( 286764 )  2025/04/28 06:30:00  
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BYDが2026年までに日本市場に軽自動車を投入すると発表したが、軽EVではなく、日本メーカーにとっての本当の脅威は3つの要素がある。

1つは中国車のイメージの低さ、2つめは市場や消費者の特性、3つめは販売チャネルの問題である。

軽自動車市場では、価格や実用性が重視され、日本メーカーはそれに合わせた車を提供している。

しかし、BYDがこれらの要素を見誤る可能性があり、日本市場に影響を与える可能性がある。

現時点で、鈴木貴博はBYDの軽自動車投入についてこれらの要素を考慮し、日本メーカーは準備をしておく必要があると述べている。

(要約)

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BYDが日本にもたらす本当の脅威は、来年やってくる「軽EV」ではない… Photo:JIJI 

 

 BYDが2026年末までに日本の軽自動車市場に参入することを発表したのを受けて、前編記事では、“低め”に推定してもBYDの「軽EV」が国産車と比較して圧倒的に高い性能を備える可能性について解説しました。では、日本独自のガラパゴスな軽自動車市場はすぐに蹂躙されてしまうのでしょうか――。否、筆者は「BYDには日本車と比較して劣位な点が3つある」と言います。しかし、安心はできません。なぜなら、日本メーカーにとっての「本当の恐怖」は、「軽EV」ではないからです。(百年コンサルティングチーフエコノミスト 鈴木貴博) 

 

● BYD「軽EV」は そこまで脅威じゃない? 

 

 一番目は中国車のイメージの低さです。これについてはあらためて申し上げるまでもないでしょう。本稿では、二番目と三番目の問題について詳しく説明させていただきます。 

 

【前編】《残念ですが、国産車では足元にも及びません…BYDの「軽EV」と国産首位・日産サクラの圧倒的な性能差》はこちら 

 日本市場でどんな人が軽自動車を買っているのか。外国人ビジネスパーソンは一般的に「日本とは東京、大阪だ」と捉えています。そのような外国人には軽の市場はかなりわかりづらいはずです。 

 

 ひとことで言えば、軽トラックやボックスカーなどの軽商用車の需要は都会にもありますが、軽乗用車は主に地方都市の郊外ないしは農村部で売れています。軽商用車は充電インフラの問題で都市部では当面ガソリン車にかなわないので、BYDの市場は主に軽乗用車になると推定できます。 

 

 では郊外や農村でどのような人がどのようなライフスタイルで軽乗用車を購入しているかというと、世帯の中で主に女性が二台目需要として購入しているケースが多いのです。サクラがEV不毛地帯の日本で例外的に売れているのはこれが理由です。世帯の一台目としてはSUVなど大型のガソリン車ないしはHV車(ハイブリッド車)をすでに所有しているので、二台目は主に近場の移動だけに使えればいいと割り切れるのです。 

 

 

 軽自動車は価格が安く、かつ税金など維持費が安いことも売れている理由です。その観点で価格を優先し、長距離を走らないために車内の広さや乗り心地をある程度を犠牲にできる。さらに言えば外見のおしゃれさよりも、サイズぎりぎりの真四角に近いフォルムで、荷物がたくさん積めるほうがいい。これが売れ筋です。 

 

 その結果がホンダのN-BOXが日本市場での売れ筋1位という理由です。四角くてカラーリングだけお洒落で、実用性とコスパが何よりも優先されるということです。 

 

 可能性としてはBYDがここを間違えてくれる可能性があります。実用性よりもブランドイメージを重視して、レトロデザインでお洒落な車体をヨーロッパのデザイナーを起用して設計してくれれば、売れ筋モデルよりもコストが高い車が設計されます。ミニクーパーやプジョーのようなフォルムだったり、ワーゲンバスみたいな凝った外装にしてくれれば日本モデルのコストはあがります。 

 

 コスパだけを考えたら本当は中国の宏光ミニEVのような最低限の装備で見た目がダサい車でもいいのです。いろいろなものをそぎ落としたうえで、中国で80万円のモデルを日本市場で120万円で投入したほうがよほど日本車には脅威になるはずです。しかしBYDはブランド全体のイメージを上げたいのでここを間違えてくれる可能性があります。 

 

 さらにこういった軽ユーザーのマジョリティは一軒家で自宅にガレージがあります。ですから充電インフラは自宅ガレージの100V電源で十分です。日産サクラの場合、100Vで1時間約7km、一晩で約50kmは走行できます。 

 

 たとえば、山間部にあるわたしの実家からは市の中心部のスーパーまで片道20km弱で、それが日常の生活圏です。毎日自宅で充電して、毎日40kmぐらい走れれば十分なので、たとえBYDが走行距離の長さをアピールしても、軍配が日産のサクラに上がる可能性は十分にあります。 

