( 289089 )  2025/05/07 06:32:24  
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カスハラ対応アドバイザーの関根眞一さんは、具体的な事例を通じて、小さな会話がカスハラにつながる可能性があることを指摘しています。

例えば、常連客が無料の袋を要求して有料と知っているのに言わない場合、不快なやり取りが始まる可能性があることを示唆しています。

関根さんは、お客様に適切に対応するために、心の余裕を持ち、状況を冷静に判断し、上手に対応する姿勢が重要であると説いています。

このような対応が、上手なカスハラ対策につながると述べられています。

(要約)

( 289091 )  2025/05/07 06:32:24  
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ちょっとした会話が、カスハラの入り口に。苦情・クレーム対応アドバイザーの筆者が、これまで実際に対応した事例をご紹介します(写真:Turn.around.around/PIXTA) 

 

今年4月から、カスハラ条例が東京都や北海道などで施行されました。条例では、事業者などの責務としてカスハラを防ぐための対応をすることが定められています 

しかし「世間を騒がせているわりに、カスハラの実態はあきらかになっていない」と、苦情・クレーム対応アドバイザーの関根眞一さんは指摘します。実際の現場では、どのようなやりとりが有効なのでしょうか。関根さんの著書『カスハラの正体-完全版 となりのクレーマー』から、一部抜粋・編集してお届けします。 

 

■常連客と持ち帰り袋 

 

 勤めていた百貨店を辞した後、私は自分で会社を興し、苦情・クレーム対応アドバイザーとしての仕事を始めました。おかげさまで繁盛し、さまざまな業界の相談ごとが持ち込まれます。 

 

 ご紹介するのは、ある高級嗜好食品店の常連客の話です。この方は、元々「カスハラ」の素質がある方なのですが、購入金額が多いため、店では上等なお客様と位置づけ、大切にされています。購入商品は、自宅用はもちろん贈答品も多いのです。 

 

 ある日のこと、ベテラン社員が新商品の試食販売をしていました。するとその方が来て、「それは知っている、すでに食べた」と言います。 

 

 今日発売されたばかりなので、そんなはずはないのです。ベテランが新製品の細かなポイントを説明していくと、返事がないことに不快感を持ったのか、「何をへらへらしているの」と言いました。 

 

 その社員も商品知識、接客業に長けておりますので、そのまま説明を続けます。客は再度、「何でそんなにへらへらしているのか」と突っかかります。社員は「いえ、へらへらはしておりません」と、柔らかく否定します。 

 

 これは、客の性格を知っているからできることです。 

 

 このようなことは稀にあることで、常連とベテランならではのやりとりとでも言うのでしょうか、周りで聞いている者からすると客を無視しているように見えますが、この常連客も会話自体を楽しんでいることがあるようです。 

 

■「あら、有料なの」 

 

 やがて、常連客は目的の品物を選んで、カウンターの販売員に会計を依頼しました。 

 

 その販売員は、まだ2カ月目のアルバイト。常連客は2品で5点ずつ計10点を購入、近所の知り合いにあげると会話をしています。先ほどのベテラン社員は、粗相がないようその経緯を注意深く横目で見ながら、新製品の説明をしていました。 

 

 

 お支払いの段になり、「4軒に配りたいの」というお客様に、アルバイトが「小分けの有料袋はご入用(いりよう)ですか」と、問いました。 

 

 「あら、有料なの」と返事。 

 

 「はい、1枚10円です」 

 

 これは、店舗名が入った贈答用の袋です。「いつもは、無料なのに」と、言う言葉に「あっ、ビニールの小分け袋でしたら、無料です」。 

 

 「それに入るでしょう」とお客様。 

 

 このやりとりを見ていたベテラン社員は、出る幕ではないと察し、見守りを続けました。 

 

 ただ、社員が商品をそのビニール袋へ個別にセットすることはしません。それは、無料の袋に詰めるという、時間のロスを避けるためです。大きな袋に10点の品と、小分け用ビニール袋4枚を入れてお渡しします。常連は、さすがにその店の販売員の行動を知っていますから、文句も言わず受け取り帰路につきました。 

 

 実は、このちょっとした会話「あら、有料なの」が、カスハラの入り口にもなるのです。知っているのに小分け袋をくださいと言う。無料の小分け袋をくださいとは言わない。 

 

 社員がもし、知らずに「有料になります」と言ったとしたら、どんな会話が続くのでしょう。客は「無料のはないの」と尋ね、そこで気づけば、または、他の社員に聞けばこともなく終わります。 

 

 ところが「ありません」と言ってしまったなら、「あなたは、知らないの。本当はあるのよ、未熟ね」と非難するに至ったのではないかと察します。 

 

 このやりとりから、たくさんの、「もし」が生まれます。そしてそれぞれの「もし」には、それ専用のうまい対応があるのです。 

 

■「うまい対応」とは?  

 

 仮に「以前来たときは、小袋は無料でしたよ」と言われたとします。「失礼いたしました。小袋は無料と有料がございます。贈答には有料袋が使われることが多いようです」と言った場合、顧客には嫌味に聞こえるでしょう。あとの言葉が蛇足です。 

 

 もう一度、返事をしてみましょう。 

 

 「以前来たときは、小袋は無料でしたよ」「失礼いたしました。小袋は無料と有料がございますが、大切なご贈答には有料袋をお勧めしています」と言えばどうでしょう。 

 

 

 その贈られる先の方との関係も知らずに、私を貧乏人扱いしたと感じ、攻めが始まる可能性があります。 

 

 この場合、「失礼いたしました。無料の小袋もございます」で、何も言わないのが正解なのです。 

 

 「贈答には、有料の袋を……」の言葉でイラッとしたお客様が、販売員の規定の動作に、「あら、無料の袋には、小分けにして入れてくれないの」と、カスハラを始めます。 

 

 この方は常に複数の買い物をしているので、販売員が小袋に小分けにしないことは知っていますが、売り言葉に買い言葉とでもいうのか、まずい展開になります。 

 

 人間には、切り返したいという思いが常にありますが、それを拭い去れるようにならないと、プロとは言えません。 

 

 大きな企業で、コールセンターに長く勤めている方なども、常時イラつきを抱いています。「一度でいいから言い返したい」と、アンケートに答えてくれた正直者もいました。 

 

 お気持ちはわかりますが、その考え方ですとやがてメンタル面を病むことになります。 

 

■「あなたのためです」 

 

 新製品の試食販売をしているベテラン社員なら、どう答えるでしょう。さすがに皮肉は言いません。 

 

 「小分けにしないの?」に対しては、「サービスの袋は、お客様に入れていただいています。また、大袋に入れたものを、ご自宅で小分けにして相手方に持参すると、袋に折り目も付かずきれいに見えますので、お客様のタイミングでお分けいただくのが最良と考えます」と言って、会話を切るのです。 

 

 暗にあなたのためです、と押し返すのです。 

 

 時代が大きく変わったこの10年、ビニール袋に限らず買い物の持ち帰り袋はほぼ有料になっています。 

 

 しかし、先に紹介した常連客は、意地を悪くしたら、新人アルバイトに「個別に入れないの」と言ったことでしょう。ベテラン社員は、大切な顧客に対し粗相がないように見守っており、いつでもバトンタッチができる状態にしていました。 

 

 もし何かあれば、やんわりと「こんにちは」と、入る準備をしていたのでした。 

 

関根 眞一 :苦情・クレーム対応アドバイザー 

 

 

 
 

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