( 287226 ) 2025/04/30 05:37:03 0 00 剛力彩芽さん
俳優の剛力彩芽さんはラジオパーソナリティーの顔も持ち、未来の社会について考える番組を担当している。おもしろく、楽しく伝えたいという思いの源にあるのは、「今の子どもたちは、私の世代が当たり前にできていたことがどんどんできなくなっていっている」という危機感だ。「子どもたちが生きる未来の地球のために、私たちにできることがあるんじゃないか」と話す剛力さんに、SDGs(持続可能な開発目標)との向き合い方や企業へのメッセージなどを聞いた。(一部敬称略)
――俳優として活躍しながら、ラジオパーソナリティーとしてSDGsや未来をテーマにした番組の司会を務められていますね。
「2020〜22年にニッポン放送で、SDGsについていろいろな分野のゲストを招いて学ぶ番組のパーソナリティーをしていました。オファーをいただいたときは『SDGsというワードを聞いたことがある』というレベルでしたが、知っておかなくてはならない知識だと感じていたので気になっていた。初回のゲストはSDGs研究の第一人者で、『ミスターSDGs』として有名な慶応義塾大学大学院の蟹江憲史先生でした。蟹江先生の説明がすごく楽しくて、わかりやすくて、難しい話だと思っていたSDGsが『あれっ意外とおもしろい』と一気にハードルが下がったのを覚えています」
「今の子どもたちって、夏が暑すぎて外で遊べないなど、今まで私の世代が当たり前にできていたことがどんどんできなくなっていっている。今の子どもたち自身が考えていくことも必要かもしれませんが、私たち大人が昔の良いところを知っているからこそ、それを次の世代に伝えていかなければと思っています」
「姉に女の子が生まれて、最近だんだんと意思疎通ができるようになってきました。一緒に遊ぶと私のことを『アメメ』と呼んでくれて本当にかわいいです(笑)。姪っ子の未来を思ったら、やっぱりこれからの地球を生きていくのは彼女たちだから、そこに少しでも私たちにできることがあるんじゃないかと。1人の力で何か一気に大きく動くわけではありませんが、未来を変えていくのは1つの意識や地道な行動だと強く感じます」
――昨秋からは未来の社会のためにさまざまなトピックについて専門家と語り合うラジオ番組がスタートしました。硬派のテーマから柔らかい話題まで、専門家のお話を自分の言葉でかみ砕いてわかりやすく引き出しているのが印象的です。
「専門用語も横文字も得意なわけではないので、『そのワードって何?』と引っかかってしまうと先に進めなくなってしまう。なじみのない用語も、例えば生活の中ではこういうことですというようにわかりやすくして、さらに『それすごくおもしろいじゃん』と興味を持ってもらえたら最高です。サステナビリティーと言われると取っ付きにくく感じてしまいますが、おもしろく、楽しいところを見いだせないかといつも考えています」
「そもそも話を聞いて、ふに落ちないと納得できない性格なんです。どんな話でも自分の解釈と相手の方の思いを考えて、『これで合っていますか』と咀嚼(そしゃく)していく。だから直接会って、目を見て話をすることがすごく好きですね」
――学校でも授業でよく手を挙げて発言されたんじゃないでしょうか?
「全然でした。人見知りだったので……。それだけに自分の中で相手の意図をくみ取って解釈する技術やスキルが鍛えられたのかもしれません。今は『こうですか』と聞けるようになって、ラジオの仕事に生かせているので、人見知りでよかったかもしれません(笑)」
「話を聞いて、ふに落ちないと納得できない性格」と語る剛力さん。どんな話でも自分の解釈と相手の思いを考えて、「これで合っていますか」と咀嚼していくという
――俳優とラジオパーソナリティーは頭の使い方も体の動かし方も異なるのではないかと思います。
「お芝居はまったく違うキャラクターになるおもしろさがあって、そのキャラクターを通して、物語を通していろんな思いを伝えられるところが自分にとって大事だと感じています。ラジオは剛力彩芽として出られて、特に今の番組は自分が興味のあることをテーマにできる」
「でも基本的にはお芝居もラジオも一人の人間として何かを知ることができたらうれしい、楽しいということと、周りの人にも『こういうことなんだ』と知って喜んでもらいたいということがつながっていると思います。そこから何か得ていけるものがあればいい」
――お芝居でどんな役をやっていきたいか、方向性はありますか?
