( 287819 )  2025/05/02 06:43:15  
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大阪・関西万博が開幕し、経済波及効果は2兆円から3兆円と言われている。

大阪経済界では1970年の万博以来の開催であり、地元経済の起爆剤として期待されていた。

関西経済は不透明感が漂う中でインバウンドが活況で、万博成功を経済再生につなげることが重要とされている。

来場者数や経済効果の予測は試算が出ており、関西経済の成長が期待されている。

大阪経済界は万博のソフトレガシーを活用し、経済成長につなげる施策も進めている。

(要約)

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(Mirko Kuzmanovic/gettyimages) 

 

 紆余曲折を経て、大阪・関西万博が4月13日、ついに開幕した。開催による経済波及効果は2兆円とも3兆円ともいわれ、地盤沈下が続いていた関西経済の起爆剤としての期待から、1970年大阪万博以来55年ぶりの開催は地元経済界の悲願だった。 

 

 関西経済は、米国のトランプ政権の関税政策の影響などで先行きに不透明感はあるが、インバウンドの活況が続き、中心地・梅田で大規模再開発が進むなど好調ぶりが目立っている。経済の再生と成長を確かなものにするため、まずは万博を成功させ、万博会場と同じ夢洲(大阪市)で計画されるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)まで勢いを持続させる必要がある。 

 

 万博開幕日、朝からの冷たい雨は開門の午前9時にぴたりと止み、どんよりとした雲の隙間に青空ものぞいた。オフィシャルテーマソング「この地球(ほし)の続きを」の生演奏が流れる中、ファンらが続々と入場。大阪府の吉村洋文知事や、関西経済連合会の松本正義会長(住友電気工業会長)ら関西の政財界のトップが笑顔と拍手で出迎えていた。 

 

 初日の入場者数は午後からの豪雨もあり、事前予約を2万人下回る11万9000人だった。開幕2、3日目は初日から半減して不安視されたが、その後は増加傾向となり、開幕11日目の4月23日、スタッフを含めた来場者数は100万人を超えた。 

 

 万博は10月13日までの会期中に計約2820万人の来場を見込む。運営費の大半は入場券収入でまかなうことになっていて、赤字になるかならないかの損益分岐点は1840万枚に設定されている。開幕前の前売り販売数は目標の1400万枚に届かず、970万枚だった。 

 

 関経連会長の松本氏は開幕後、4月15日の定例会見で、万博の成否について「単純に、万博に来られる方の人数でまずは評価される」と言及。「1500万人しか来なかったら失敗だったといわれる。2820万人来たらオッケーで、それ以上ならよくやった、となる」と語った。 

 

 

 来場者数については、「想定の半分のペース」として厳しい見方を示すメディアもあるが、松本氏は「楽観的にみている」と公言している。その理由は関西に大挙して訪れているインバウンドで、万博は想定来場者数計約2820万人のうち350万人を海外客としている。この数字を巡り、松本氏は2025年に日本を訪れるインバウンドを4000万人とした場合、その4割の1600万人が関西を訪れ、万博会期の半年間で最大800万人が会場を訪れる期待があるとしている。 

 

 関西では万博を好機として、インバウンドの受け入れ態勢拡充が着々と進んでいる。関西に立地する3空港「関西国際空港」「大阪国際(伊丹)空港」「神戸空港」のうち、神戸は4月に国際化。関空は開港以来最大規模のリニューアルの主要部分が3月に完成し、空港全体での国際線旅客受け入れ能力は年間4000万人と、18年度実績の約1.7倍に拡大した。発着上限も引き上げられ、年間発着枠は23万回から30万回と成田空港並みになる。今後、伊丹の国際化の議論も進むことになりそうだ。 

 

 インバウンドも追い風に、万博開催の経済波及効果について、経済産業省は2兆9000億円と試算。民間シンクタンクのアジア太平洋研究所(APIR、大阪市)は2兆7457億円と試算し、関西全体をパビリオンに見立て、さまざまな経済活動を広域で展開する「拡張万博」が実現できれば、効果は3兆3667億円まで膨れ上がるとの見方を示す。 

 

