( 286749 )  2025/04/28 06:11:48  
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陸自の予算増額に伴って防衛予算全体が増加しており、それにより海空自衛隊への配分比率が不明瞭になっている。

2022年版の防衛白書から陸海空の予算配分比が消えたことで、防衛予算増額にあるいかがわしさが浮き彫りになっている。

白書から配分比を削除した目的は、陸自予算の増額を隠すためであり、また陸自の権益保護を目的としている。

防衛予算の増額は実際には海空自衛隊向けではなく、陸上戦力への投資も増やしていることが示唆されている。

このような背景から、防衛予算増額の説明と実際の支出とが合っておらず、陸海空自衛隊の配分比率を不透明にすることで誤魔化しているとされている。

(要約)

( 286751 )  2025/04/28 06:11:48  
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陸上自衛隊の10式戦車。防衛費は増額されているが、増額され始めたとたん、陸海空別の予算配分比を防衛省が公表しなくなった(写真・陸上自衛隊ホームページ) 

 

 本来あるべきものが、なくなるのは不思議である。 

 

 もし、組合の収支報告が突然なくなればどう思うだろうか。設立からの30年間、収支の発表を律儀に続けていた。募金の使い道も毎回掲示していた。それが今年になって突然なくなったとなればどうか――。 

 

 やましいことがある、と考えるだろう。使い込んだか、別用途に使ったか、金銭事故を隠しているかを疑う。これは同業組合も労働組合も同じである。 

 

■『防衛白書』から消えた陸海空の予算配分比 

 

 2022年度以降の『防衛白書』も、その状態にある。これまで白書は陸海空の予算配分比を掲載してきた。それをしなければ陸海空自衛隊それぞれが、いくらずつ使っているのかがわからない。予算書を読んでも予算項目の関係からわからないからである。 

 

 それが、防衛予算増額の年に突然消滅した。2021年版までは「防衛関係費(当初予算の内訳)」として「経費別支出」「使途別支出」、そして陸海空配分比を示す「機関別支出」を提示していた。それが2022年度版で突然なくなり、以降そのままとなる。 

 

 なぜ、白書から陸海空配分比の項目を消したのか。 

 

 陸自予算の増額を隠すためである。政府は2022年には防衛費増額を決めたが、それは陸自予算をも増額する内容であった。金額ベースでは海空自衛隊の増額幅を超えている。それを隠すために配分比を消したのである。 

 

 これは防衛予算増額にある、いかがわしさも示している。まず、防衛予算増額の不健全を隠すことが目的だからだ。政府は防衛予算の増額を進めている。2023年度からの5年間で従来額の約2倍まで引き上げる予定としている。 

 

 理由は中国の脅威増大と、その対策としての海空戦力増強である。仮想敵国である中国は海空戦力の強化を続けている。このままでは海空自衛隊は絶対的な劣勢に陥ってしまう。それを避けるために防衛費を増額して、軍艦や戦闘機を強化する。そう説明している。 

 

 しかし、実態は異なっている。中国対策とならない陸上戦力への投資も増やしているからだ。増額幅は海空自衛隊向けよりも大きい。 

 

 陸海空配分比を隠すというのは、そういうことだ。配分比率は以前と変えず35%、20%、20%のままにしているのだろう。中国対策と無関係な陸自向け予算も増額した。それが明らかになると困るので白書から消したのだ。 

 

 

 陸自はざっと1兆円の増額である。増額前の2022年度までは1.8兆円、それが25年度には2.8兆円に増えた計算となる。ちなみに、海自と空自の増額幅は0.6兆円にしかならない。 

 

■防衛費増額のうそ 

 

 兵器調達も、陸自予算の増額を裏付けている。陸自の戦車や自走砲の購入規模も以前の2倍となっている。2025年度予算では10式戦車を12両、19式軽自走砲を14門買う予定である。これは防衛費増額直前となる2022年度予算の6両、7両のちょうど倍だ。 

 

 当然だが、戦車と自走砲は中国との対峙では役に立たない。 

 

 まず、離島防衛では使えない。大きいので隠しにくいため事前の爆撃で破壊されてしまう。仮に生き残っても上空は制圧されているので動けない。これは硫黄島の戦いが示すとおりである。 

 

 また、離島侵攻にも使いがたい。上陸戦で使うには重すぎる。それよりも先に兵員や装備、補給物資を上陸させなければならない。持っていっても揚げるのは最後であり、その頃には戦闘は終わっている。フォークランド紛争ではそうなった。 

 

 使えるのは、日本本土に攻め込まれたときだけだ。それも、陸自は内陸決戦戦力と位置づけている。敵部隊の上陸が成功し、内陸侵攻が始まるまで後方に待機する発想である。それからすれば肝心の上陸海岸での戦いへの投入は消極的となるだろう。 

 

 ちなみに、中国には日本に侵攻する兆しはない。そもそも選択肢とならない。まず、日本侵攻で得られる利益はない。また、日米同盟が相手であり、中国にとって実現可能な選択肢でもない。加えて、高い敗北リスクから許容できない軍事行動である。 

 

 趣旨違いも甚だしいということだ。国民や国会に向けた防衛費増額の説明と、実際の防衛費支出は全然合っていない。そういってよい。だから配分比の項目を抹消したのである。 

 

