( 287986 ) 2025/05/03 05:02:27 0 00 (Hakase_/gettyimages)
コメの値上がりが止まらない。コメの仲介会社クリスタルライスのまとめによると、秋田あきたこまちや関東あきたこまち、関東コシヒカリの取引価格は前年同期の2倍以上となっている。政府備蓄米が放出されても値下がりする気配が見られない。スーパーで販売される精米価格も同様で、農林水産省の発表では、最高値の更新を続けている。
一向に値下がりしない米価へ消費者の不満もさらに募っており、農水大臣が謝罪する事態にまでなっている。なぜ、コメの価格は下がらないのか。歪な農政や産業構造を表出させている。
コメの価格が下がらない原因は、需給のタイト感が薄れていないからだ。需給状況が最も簡単にわかるのは民間在庫のデータを見ることである。
農水省の発表によると、今年2月の在庫数量は205万トンで、前年同月に比べ39万トン少ない。昨年は新米との入れ替わりが起きる端境期の7月から9月にかけてスーパーの店頭に並ぶ精米がなくなり急激に価格が上昇したが、今年の在庫は昨年よりも少ないのである。
ただし、今年は政府備蓄米の売却や国のSBS(売買同時契約)と呼ばれる入札制度の枠で輸入された外国産米、関税支払いの外国産米の輸入という新たな供給量が加わる。需要量を昨年並みとみれば、6月末の民間在庫は増加するものと見込まれる。
コメの需給分析に詳しい業者のシミュレーションでは、政府備蓄米が3回目から毎月10万トン売却され、外国産米の輸入量が6万トンになるとすると、今年6月末の民間在庫は158万4000トンになると見込まれ、昨年より5万トンほど多くなると予測している。しかし、米穀業界では6月末の適正在庫は180万トンとみており、タイトな状況から抜け出すとは言えない。市中価格が値下がりしないのもこうした需給見通しが反映しているためとみられる。
メディアは連日のように備蓄米がどこに置いてあるのか、スーパーや米穀小売店をまわって、限られたところにしか置いていないことを報じている。これは備蓄米を買い受けた全農が取引契約のあるパートナー卸に優先的に販売しているためで、多くは大手コンビニのベンダーや大手量販店、大手外食企業に販売されており、中小のスーパーや米穀小売店にはまわって来ない。
実際、農水省が公表した備蓄米の販売数量等の報告結果によると、3月17日から30日までに備蓄米落札業者(全農・全集連)から卸に引き渡された備蓄米は落札数量21万トンのうち1%の2761トンに留まっている。
農水省が定めた備蓄米の売買契約の約定では、落札業者(全農等)は「原則として玄米販売は行わない」ことになっており、全農等から玄米を買い受けた卸も原則玄米販売は行えないことになっている。このため玄米仕入を基本としている米穀小売店は備蓄米を仕入れることができなかった。
4月14日に開催された農水大臣と全米販、スーパーの団体など流通業者の意見交換会には、日本米穀商連合会や東京都米穀小売商業組合といった米穀小売店の団体の代表者も入っており、農水省に対して備蓄米が仕入れられないことを強く批判した。こうしたこともあって農水省は4月16日付で売却要領を改正して米穀小売店が玄米仕入できるようにした。早速、日米連は自社のホームページで玄米購入が可能になったことを告知した。
玄米販売の禁止を定めているのは農水省だけではない。備蓄米を受けた全農も販売先の卸に対して「条件備蓄米のお取扱いについて」と題するA4版23ページにもなる冊子を配布し様々な流通ルートの図を示し、赤字で玄米販売が禁止される事例を示している。さらにはQ&Aは28項目にもわたり、こまごまとした規制について触れている。
こうした規制を設けるのは玄米の転売で備蓄米が値上がりするのを防ぐためだとされているが、実際はどうだったのか?
農水省が4月18日に公表した備蓄米の販売等の報告書で、流通段階ごとの価格を示している。全農から卸への販売価格は60キログラム(㎏)当たり2万2402円で買い受け価格との差額が約1000円であることから、農水省は「必要経費だけを上乗せした価格設定で販売された」とし、農水大臣は会見で「全農は備蓄米の利益を取らず」と話している。
しかし、全農は、金利は農林中金、運送は全農物流、発注はアグリネットサービス、卸売りは全農パールライス、小売りはAコープとして、いずれの流通段階でもJAグループの企業を活用している。これで、「全農としては利益を取らない」とよく言えるものだ。
また、卸から中食・外食や小売業者への販売価格は3万4023円であった。これについても農水省は「転売目的の価格操作が見られる水準ではない」と評価している。1俵1万2000円も上乗せして販売しているのだから、備蓄米を購入した卸は笑いが止まらないはずである。
もっとも一番笑いが止まらないのは当の農水省だろう。なにせ23年産、24年産を平均1俵1万3000円で買い入れた備蓄米を2万1217円で売却したのだから1俵当たり約8000円の利益があったことになる。今回、解放した21万トンで280億円もの巨利を得たことになる。
国民の税金を使って安く買って、税金を使って減反して供給量を絞り、価格を釣り上げて高く売るのだから、消費者国民は税金を払った上にとんでもない高いコメを買わされているのだから目も当てられない。
新潟県のコメ輸出協議会が台湾に出向いて、日本米の輸出商談をした際、日本側が現在の国内事情を説明して25年産米の輸出価格の大幅値上げを要請すると、台湾側から「よく日本では暴動が起きませんね」と皮肉を言われたという。主要食糧が2倍の価格になっても暴動や騒乱が起きないのは日本ぐらいのものだろう。
備蓄米を売却しても価格が下がらない最大の要因は何と言っても「買戻し条件」が課せられていることだ。備蓄米の買い受け業者は買い受けた数量と同数を国に返さなくてはならない。
備蓄米の売却は計画通りに進むと61万トンになり、買い受け業者はこの数量を国に返納することになる。こうした取り決めがあるためこのまま行くと今秋収穫される25年産米は主食用米の価格が高くなることが避けられない。
実際、早々に全農各県本部は「最低保証価格」という表現で1俵2万円以上の概算金を生産者に示しており、この価格が最低ラインとなり、民間業者との集荷合戦が繰り広げられることになる。7年産でなく、複数年で返納するという見方もなされているが、返納することには変わりなく、主食用米の価格の下支え機能を発揮することになる。
25年産主食用米価格が下がらないことから深刻な影響を受ける業界がある。それは清酒や焼酎、米菓、味噌、米穀粉、包装もちなど伝統的なコメ加工食品業界だ。加工業界が使用する酒米やもち米、加工用米といった原料米の生産が大幅に減少すると予想されている。
加工原料米を生産していた生産者が価格の上昇している主食用米へ生産をシフトしていることが確実なためだ。原料米取扱業者からは、25年産の加工原料米は3割から5割減少するのではないかという見方も示されている。危機感を持ったコメ加工食品業界団体が農水省へ対策を講じるように要請しているものの、農水省からは具体的な対策は示されていない。
歪なコメ政策は国民に不必要な負担を背負わせている。それだけでなく、コメ関連事業者を顧みずに、中小業者の多いコメ加工食品業界は存続の危機に立たされている。
熊野孝文
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