( 288564 )  2025/05/05 05:42:49  
00

永谷亜矢子氏は、2024年の訪日外国人観光客の増加にもかかわらず、日本の観光業界において収益がきちんと得られていないと指摘している。

観光業界では働き手の不足や低い給与、価格設定の課題などがあり、地方では特に深刻だとされる。

この問題の解決には、地域の参入障壁の見直しなど、様々な取り組みが必要とされている。

『観光〝未〟立国〜ニッポンの現状〜』という著書で、この現状を明らかにしている。

(要約)

( 288566 )  2025/05/05 05:42:49  
00

永谷さんは「人は来ているけどきちんとお金が落ちていない。特に地方はその傾向が強い」という現状は歯がゆくて仕方ないと言います(写真:hashimoto/PIXTA) 

 

2024年の訪日外国人観光客は、数も観光消費額も過去最高記録を更新。好況に沸くインバウンドに大きな期待が寄せられる一方で、「日本の観光業界は、きちんと稼げていない」とシビアな現実を指摘する声もある。 

発するのは、立教大学客員教授の永谷亜矢子氏だ。 

永谷氏はリクルートで、広告営業マンや編集者としての誌面作りを経験。ファッションイベント「東京ガールズコレクション」には立ち上げから関わり、後に移籍した吉本興業ではPRを統括し、海外での番組制作も経験した。 

 

そんな「異色の経歴を持つ叩き上げ」にとって、「人は来ているけどきちんとお金が落ちていない。特に地方はその傾向が強い」という現状は歯がゆくて仕方ないと言う。そんな思いを1冊の本にまとめたのが新刊『観光〝未〟立国〜ニッポンの現状〜』である。 

 

本記事では、同書を再編集しながら、日本の観光業界が抱える問題点を解説する。 

 

■観光客は来るのに、働き手がいない 

 

 インバウンドにしても、日本人による国内旅行にしても、日本の観光業がこれから伸びていくことは、あらゆる統計が物語っています。 

 

 「またとない商機」ですが、観光地から見たときにそれを「受け入れる体制」が整備されているとは言い難い現状があります。 

 

 たとえば、ある地方のビジネスホテルや旅館には、何を仕掛けたわけでもないのに大勢の観光客が押し寄せるようになりました。普通に考えたら、喜ばしいことです。 

 

 ところが、折からの円安で外国人労働者が日本で稼げなくなってしまったことで労働者の数が減り、シーツやベッドカバーを交換するリネン係がいなくなってしまいました。 

 

 その結果、「部屋は空いているのに、人手不足で現場を回せないから客室を2割ほど締めざるをえない」という状況になったのです。 

 

 これは、観光業界に蔓延する「人手不足」「機会損失」の問題がわかりやすい事例ですが、話は宿泊事業者の従業員不足だけにとどまりません。 

 

 観光コンテンツの作り手、売り手、現地での受け手まで、すべてにおいて人材が不足しています。 

 

 「果てしない担い手不足」とも呼べるほどの人的リソースの欠如によって著しい機会損失が常態化しており、「稼ぐ機会」も「稼ぐ力」もモノにすることができていないのです。 

 

 

 この問題は、特に地方において深刻です。 

 

 「日本で今、なにが起きているのか」。まずは、現状を説明していきたいと思います。 

 

■観光業界で働く人たちの給与・報酬が安すぎる 

 

 私が学生の頃から、たとえば大手旅行会社のJTBは「就職したい企業」で常に上位にランクインするほど人気企業でしたが、旅行会社は人気がある一方で「給料が安い」とも言われ続けており、それは今もあまり変わっていないようです。 

 

 また、航空会社は比較的賃金が高いと言われ、CAやパイロットは憧れの職種でしたが、コロナ禍によって深刻な経営難に陥ると、社員を家電量販店への派遣や、給料の大幅カットなどがありました。 

 

 コロナ禍が明けた今でも、航空業界の給与は市場において厳しいという状況で、CAは雇用形態も「社員ではない契約」が増えたと聞いています。 

 

 日本の宿泊業も、すべてではないですが従来「給与が低い業界」と言われており、観光業の新たな担い手として注目されるDMO(Destination Management/Marketing Organization)ですら結局は自治体の委託金で運営されるので、組織の中で頑張ろうが頑張るまいが給料は変わらない仕組みです。なおかつ、私が見てきた限りでは、相対的に低賃金のようです。 

 

 しかし、現実の観光の現場では、けっして「稼げない話」ばかりではありません。 

 

たとえば、別の記事(日本の観光業を苦しめる「“安すぎる”値付け」問題)でも紹介したように、熊野古道のガイドさんが1人で何人も相手して山道を案内しても、報酬は7時間で1万5000円という話がありますが、一方で昨今の富裕層ツーリズムではエージェントを使って日本に来るようなお金持ちが少なからずいます。 

 

 彼ら彼女らは、気に入ったガイドを指名して案内してもらい、滞在中に1000万円落とすこともザラです。ガイドさんに渡るチップも1回の旅行で数十万円、なんて話を聞いたこともあります。 

 

 

■地域の「参入障壁」を見直すことも必要かつ重要だ 

 

 今の日本がやりがちなのは、「値付けができずに安く出しすぎてしまっている」ということ。地域の人が提供するアクティビティが「地元民のなんとなくの感覚」で値段がつけられていて、安すぎたりしています。 

 

 「飲食店を経営しながら観光コンテンツを売っているようなケースが多いから、適切な値付けがわからない」「ずっとその地域にいて『俯瞰してみた本当の価値』がわからなくなってしまっているから、高く売れない」という状況を招いてしまっているように見えます。 

 

 「地域の人しか知らない沢を上る」「少し歩くとサンセットがきれいなビューポイントがある」「透き通るような渓流でカヌーが楽しめる」など、「本当は3万円で売れるかもしれない観光コンテンツ」を3800円で売ってしまっていることもあります。 

 

 そのため、そこでしかできない素晴らしい体験やエクスクルーシブな体験は、もとより高い価格で売れるかもしれないのに、先んじて「3800円で売ります」という事業者が台頭してしまうから新規参入もしづらい状況になっているのです。 

 

 地方の過疎化や外国人労働者の減少という問題ももちろんあるのですが、こうした地域の「参入障壁」を見直すことも、これからの観光業界に必要で重要なことではないでしょうか。 

 

 このような小さな見直しを進めていくことが、観光業界の「給料安すぎ」「稼げない業界」の解決にもつながっていくと思います。 

 

永谷 亜矢子 :立教大学客員教授 株式会社an代表取締役 

 

 

 
 

IMAGE