( 289599 )  2025/05/09 05:21:46  
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笑いは組織内で重要な役割を果たし、ウェルビーイングな組織を築くために必要である。

笑いを組織内で生み出すためには、「空気を読んで、空気を作る」ことが大切だと又吉直樹氏は語った。

笑いはチームプレーであり、誰かが勇気を出して笑いを生み出す挑戦をフォローして、空気を共有することが重要と話している。

笑いは人の幸福感につながり、笑いを通じて緊張が解放されて人々がつながることも重要だと述べている。

又吉氏は空気を読むことがコミュニケーションや笑いを生む土台になるとし、空気を大切にする姿勢がビジネス、学校、家庭でのコミュニケーションを円滑にし、笑いを生み出す鍵になると述べている。

(要約)

( 289601 )  2025/05/09 05:21:46  
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ウェルビーイングな組織づくりを目指すうえで笑いの果たす役割は大きい。組織内で笑いをつくるにはどうすればよいか。お笑い芸人で作家の又吉直樹氏に、コミュニケーション学が専門の瀬沼文彰・西武文理大学准教授がインタビューした。実は2人は吉本興業の養成所(NSC)で学んだ同期。芸人として、作家として、そして「日常の観察者」として笑いと向き合い続ける又吉氏が語ったのは、笑いはチームプレーでつくるものであり、そのためには「空気を読んで、空気を作る」ことが大切――ということだった。(撮影は矢後衛) 

 

又吉直樹氏 

 

瀬沼文彰氏(以下、瀬沼氏) 本日はインタビューに応じてくださり、ありがとうございます。約20年ぶりになりますね。 

 

又吉直樹氏(以下、又吉氏) ほんとに久しぶりですね。まさかこういう形で再会できるとは。どんな話ができるか楽しみです。 

 

瀬沼氏 まず単純なところから伺いたいのですが、普段、又吉さんはよく笑う方ですか? 

 

又吉氏 そうですね、けっこうよく笑う方だと思います。なんかこう、人の個性がふと出る瞬間に、すごくひかれてしまうんですよね。ポジティブな意味で、その人の人間味があふれたとき、自然に笑ってしまう。昔はもうちょっと、ちゃんと作り込まれたネタとかが好きだったんですけど、30代半ばくらいから徐々に変わってきました。 

 

瀬沼氏 どんなふうに? 

 

又吉氏 街場のおじさんの話とか、酒場での何気ない会話とか。昔は「無駄が多い」とか「フリがない」とか言っていたような場面でも、今はふと笑ってしまうんです。そういう笑いって、「関係性の中で生まれる空気」が作り出すものなんですよね。作られていないように見えるけど、実はその人は関係性の作り方がめちゃくちゃうまい人だと思うんです。今は、そういう自然な笑いに心が動きます。こうした変化は食の好みの変化に似ているかもしれません。売れ始めた頃は、お寿司(すし)とか焼き肉とか高級でおいしい食事をたくさんしましたが、いまでは昔実家で食べていたような家庭的な食事が一番おいしいと思うようになりました。 

 

 

瀬沼文彰氏 

 

瀬沼氏 そういう自然な笑いって、職場や学校などでもすごく大事です。でも現実は、「笑わせる」ことはハードルが高く、「無理」と思い込んでいる人が多いんですよね。特に若い世代には、「滑ったら怖い」「変に見られたくない」という気持ちが強くて、自然に笑いを生むこと自体が難しくなっている気がします 

 

又吉氏 笑いってチームプレーで作るものなんですよね。あまり面白くなくても、誰かが勇気を出して笑わせようとするチャレンジ自体を、もっとみんなでフォローして、笑いとして成立させる雰囲気があったらいいと思います。誰かを孤立させることなく、受け止めて一緒に盛り上げることが大事です。 

 

瀬沼氏 なるほど、面白いかどうかという内容や質ではなく、その行為をリスペクトして認める。 

 

又吉氏 そうです。内容よりも、まず「みんなのためにやってくれたんだな」と思うと、笑いは成立しやすくなる。頑張ってる人を「すかす」ような雰囲気があると、場が冷めてしまいます。 

 

瀬沼氏 話を聞いていると、又吉さんは「空気」をすごく丁寧に見ているという印象を受けます。笑いを生むためには、その場の空気ってやはり大事なんでしょうか? 