「基本的には来るもの拒まずという考え方ですが、強い女性を演じたいという思いがあります。最近、プロレスラーを演じる機会をいただきました。女性活躍に注目が集まっていますが、私は女性も男性も関係なく、強くいられたらいいなと思う。自分自身の強さを持っているからかっこいいというキャラクターを演じていきたいです」
男性だから、女性だからではなく、その人自身を大切にしてコミュニケーションすることがポイントではないかと剛力さんは指摘する
――「強い女性」というのは社会性の高いテーマですね。
「私はテレビ局で仕事をすることが多く、出演する方が控え室にお母さんを呼んで、自分のお子さんを見てもらっているという場面をよく見かけます。そういうことはヘアメイクさんやマネジャーさんといったスタッフの方はなかなかできない。例えばテレビ局の中に託児所があれば、お父さんもお母さんもすぐに駆け付けられる。そうすると男性も女性も仕事がしやすくなって、性別による偏りがなくなっていくのではないかなどと想像を巡らせています」
「ポイントはコミュニケーションではないかと感じます。男性だから、女性だからではなくて、『あなたはこういう強みがあるから、この仕事を任せるね』と、その人自身を大切にしてコミュニケーションする。女性活躍推進も、やらなくてはいけないと考えると楽しくない。『こういうふうにしたらおもしろいよね』『こうしたらいいのでは』とコミュニケーションできるといいのではないでしょうか」
――コミュニケーションを出発点にすると解決の糸口が見えてきそうです。
「私は『受け入れる』という言い方が好きではありません。『受け入れる』というのは『こうでなければいけない』と考えることだと思うんです。だけど誰にでも受け入れられないものがある。それぞれの価値観、考え方があるから、私は『受け止める』という言葉を使うことにしています」
「相手の思いを受け止める。相手がこう思っているんだと受け止めたうえで、否定せず、私はこう思っているときちんと伝える。相手の全てを受け入れる必要はなくて、『あなたの意見は理解できる。だけど私はこう思う』とお互いに受け止め、認め合えたら、コミュニケーションしやすくなるのではないかと思うんです」
剛力さんがSDGsや未来について考える原点には、次の世代のためにという思いがある
――剛力さんがSDGsや未来について考える原点には、次の世代のためにという思いがありました。
「Z世代といわれる20代の若い人たちとラジオで会うと、SDGsについて学校で勉強しているし、知識も豊富で、きちんと自分事として当たり前になっています。それに比べると私たち30代以降は知識がまだまだ少ないです。そういう人たちにもっとSDGsやサステナビリティーについて伝えていきたい」
「ただ、未来のことを考えなくてはいけないけれど、古き良き時代も好きだし、すべてをなくしたいわけではありません。未来と過去を織り交ぜたハイブリッドな世界をつくれないか考えながら、ラジオの番組づくりを進めています」
――読者のビジネスパーソンのみなさんにメッセージをお願いします。
「何か行動するときに一つでも選択肢が広がることが大切だと思っています。最近、着物に興味があるのですが、そうした伝統的な日本文化は継承に課題を抱えている。難しい問題ですが、企業のテクノロジーの力で支えていくことができないかと感じます。私の好きなアパレルブランドが、シャンパンボトルの廃棄コルクをリサイクルした素材を靴底に使ったシューズを作っていて、こんなふうに人間にとって不可欠な衣食住をつなげた取り組みがもっと増えるといいなと思います」
「SDGsに関心を持ち始めたころに『洋服を買わない』という選択肢も考えたんです。でも好きな洋服を諦めることは無理がありました。長く着られる素材やデザインを選び、自分が本当に気に入った服を大切することもサステナブルで、そうして自然体で取り組めることもサステナブルだと考えるようになりました」
「このあいだスーパーの納豆売り場で一番手前の賞味期限が早いのを買おうとして『待てよ』と。3個入りパックで、賞味期限が来るまでに私はそんなに連続で納豆を食べないし、食べる前に賞味期限が切れてしまう。そうだとしたら、賞味期限が長いのを買って食べられる期間を長くした方が、私自身が捨てる可能性は減るなと思い至りました。自分に合った賞味期限を考え、選ぶのも一つのサステナブルな選択肢なんです」
ごうりき・あやめ 1992年神奈川県生まれ。2008年〜2013年、雑誌「SEVENTEEN」専属モデルとして活躍。2011年、「大切なことはすべて君が教えてくれた」(CX)で本格的に俳優デビュー。以後、ドラマ・映画・CM等で幅広く活躍。4月12日23時40分から放送開始のドラマ「ミッドナイト屋台〜ラ・ボンノォ〜」(東海テレビ・フジテレビ系)に出演。6月2日から公演の東京喜劇 熱海吾郎一座 新橋演舞場シリーズ第11弾「黄昏のリストランテ~復讐はラストオーダーのあとで~」にも出演予定。
(聞き手は若狭美緒、撮影は矢後衛)
|
![]() |