( 289084 )  2025/05/07 06:26:18  
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為替市場の経済ニュースと生活者の感覚が乖離する理由や円安・円高の影響について考察されている。

「円高は物価が下がるから」とする生活者の声が多い中、企業側や経済ニュースは円安を歓迎する傾向があり、その背景に企業側の情報源があることが指摘されている。

物価高に苦しむ個人や生活者の視点が適切に反映されず、経済政策の決定に影響を与える構造が問題視されている。

(要約)

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AERA 2025年5月5日-5月12日合併号より 

 

 物価高や為替、金利など、刻々と変わる私たちの経済環境。この連載では、お金に縛られすぎず、日々の暮らしの“味方”になれるような、経済の新たな“見方”を示します。 AERA 2025年5月5日-5月12日合併号より。 

 

*  *  * 

 

 どうして為替市場の経済ニュースは、私たち生活者の感覚とこれほどまでにずれているのだろうか。 

 

 先週、円高が140円台まで進んだが、歴史的に見ればまだまだ円安水準だ。それなのに「円高で企業収益に懸念」「円高が進むと利上げを見直す必要」など、まるで円高が経済にとっての敵であるかのようなニュースがちらほら見え始めている。これがもし1ドル=90円というような水準なら話は別だが、140円台で懸念を示すことには驚きを隠せない。 

 

 円安は長い間、日本経済にとってプラスだと信じられてきた。確かに昨年は1ドル=160円台まで円安が進んだ。しかし輸出量そのものは伸びておらず、円ベースでの売り上げは増えても、輸入コストが大きく上昇したため、多くの生活者にとってはマイナスの影響が目立った。円安が進む中で、食費や電気代を含む日常生活に必要なものの価格が軒並み高騰していることは誰もが実感しているはずだ。 

 

 先週、1ドルが140円を割り込んだタイミングで、インスタグラムで質問をしてみた。 

 

「円安と円高、どちらがうれしいですか?」 

 

 約2500人の回答者のうち、実に72%が「円高の方がうれしい」と答え、その理由の7割以上が「物価が下がるから」としている。一方で「円安の方がうれしい」と答えた28%の人たちは、その大半が「外貨資産を多く保有しているから」と回答している。つまり、外貨投資をしていない多くの一般的な生活者にとっては、円安など百害あって一利なしなのだ。 

 

 テレビの情報番組では、ここ数年ずっと物価高騰の話がされているのに、経済ニュースになると途端に円安歓迎の論調に変わる。この情報の偏りには強い違和感を覚えるが、その理由は極めて単純だ。経済ニュースの情報源が主に企業側にあるからだ。 

 

 物を売る企業側としては物価が高いほうが望ましいが、最終的に物を買う生活者にとって物価は低いほうが助かる。円安が進んでも輸出量自体が伸びていないのだから、「円安が企業にとって好ましい」というニュースは結局のところ「企業は物価が高いほうが好ましい」ということを言っているに過ぎない。その裏側には、物価高に苦しむ多くの個人がいることを忘れてはならないだろう。 

 

 しかし問題はさらに深刻だ。政策決定の際に政府が参考にするのは、主に企業寄りの有識者から得られる情報ばかりだ。だからこそ、長年「円安こそが正義」とされてきた。最近になって急激な物価高が起きて初めて生活者の視点が重視され始めたが、こうした危機的な状況にならなければ、生活者側の意見は聞き入れられない。有識者会議のメンバー構成を見れば、経済情報の偏りは一目瞭然だ。 

 

「企業が儲かれば個人の給料が増えるから問題ない」といった主張を信じる人は、もはやほとんどいないだろう。円安の恩恵で多少給料が増えても、それ以上に物価が上昇しているため、多くの人が生活の苦しさを実感している。経済とはいったい誰のためのものなのか、改めて考える必要があるのではないだろうか。 

 

※AERA 2025年5月5日-5月12日合併号 

 

田内学 

 

 

 
 

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