 来場に伴う消費額の予測も強気のものが出ている。りそな総合研究所は約1兆円に上ると試算し、関西で新たに発生する需要は5670億円で、関西の実質域内総生産(GRP)を0.34ポイント押し上げる効果を見込む。その効果は関西だけにとどまらず、全国でも8570億円の経済効果が生まれるという。 

 

 ただ、試算された経済効果を享受するためには、インバウンドのホテル需要への対応が重要となる。関西では人手不足のため稼働率を上げることができないホテルが増えており、宿泊客が関西以外に流れれば期待される効果は得られなくなってしまう。 

 

 一方、万博に沸く大阪では、経済活動の中心地である梅田で、1期地区「グランフロント」と合わせて20年以上を費やしてきた再開発が大詰めを迎えている。3月には、JR大阪駅北側の再開発区域「うめきた2期(グラングリーン大阪)」で商業施設やホテル、オフィスが入居する「南館」が開業。都市公園と隣接した開放的なオフィスで、大手企業の拠点が続々と入居している。 

 

 関西経済同友会の永井靖二代表幹事(大林組副社長)は「世界と万博会場をつなぐ結節点となる駅前広場が大阪の玄関口にオープンすることで、万博の成功に向けた機運がますます高まる」と期待。エリアには、スタートアップの支援拠点もあり、大学や研究機関も集まって新産業創出に向けた連携強化を目指していることから、永井氏は「国際競争力を持ったまちづくりの先導役として、持続可能な社会の実現に寄与するランドマークとなる」と強調した。 

 

 再開発エリアは南館のオープンで全体の約7割が開業。27年度に全体のまちびらきが計画されている。 

 

 

 「東京一極集中」へのコンプレックスをぬぐい去るまでには至っていないが、万博を契機に経済成長のターンに入った関西。その勢いは人口移動の状況からも見て取れる。 

 

 総務省の住民基本台帳人口移動報告と、りそな総研の試算によると、関西の人口が、25年に実質的に52年ぶりに転入者が転出者を上回る「転入超過」となる見込みだ。東日本大震災の影響があった11、12年を除き、転入超過は73年以来となる。 

 

 人口移動報告によると、関西は転出超過が続いていたが、16年から改善が続き、24年は転出超過だったものの規模は438人にとどまり、前年比で2000人以上改善。りそな総研は、16〜24年の回復基調が顕著であり、そのトレンドが継続していることから、25年は転入超過となる可能性が高いとみている。 

 

 関西と比較される東海は、主軸の製造業が関連の人口を引き付ける力が低下していることから転出超過の傾向が強く、18年には関西が東海を逆転。半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の誘致に成功した九州も人口移動の改善はみられず、東京以外では関西の勢いが目立っている。 

 

 関西の人口移動の回復の要因は複合的なもので、まずはインバウンド市場の急拡大が大きい。24年は2.5兆円規模と過去10年で2兆円拡大し、インバウンドに関連する飲食やサービス業も好調だ。 

 

 さらに万博や、同じく夢洲で30年に開業が予定されるIRもあり、インバウンドとの相乗効果への期待が高まっている。コロナ禍以降の企業でのテレワーク拡充や、東京首都圏と比べて生活や事業のコストの低さも後押しする。 

 

 関西経済は1970年大阪万博を境に、公共インフラへの投資不足やバブル経済崩壊などで長期にわたり低迷した。名目国内総生産(GDP)に占める関西の割合は70年度の19.3%をピークに低下。現在は15%程度で推移しており、その期間は人口減少期とも重なる。 

 

 その反省から関西経済同友会は、今回の万博で生まれた技術やアイデアなどソフト面のレガシー(ソフトレガシー)を残す取り組みを始動。在阪の企業経営者ら約150人で構成する万博レガシー委員会の南和利委員長(りそな銀行副社長)は「万博のレガシーを経済成長に活用する設計が十分でなかった」と語る。開幕後の会場での調査などを踏まえて、来春にソフトレガシーを残すための提言を発表する。 

 

 関西の経済成長に向けて、万博を興行的にも成功させることがまずは重要となるが、そこから約5年のタイムラグが発生する30年のIR開業まで、勢いを持続させるための方策が求められる。 

 

井上浩平 

 

 

 
 

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