( 287314 ) 2025/04/30 07:11:14 1 00 2020年からの3年間、高校時代にマスク生活に慣れすぎた若者たちがいます。
特に高校生活をコロナ禍で送った若者たちは、「マスク世代」と呼ばれ、マスクを「お守り」と感じています。
一部の若者は「マスク依存」と呼ばれ、外見にコンプレックスを持つ場合に強く現れるとされています。
若者たちにとって、マスクの装着や外すことは社会的な規範や周囲の期待とのバランスが難しいと指摘されています。 |
( 287316 ) 2025/04/30 07:11:14 0 00 2020年からの3年間、高校時代にマスク生活に慣れすぎたのがいまの大学生だ(写真:アフロ)
新年度が始まったが、今なおマスクを着用する若者は少なくない。新型コロナウイルスが広がり、マスクが必要になって5年、慣れた若者からは「なかなか外せない」という声が聞かれる。だが、常態化すれば、表情によるコミュニケーションへの影響も無視できない。なぜ外せないのか。どんな影響があるのか──。コロナ禍に学校生活を送った「マスク世代」の大学3年生から新入社員の社会人までの10人と、外見問題や養護教育の専門家らにインタビューした。(文・写真:Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
女子栄養大学3年生の畠中悠洋さんは、この5年間、外出時には必ずマスクを着用している。
新型コロナウイルスがはやりだした2020年が高校入学の年で、2023年の卒業までの3年間がすべてコロナ禍だった。2020年4月、緊急事態宣言などもあり、高校の入学式は約2カ月遅れた。入学すると、生徒全員がマスクを着用した。教室では人数制限があり、校内ではソーシャルディスタンスが徹底されていた。
「教室には5人しか入れないみたいな感じで、しばらくは時間差登校でしたね。学校で出会う人も少なかったし、みんなマスクだし。最初は友達関係を築くのが難しかった」
と当時を振り返る。結局、高校生活の3年間がマスク生活となった。
カバンにつねにマスクを携帯している人も(写真:アフロ)
そんな彼女にとって素顔で人前に出ることは、今も心理的ハードルが高い。バッグには替え用のマスク数枚を常備し、街中でも大学でも必ずつけているという。
「たまたまマスクを外して出かけて、店にある鏡などで素顔の自分を見たら『やばいっ。つけなきゃ』ととっさに思う。外で素顔をさらした状態だと、『人に今見られているんだ』と思って不安になってしまいます」
同じサークルに所属する矢島里紗さんも、外出時には常に「つけてる派」。彼女たちの周囲でも3〜4割の学生が常時マスクを着用している。
そんなマスク着用の背景には、表情管理の容易さもあると矢島さんは言う。
「口の動きとかも感情が出ちゃうし、素顔では顔面全部に気を使わなきゃならない。外に出ているのが目だけだったら、ギリごまかせる」
マスクに慣れすぎてしまった子も少なくない(写真:アフロ)
マスク生活に慣れすぎたせいで、マスク下で口が開いたままかもしれないという不安は常にある。
「今日やる気出ないっていう日は表情にまで気を使いたくない。つけていたほうが楽ですね」
こんなふうに、「素顔の自分より、マスク姿のほうが慣れている」「マスクが体の一部」「つけたほうが楽」という新しい日常が、若者の間で静かに広がっている。
高校や大学など学校生活のほとんどをコロナ禍の3年間(2020〜2022年)に過ごした世代を「マスク世代」と称する向きがある。コロナ禍で「(昼食時の)黙食」「修学旅行中止」など、さまざまな制約が課され、学校では基本的にマスク装着を必須とされた世代だ。彼らに共通するのは、マスクを「お守り」のように感じていることだ。素顔をさらす不安から守ってくれるアイテムとして、「つけていると安心」と口をそろえる。
2020年4月から5月に配布された通称「アベノマスク」。効果も乏しく、あまり使われなかった
彼らの多くが経験しているのは「見た目ギャップ」での驚きと恐れだ。
関東の国立大学に通う4年生の男子学生が、高校2年時のことを振り返る。
「マスクをしているのが当たり前という時期、1学年下の後輩が高校に入ってきたんです。で、食事時にふとマスクを外した彼の顔を見たら、『あ、こんな顔してたんだ』と。口と鼻を隠しているだけでこんなにイメージが違うんだと驚いたんですよね」
彼は新鮮な驚きと受け止め、「見た目ギャップ」をネガティブには捉えていなかった。
それに対して、女子学生のほうは、マスクあるなしの「見た目ギャップ」に対して否定的な感覚があった。前出の矢島さんはそのギャップを見られるのがつらかったと語る。
「高校の時、女子の間で男子のうわさ話をしていて、『彼はマスク外したら意外と……』みたいな会話がしょっちゅうあった。ということは、逆に男子から私たちもそう思われているかもしれないなって。そう思ったら、外すことがすごく大変」
だからこそ、恋愛での苦労話も多い。恋愛関係を築く際、相手にいつ、どのように素顔を見せるか、という問題があるようだ。
マスクを外すのに抵抗感を覚える人も(写真:アフロ)
地方の私立大学3年の優里香さん(仮名)は、コロナ禍に知り合い、交際に進んだ異性にはマスクを外すのに段階を経ていったと振り返る。
