品薄の店舗もあった。
農水省によれば、およそ全国1,000店のスーパーにおける平均価格は5キロで4217円(4月21日発表)。筆者の東京に限らず首都圏の多くのスーパーではこれより高値がついているが、地方のスーパーと平均すればこの調査はおおよそ間違いないように思う。
かくして15週連続の値上がり、それも備蓄米を放出してこれである。
江藤農水大臣は先の会見で理由として卸売業者の仕入れ値の高さが原因とした。しかし1ヶ月前(3月14日)の会見では「たくさん買っちゃだめよ」など義務化はできないことを前提として、
「流通を円滑化する上で重要なファクターである、キーを握っているのは実は最終消費者です。最終消費者の方々がですね、必要な分だけ買っていただく」
と見解を述べた。ここでも、必要な分だけ買わない「最終消費者」だそうだ。
「安いのが出たからこの機会に、たとえば今までの3倍も4倍も買っておこうとか、何かあの、私昨日、参議院の農産、農林水産委員会で言われたんですが7月に大災害が起こるって噂が流れてるんですか? ネット上で。知ってる? ね? なんの根拠があるのか知りませんけど、それによってコメを買い占める人が出るんじゃないか、っていう質問を昨日受けましたが、まあ、あの、これだけSNSがですね、あの、台頭する時代になるといろんなことがあるかもしれませんが」
これはある漫画の「大災難が2025年7月に来る」という予言がSNSの一部を中心に広まっていることを指しているが、質問も質問なら大臣も大臣である。その後の「消費者の方々も少し考えて購入していただきたい」にこんな仮定の話を持ち出されても。
「ただですね、消費者の方々がですね、安定的に合理的な価格でお米をですね、手に取るためにはですね、消費者の方々も少し考えて購入をしていただきたい」
とにかくこれ、少し長く引いたがその辺の飲み屋で偉そうにうんちくを傾けているのではなく農水大臣の会見なのだ。
この3月の会見も1ヶ月以上を経て1885回視聴(4月23日23時40分時点)とまったく可哀想なので農水省公式YouTube「maffchannel」を観てあげて欲しいのだが、まるで消費者が買い占めて、それこそオイルショックのトイレットペーパー買い占めを例に挙げて消費者がコメを買い占めていることも原因のように語るのはどうかと思う。
そもそもずっと「コメの価格は安定する」「備蓄米など出さなくても」「備蓄米を出せば安定する」と言い続けて何ひとつその通りになっていない原因は政府そのものではないか。なのにいまさら消費者にも責任とは。
都合が悪くなるとすぐ「日本人」と全体責任に転嫁するいつものやり口、昨年から秋には落ち着く、年明けには落ち着く、年度明けには落ち着くと言ってこれ、消費者は買い占めてなどいないしそもそも最終消費者が買い占めたところでそこまでの影響があるというエビデンスは何なのか。「変な風評に惑わされることなく」と言われてもこれでは政府見解、とくに農水大臣の会見のほうがよほど「変な風評」ではないか。
別のスーパーで話を聞いた。東京都西部の大型スーパー、お米売り場はさみしい限り。
「5000円超えるとちょっと考えちゃいますね。だから4000円代のコメを買います。これは美味しかった」
妻と二人暮らしの60代男性が買い求めたのはやはり馴染みのない産地のコメ。ブランド名もあまり聞かない銘柄だが「あんまり気にしない」とのこと。
江藤農水大臣の一連の会見について話すと
「ひどいね、この辺には一般人が買い占めるほどコメなんかないよ」
とのこと。他の各スーパーでも概ねそのような感想、中には「減反」「農協」「備蓄米の放出不備」と詳しい方々もいらっしゃった。「日本人が信じ過ぎたがゆえ」「消費者の方々も少し考えて」などと言ったところで、とうに政府の失策であることはバレている。
昨日今日の話でなく、農家を犠牲にした長きにわたる利権と失策のツケが来たということも。
備蓄米を入札できる限られた卸売業者に偏在した落札と流通、ようやく23日からの10万トンから卸売業者同士の売買が認められたが、ではこれまで「投機目的」「マネーゲーム」と自身の口でさかんに指摘していたはずの江藤農水大臣のエビデンスもまた何だったのか。
昨年夏、「次の収穫前の端境期だから慌てる必要はない」「新米が出回る9月ごろには解消される」と農水大臣や一部専門家が盛んに喧伝していたが、結果としてオオカミ少年であった。SNSを中心にコメ不足とか米価の上昇なんてウソだ、陰謀だ、でっちあげと言い張っていた連中もコメについてはとても静かになった。ただし昨年コメ不足の9月解消を言ったのは江藤農水大臣でなく坂本哲志前農水大臣(自民党・熊本3区)なので誤解のないように。
都内米穀店の60代店主は「それでもコメがないというほどではない」としながらもこう語る。
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