( 289294 ) 2025/05/08 05:06:51 1 00 5月7日、大型連休が終わり、国会での与野党の攻防が終盤戦を迎える中、石破茂首相が首相官邸に入った。 |
( 289296 ) 2025/05/08 05:06:51 0 00 大型連休明けとなった5月7日に首相官邸に入る石破首相(写真:時事)
最大11日間という大型連休が終わり、国会での与野党の攻防は終盤戦を迎える。そうした状況下、石破茂首相の表情にはなぜか余裕と自信がにじんでいた。
石破首相の連休日程を見ると、4月27〜30日はベトナム、フィリピンを歴訪。5月1〜2日は首相官邸に陣取って、「トランプ関税」に関する交渉で訪米中の赤沢亮正・経済再生担当相と連絡を取り合うなど、ほぼ終日、公務に専念した。
今年の大型連休も「永田町の風物詩」とされる閣僚らの“外遊ラッシュ”が目立った。石破首相に加えて、閣僚19人のうち14人が海外出張にくり出し、さらに与野党議員の公費や私費での外遊も例年どおりに行われた。
こうした閣僚外遊などに対する苦言も相次いだ。国会での与野党攻防の調整役を務める立憲民主党の笠浩史・国会対策委員長は「物価高対策やトランプ関税に専念すべきだ」と口をとがらせたほか、与党内でも公明党の山口那津男元代表が「過半数の閣僚が国内にとどまるべきだ」と石破内閣への不満を隠さなかった。
■連休後半の静養にも批判の声
そして、石破首相は5月3〜6日に都内の高級ホテルにこもり、趣味の読書などを楽しみつつ静養した。この「高級ホテル静養」に対しても批判の声が相次いだ。
セキュリティー確保の点から、宿泊する部屋は当然スイートルームとなるが、ネット上では「庶民派を売り物にしている石破首相の金銭感覚を疑う」などの書き込みが目立った。その背後には、3月に発覚して国民的な批判にさらされた「新人議員への商品券配布」騒ぎがあることは間違いない。
連休中の石破首相の一連の行動へのさまざまな批判・不満も踏まえて、5月7日から始まった終盤国会における与野党攻防の最大の焦点は、やはり立憲民主党の内閣不信任決議案提出の可能性とその結末となる。
不信任案について最終判断を下す立場となる立憲民主党の野田佳彦代表は、メディアとの質疑や番組出演で「総合的判断が必要」と繰り返している。その理由について、野田氏は①アメリカとの関税交渉の展開次第だが、国難への対応中なら不信任で内閣の足を引っ張ることはできない、②他野党は出せというが、出したら必ず賛成するかどうかが不透明、などとしている。
政界関係者には「総合的判断というのは、結局、不信任案の提出を見送るサイン」との見方が広がる。次期参院選での躍進が予想される国民民主党の玉木雄一郎代表は「今回はもし野党がまとまれば(不信任案が)通り、そうなると憲法の規定上、内閣総辞職か解散総選挙ということになる。そのときに野党としてどうするのかを野党第1党がしっかり各党に示すべきだ」と注文をつける。それでも、野田氏は明言を避けている。
■首相の自信、理由はほかにも…
石破首相の余裕と自信の裏側には、こうした野田代表の消極姿勢があるが、それだけではない。連休中の次期参議院選挙をめぐる各種の情勢調査で「与党が過半数を維持する可能性が大きい」との分析が多かったことに加えて、各種世論調査の多くで内閣支持率は微増となり、支持率低下による政権危機が遠のきつつあるのだ。
もちろん、自民党にとって「政治とカネ」問題による逆風は依然として強く、多くの調査で次期参院選での予想獲得議席は改選数を大幅に下回っている。だが、非改選と合わせた総議席数では、少なくとも与党が過半数を数議席上回るとの予測が多い。
自民党内で実質的な最高実力者である森山裕幹事長は「続投支持」の意向を固め、高市早苗・元経済安全保障担当相を筆頭とする反石破勢力の動きも沈静化しつつある。その背景には、「少数与党となっている衆議院で野党が結束すれば、首相退陣後の自民党の新総裁は後継首相にはなれない」(自民党長老)との予測がある。
加えて、「トランプ関税」に関する日米交渉の決着が参院選後となる可能性があり、「その場合、野党も国益優先で政局の混乱は避ける」(立憲民主党幹部)とみられる。ここに来て石破首相が「交渉はゆっくり急ぐ」「せいては事を仕損じる」などの微妙な表現を繰り返すのも、「そうした状況を意識した言動」(閣僚経験者)とみる向きが少なくない。
一方で、今国会での石破政権の難問とされる「企業・団体献金」「夫婦別姓」の両問題は、野党側の足並みの乱れによって「決着が先送りとなる公算」(自民党幹部)が強まっている。
このため「次期参院選で与党が過半数を維持すれば、政治的選択肢は石破政権の続投」(政治ジャーナリスト)ということになり、それが「石破首相の自信と余裕につながっている」(同)のだ。
そうした中、石破首相は一時意欲を示した消費税減税について、連休中の自民党幹部らとの協議の結果、「いわゆる『減税』の実施は断念した」(自民党幹部)もようだ。
連休前の時点では、石破首相は「減税」について周辺に「政権を失うことを考えたら安いもんだ」と漏らしていたとされる。しかし、連休中には外遊先での記者会見など「税率の引き下げということは適当ではない」と否定した。
これについて、自民党内では「自民党税制調査会とタッグを組む森山幹事長が『減税はダメ』と強く要求したことが原因」(税調幹部)との受け止めが大勢だ。「森山氏を敵に回せば、政権維持は困難という実情を踏まえた判断」(同)というわけだ。
さらに、「石破首相の減税否定の裏には、立憲・野田代表の“変節”がある」との指摘もある。
首相在任時に消費税率の引き上げを主導した野田氏は、以前から「減税はある種のポピュリズム」などと、野党各党が掲げる減税案に否定的見解を繰り返してきた。その野田氏が党内の多数を占める減税派に妥協する形で「時限的な措置として食料品ゼロ%へと消費税を減税する」と方針転換したことが、同党に対する批判につながっている。
■「石破続投説」は定着するのか
石破首相は外遊から帰国した後、メディアの取材などに対して「消費税を下げたら党が割れかねない」と危機感を隠さない。参院選対策についても「減税よりも、ガソリン値下げやコメの高値の解消が最優先」などと語っている。
こうした石破首相の判断は「国難には毅然として対応し、人気取りよりもトップリーダーとしての決意と見識をアピールすることこそが、国民の信頼につながるとの考え方にたどり着いた結果」(自民党長老)とみられている。
ただ、政権維持への“前提条件”ともなる内閣支持率は「『微増』が『大幅上昇』に変わる可能性は低い」との見方が多い。このため「政局的には“石破続投”が唯一の選択肢だが、自民党内でも『このまま石破政権を続けるのは自殺行為』との声も少なくない」(政治ジャーナリスト)という。
現在の「石破続投説」がどこまで定着するかは依然として不透明だ。
泉 宏 :政治ジャーナリスト
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