「付き合う時に最初から素顔で会うのは恥ずかしくてできませんでした。なので、『私の素顔、これです』みたいな感じで、インスタグラムとかにあげている写真でマスクしてない顔を見せ合った。お互いそれに慣れていった。恋愛関係は、そこから新たに築く感じでした」
「外見」をテーマとする東京未来大学こども心理学部の鈴木公啓准教授
体形や装いなど「外見」をテーマとする東京未来大学こども心理学部の鈴木公啓准教授らがコロナ禍に行った「マスクの着脱の背景にある心理」についての研究がある。その研究によれば、マスクの装着には男女で意識の違いがあったという。女性は「見た目」や「身体醜形懸念」(見た目の欠点などを過度に気にする傾向)が強く影響する一方、男性は、「公的自意識」(周囲から見られている自分への意識)や「対人不安」といった、他者からの評価を気にする心理が関連していた。鈴木准教授が言う。
「相関係数(関連性の強さを示す指標)を見ると、マスクを外す不安に対し、女性の場合は身体醜形懸念が0.34と関連が見られたのに対し、男性では0.15。逆に男性は公的自意識が0.30、対人不安が0.24と関連を示しました」
鈴木准教授は、女性は外見に関する意識、男性では外見に限らない対人的な意識がマスクを外す不安の背景にあり、男女での傾向が異なっていたと説明する。
マスクを外せない人を「マスク依存」と呼ぶ表現もある。マスク依存には軽度から重度まで幅があるが、「顔にコンプレックス」がある場合、マスク依存につながりやすい可能性がある。
前出の優里香さんは、中学3年からつい最近までマスクをつけ続けたが、それは口元にコンプレックスがあるためだった。
「あまり口角が上がらないので思いっきり笑えなかったんです。周りの目が気になって、マスクは全然外せませんでした」
全員がマスクをつける時期に高校生活を送り、「卒業アルバムで初めて素顔を知った同級生も結構いた」。優里香さんがマスクを外せるようになったのは、大学に入ってメイクを本格的に始めるようになったからだという。
より深刻な経験を持つのが、漫画家のはつきななこさん(25)だ。彼女は中学2年から高校3年まで、コロナとは関係なくマスクを外せなかった。きっかけは友人から「二重あごになってるよ」と言われたことだった。
2022年1月に、「さよなら、マスク」という漫画作品を発表したはつきななこさん
「2018年頃は誰もマスクをしていない時代だったのに、暑い日でもしている私は異様な子だった」
中学時代は、昼食時は口に放り込む時だけマスクを一瞬外して、噛む時はまたつけて食べていたが、高校では「ご飯も食べないし、お茶も飲まない」ほど外せなかった。修学旅行でも「寝る時も起きる時もマスク」という生活を送っていた。「外せない理由が自分でもわからなかった」と当時を振り返るが、「誰かに『うわ、こんな顔だったんだ』と思われるのが怖すぎた」と言う。
彼女はマスクを外せない苦しさから高校を「途中で転校」するも改善せず、最終的に「コロナ禍に整形で全部コンプレックスを直した」ことで外せるようになったという。はつきさんは、2022年、編集者に「はつきさんにしかできない物語を描いてほしい」と頼まれ、昔、マスクが外せなくて苦しかった自身の実話をもとに、「さよなら、マスク」という漫画作品を発表した。
はつきさんの読切漫画作品「さよなら、マスク」の一コマ。コロナが収束した後の世界でマスクを外せない二人の女の子の話だ。
優里香さんとはつきさんの二人に共通していたのは、顔のコンプレックスだ。また「外すきっかけを失っていた」という点も同じだった。優里香さんはメイクが、はつきさんは整形が、それぞれ外すきっかけとなった。
二人のケースにあてはまるかどうかはわからないが、前出の鈴木准教授は、「重度のマスク依存で困っている場合は、心理士・師や精神科医などの専門家に相談するのも一つの方法」と言う。
「自身の容姿の欠点にとらわれてしまう『醜形恐怖症(身体醜形障害)』。その研究は日本ではあまり進んでいません。患者自身が心理的な問題と認識せず、また当人が困っていることが少ないこともあって、心療内科などに相談に行くことは少ないようです。しかし、適切な対応が必要な場合があります。子どもについては親が気にかけて適切に対応することが必要となる場合もあるでしょう」
複数の学生は、日本社会特有の規範意識の高さがマスク常態化の背景にあると指摘する。
筑波大学4年の真司さん(仮名)は、「国民性なのか、マスクをつけるほうが社会的に正しいという刷り込みが今でもある気がします。飲食業や学校関係者、公務員などは比較的つけている人が多い」と感じている。
同大の同級生でイギリス留学中の加藤緑さんは「現地ではマスクをしている人はほぼいない。つける文化がそもそもない」と日本人との差異を感じている。また、つい最近、日本のある高校のSNSでたまたま職員室を大掃除する様子の動画を見たというが、「職員室の先生たちは、ほぼ全員マスクをしていたのに驚きました」と、そこにも日本人の気質を見たような感覚があったと話す。
「外すべき」「つけるべき」といった規範の二重性に最も翻弄されるのは、周囲の期待に敏感な子どもたちだ。コロナ禍でマスク生活を強いられ、頑張ってその生活に順応してきた若い世代ほどマスクとの関係は複雑だ。
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