 

 

 ちなみに以前の記事でも書きましたが、私は BYDのドルフィンを所有しています。購入したときに少し不便だと感じたことは、テスラと違ってBYDには200V用の充電ケーブルしか付属していないのです。日本のユーザーの大半が自宅ガレージには100VのコンセントしかないことをBYDはご存じないのかもしれません。 

 

 そして、三番目の障壁としてチャネルの問題があります。これまでBYDは日本では高価格車戦略を採用してきたので、ディーラー網も主に都市に集中しています。しかし軽自動車のユーザーは地方都市から郊外にかけて多いのです。 

 

 首都圏にお住みの方でも週末に郊外に出かけてみるとわかりますが、都心を離れてどんどん山間部に走っていってもかならず、スズキの看板を掲げた整備工場が見つかります。実は軽自動車の販売チャネルはディーラーだけでなく、こういった地域に根付いた整備工場やガソリンスタンドが兼ねているケースも多いのです。これを業販チャネルと言います。ビジネス用語で言い換えるとディーラーの代理店ということになるでしょう。 

 

 このような全国をくまなく網羅できる業販チャネルはBYDが一から構築するのは大変な手間でしょう。ひとつの手としては既存の業販ではなく、ホームセンターやヤマダ電機などを新規の業販チャネルとして開拓することはできないことではないでしょうが、過去、似たようなトライをした会社はことごとくうまくいっていません。 

 

 鬼手としては、たとえばスバルに軽の販売を全面委託するといった、日本の自動車メーカーとの大型業務提携は有効かもしれません。スバルは現在では日本および北米市場でレヴォーグなどのSUVにフォーカスした事業展開をしていますが、以前は自前で軽自動車を製造していました。現在ではダイハツのOEMの軽自動車を販売しています。当然ながら過去に開拓した業販チャネルは健在です。 

 

 いずれにしても現在のBYDジャパンのディーラー網では、軽自動車市場のコアとなる消費者にリーチすることが難しい。ここがBYDの日本戦略のボトルネックになりそうです。 

 

 

● BYD「軽EV」の次に来る 「破壊的イノベーション」とは 

 

 さて、このように考えるとBYDの軽自動車投入は、日本車メーカーが過剰に警戒する必要はないかもしれません。ただ想定外のものが入ってくると、この前提が崩れて大混乱になる可能性があることは忘れないほうがいいでしょう。 

 

 たとえば、もし2026年の軽のEVに続けて、2027年あたりにBYDが軽のプラグインハイブリッドを出してきたらどうでしょう。 

 

 今のところプラグインハイブリッドはコンパクトカーには不向きです。中国市場でもBYDのPHEVのラインナップに小型車はありません。世界で見てもVWのゴルフがプラグインハイブリッドを出しているのが、一番小さいモデルではないでしょうか。 

 

 とはいえ、モーターショーでは小型のプラグインハイブリッドはコンセプトモデルとして発表されていて、技術的にはできないことではないでしょう。そういった想定外のヒット商品が生まれることで日本人もBYDを「ありかも」と考え始めるのは怖いシナリオです。 

 

 想定外のものが入ってくるという観点でもっと怖いのは、宏光ミニEVと類似したスペックの軽EVで日本市場に参入するケースです。走行距離が170kmぐらいとサクラよりやや劣る一方で、日本での販売価格が税込110万円だったとしたらどうでしょう。 

 

 そして、発売される頃にはトランプ関税のせいで世界が大不況になっていたとしたら?ガソリン代が高騰し、生活が苦しくなる日本で、ガソリン車の最安値モデルと同じ価格で燃費が良いEVが補助金付きで買えるとなると、心が動く日本人の消費者が出始めるかもしれません。 

 

 日本の自動車メーカーにとって一番怖いのは、BYDがイノベーションのジレンマで言うところの破壊的イノベーターの位置づけを確立することです。安かろう悪かろうだと思っていた消費者が、いざ使い始めてみると「この安さでこの性能なら十分じゃないか」と考え始め、いつのまにか低価格市場が破壊的イノベーター製品に占有されてしまうという事態です。 

 

 さて、本当のところ、来年の今ごろ発表されるであろうBYDの軽自動車の新車情報を見ないことには、どのような黒船がやってくるのかはまだわかりません。自動車の開発サイクルを考えると、現時点でもうそのスペックは固まっているはずです。どのシナリオで黒船が来たとしてもうろたえずに立ち向かえるように、一定の準備は必要だと私は思います。なめてはいけません。 

 

鈴木貴博 

 

 

 
 

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