 次に、権益保護の目的を隠すためだからでもある。防衛費増額は陸自をはじめとする既存権益の保護策でもある。その不純に気づかれたくない。これも配分比の発表をやめた理由である。 

 

 なぜ、政府・防衛省は陸自向け予算も増額したのだろうか。今の中国との対峙には陸上戦力は役に立たない。それにもかかわらず従来以上の予算額とした。それはなぜか。 

 

 

■対中国抑止に役立たずでも増額 

 

 陸自権益を保護するためである。 

 

 本来なら、中国対策は海空自衛隊への傾斜配分でよい。中国の脅威とは中国海空戦力の脅威である。それへの対抗策も日本の海空戦力増強だからだ。 

 

 実際にそれが合理的選択となる。今までの防衛費5兆円でも海空戦力は1.5倍にできる。陸自向け予算を1.8兆円から半分の9000億円に減らす。その9000億円を海空自衛隊に半分ずつ分ければ、海空の予算規模は1兆から1.45兆円に増やせる。 

 

 そうすれば国民経済への負担は生じない。すでに日本では、こども食堂が出現・常態化するほど生活状況は悪化している。安全保障よりも社会保障が優先すべき事態である。防衛費増額どころではない。 

 

 予算の効率的使用の観点からしても正当である。同じ防衛費なら強力な防衛力を、同じ防衛力なら安価な防衛費を追求しなければならない。 

 

 それにもかかわらず、政府・防衛省は防衛費全体を増額する選択をした。 

 

 陸自に迎合した結果だ。政治力を持つ陸自を抑えきれず、その権益に配慮して傾斜配分方式をあきらめさせたのだ。 

 

 傾斜配分は陸自の利益と衝突する。陸自の隊員数が、師団以下の部隊数が、そしてなによりも大事な将官や連隊長のポストが減る事態だからである。そのため陸自は対抗策を講じてきた。 

 

 陸上戦力の必要性を強調するのはそれゆえである。以前の定数18万人、今の定数15万人から1万人でも減らせば日本の防衛はなりたたない、いつもそう言う。ちなみに、日清戦争まで日本陸軍は平時4万から7万人でしかなかった。 

 

 政府方針と真逆の増員案をぶつけることもした。これは民主党政権時代ではない。政権交代直前に自民党が陸自の削減と海空への付け替えを検討した際の抵抗である。 

 

 そして、なによりも政治力の涵養と発揮である。昔から陸自は国会に出身議員を送り込み、その力で海空傾斜配分を阻止しようとしている。 

 

■1980年代から海空重視が高まったが… 

 

 本格化は海空重視論が高まる1980年代以降である。鈴木善幸首相、中曽根康弘首相が海空優先の予算編成を指示した。自民党の金丸信幹事長、藤尾正行政調会長が党内で主張し始めた時期である。 

 

 それに危機感を抱いた陸自は政治力の増強に努めた。1980年代には職場で後援会加入用紙が回ってきたとの話がある。ノルマは7人であり、公務員の政治的中立性への配慮から「家族が一番問題ないだろう」とのアドバイスつきだったという。 

 

 

 最近でも事情は変わらない様子である。筆者は2010年に自衛隊統合部隊に所属していたが、参議院選挙直前に指揮官の陸上自衛官が「自衛隊のためには誰がよいのか考えて」と朝礼で発言したのを覚えている。海自では「棄権しないように」以外は言わないので驚いたが、陸自隊員によると「いつものこと」だった。 

 

 つまりは、防衛費増額は陸自の政治努力が結実した結果なのである。それが、配分比の発表を取りやめた理由でもある。防衛費増額は陸自権益の確保である。それが明らかになると困るのだ。 

 

 なお、防衛費増額は同時に防衛産業の権益保護でもある。とくに官需なしでは生きていけない航空産業への配慮だ。今の企業規模を維持するには新戦闘機GCAP(Global Combat Air Programme)の開発継続は必須だ。その巨額の開発費支出を今後維持するために防衛費を増額した側面もある。 

 

 防衛産業の政治力はいうまでもない。各企業が自衛隊OBを顧問に迎えるのも、与党に献金するのもそのためである。また、政治力行使の実績もいうまでもない。予算折衝で財務省にダメ出しされた高額兵器が大臣折衝で復活に成功する背景である。 

 

■安保3文書の虚構 

 

 安保3文書(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)も、その1つである。実際は防衛省の買い物リストでしかない。防衛産業が政府に求める兵器調達の計画を出発点として、そこから計画を逆算し、さらにその計画を必要とする脅威判断を逆算して作り出した文書でしかない。 

 

 真面目に取り合う代物ではない。それらしい専門用語を駆使して防衛力増強の必要性を説いているのはだましでしかない。原子力発電所の維持を前提に、電力コストを逆算する経産省の将来エネルギー構想と同じである。 

 

 さらに、追及されることを回避したいからだ。上記1つ目、2つ目で挙げた問題点を国会や新聞に追及されるのを避けたい。そのために攻撃材料となりうる陸海空自衛隊の配分比を隠したのだ。 

 

 では、防衛省が一番恐れている事態とはなにか。説明がつかないことである。政策、判断、支出以下について合理的に説明できない事態を病的に恐れる。とくに大臣や首相が国会や記者会見で回答に窮し、さらに間違いを認める事態は避けなければならない。防衛官僚はなによりもそう考える。 

 

 

 
 

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