 

又吉氏 めちゃくちゃ大事です。空気って、ただの雰囲気じゃなくて、そこにいる人たちの感情そのものだと思うんですよね。周囲の人がいま、どんな気持ちでいるのかを察して、その場と自分の関係性を感じ取ることが大切です。笑いのベースにあるのは、その場の空気を作ること、周囲の人との関係性を作ることだと思います。ある場でめちゃくちゃウケた話を、別の場所で話しても全然ウケないことってあるじゃないですか。あれって、まさに空気が違うからです。 

 

瀬沼氏 それは芸人としての経験から身についてきた感覚ですか? 

 

又吉氏 子どもの頃から自然にそうしていた気がします。姉が2人いて末っ子だったんですけど、家庭の中で誰かが怒られていたり、空気がピリついていると、僕が間に入って場を和ませようとしていました。そういう役割は自分のものだと勝手に感じ取っていたんですよね。その延長で、人の表情や話し方、タイミング、空気の緊張度合いとかをすごく見るようになりました。たぶん、それが今の仕事にも生きているのかもしれません。 

 

 

又吉直樹氏 

 

瀬沼氏 笑いって、人の幸福感とどれくらい関係あると思いますか? 

 

又吉氏 めちゃくちゃありますね。笑うことも、誰かを笑わせることも、幸福感につながります。たとえば、場が緊張しているときに自分が何か言って、周りがふっと笑ってくれたら、そこで空気が変わる。それって、自分が「受け入れられた」っていう感覚にもつながっていて、ものすごく救われるんですよ。 

 

瀬沼氏 自分も相手も、同時に解放される感じですかね。 

 

又吉氏 そうそう。僕の場合、子どもの頃からずっと息苦しさみたいなものを感じていて。その膜みたいなものを、笑いが破ってくれる感覚がある。だから今でも、笑いがない空間には長くいられない。緊張している状態から解放されて、ちゃんと呼吸できたって感じられる瞬間。それが笑いの力なんだと思います。 

 

小説を書くうえでも同じことを意識しています。日常生活を再現するリアリズムをベースに書いていますが、登場人物の緊張感が高まっていくと、どこかで笑いを与えて緊張状態から解放させてあげるようにしています。 

 

瀬沼氏 又吉さんは、すごく「観察している人」だという印象を受けます。昔のことも細かく覚えていますし、人の動きや表情もよく見ています。 

 

又吉氏 たしかに、観察はずっとしていますね。子どもの頃から、人の話し方、動作、間の取り方……全部見てしまうんですよ。たとえば飲み会の場で話題の中心にいた人が、別の人に注目が移ったときにどんな顔をしているかとか、よく見てしまいます。なんか「今、ちょっと寂しそうだな」(笑)とか、そういう隙が見えるのがすごく好きなんです。 

 

瀬沼氏 そこに人間味を感じると。 

 

又吉氏 そうですね。そうした瞬間に人をかわいいと感じます。そこにその人の魅力がある気がして、そういうところを見逃したくないっていう気持ちが強いですね。 

 

瀬沼氏 空気を読むって、忖度(そんたく)という意味合いが強くなり、今はちょっとネガティブに捉えられることもあるじゃないですか。でも又吉さんの話を聞いていると、それはすごく豊かなことに思えます。 

 

又吉氏 空気って周りの人がどんな気持ちでいるかだと思うんですよね。だから、僕は「空気を読むな」と言われるほうが、しんどいかもしれません。たとえば、「誰かが失恋した」という情報を知っていたら、その場で失恋のエピソードはやめとこうとか。相手の今の状態をちゃんと想像できるっていうのが、笑いにもつながるし、コミュニケーションの土台にもなります。それって特別な才能じゃなくて、意識すれば誰でもできることだと思います。 

 

ビジネスの現場や学校、家庭でも相手の気持ちを考える延長線上で空気を感じ取って、少しだけ笑える空間を作れたら、毎日がちょっと楽になるかなと思います。 

 

又吉直樹氏(またよし・なおき) 1980年大阪府生まれ。お笑いコンビ「ピース」のボケ担当。2015年に初の小説「火花」で芥川賞を受賞。その後も小説やエッセーなど多彩な著作を発表している。 2023年、10年ぶりのエッセー集となる「月と散文」を発売。近年では、YouTubeチャンネル「ピース又吉直樹【渦】公式チャンネル」、オフィシャルコミュニティー「月と散文」など幅広い分野で活躍を続ける。 

 

瀬沼文彰氏(せぬま・ふみあき) 西武文理大学サービス経営学部准教授。日本笑い学会理事、追手門学院大学 笑学研究所客員研究員。1999年から2002年まで、吉本興業にて漫才師としてタレント活動。専門分野は、コミュニケーション学、社会学。研究テーマは、笑い・ユーモア、キャラクター、若者のコミュニケーション。 

 

 

 
 

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