( 289629 )  2025/05/09 05:55:51  
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新入社員Aが欠勤が続いており、上司や人事部長とのやり取りが描かれています。

Aはオンラインゲームに夢中になり、朝寝坊のために会社を休んでいることが判明。

Aの欠勤をめぐり、無断欠勤と欠勤の違いや試用期間中の処置、年次有給休暇の取り扱いについて議論が展開されます。

最終的に、Aは上司とのやり取りを通じて、真意を話すことで問題が解決する展開となります。

(要約)

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写真はイメージです Photo:PIXTA 

 

 入社早々から「今日は会社休みます」と電話一本でひんぱんに休み始めた新入社員。理由を尋ねても黙り込むので上司たちは頭を悩ませますが……。「理由は言えないが欠勤、有休に振替希望」は通るのでしょうか。企業の労務管理の視点から、欠勤と無断欠勤の違い、試用期間中の社員への対応、年次有給休暇の扱いを解説します。(社会保険労務士 木村政美) 

 

<甲社概要> 

都内に本社があり、おもにオフィス用機器の販売とメンテナンスを扱っている。従業員数は300名。 

<登場人物> 

A:22歳の新入社員で営業課所属。夜通しでオンラインゲームにはまり朝寝坊ばかりしている。 

B:32歳。営業課長でAの上司。 

C:45歳。人事・総務部長。 

D:甲社の顧問社労士。 

● オンラインゲームが大好きな新入社員 

 

 「あーあ、かったるい……何とか4日間持ちこたえたわ」 

 

 4月上旬の金曜日。1週間の新入社員研修を終え、会社の門を出たAは大きく背伸びをした。 

 

 「よっしゃ。早く帰ってゲームに入ろう。今日こそは伝説の勇者を打ち負かすぞ!」 

 

 中学生の頃からゲーム好きだったAは、大学3年の時に友人の勧めで戦闘型オンラインゲームを始めた。4人でチームを作り、さまざまな敵と戦いながらポイントを稼ぎレベルアップを目指していくゲームで、毎週金曜日の21時に現れる伝説の勇者と戦い、勝利すると保有ポイントに関係なくいきなり5段階上のレベルに進むことができる。Aのチームは対戦成績が良く順調にレベルアップしていたが、伝説の勇者にだけは1回も勝てなかった。Aは伝説の勇者が繰り出す技の多彩さとかっこよさに尊敬の念を抱き、リアルで会いたいとも思っていた。 

 

● 欠勤が続くAを、上司が心配し…… 

 

 翌週の月曜日。仕事を終えて帰宅したAは、夕飯を済ませシャワーを浴びた後、いつものように夜中じゅうゲームを楽しんだ。明け方4時過ぎにベッドにもぐりこみ、目が覚めた時には8時50分。会社は9時始業なので、通勤時間から逆算すると7時40分には自宅を出ないと間に合わない。あわてて飛び起きたAはB課長に「あのう、会社休みます」と電話すると再び眠りに落ちた。 

 

 夜通しゲームに熱中するあまり、早起きができなくなったAは、その週の木曜日も休み、その次の週は月曜日と水曜日に欠勤。休みの多さを心配したB課長は、木曜に出勤してきたAを捕まえた。 

 

 「営業課に来てからまだ2週間もたっていないのに、4日も休むなんて、どうしたの?」 

 

 Aは下を向いたまま黙っていた。まさかゲームのしすぎで朝寝坊をしたとは言えない。B課長は心配そうにAの顔を覗き込んだ。 

 

 「もし体調が悪いのなら、今から早退して病院で診てもらいなさい。それとも仕事が原因?遠慮なく話してみてよ」 

 

 「それって話さないとダメですか?」 

 

 「当然だよ。ここは学校じゃない。毎回、『今日は休みます』とだけ言われてもねぇ……勝手な理由で休まれては困るからね」 

 

 しかし次の週もAは2日間欠勤した。理由を聞いても口をつぐんだままのAに手を焼いたB課長は、仕方なくC部長にその旨を報告した。 

 

● 「会社を休むにはそれなりの理由が必要」「休むのに理由は要らないはず」 

 

 4月下旬の月曜日。C部長はAを呼んだ。 

 

 「B課長から聞いたけど、君はたまに無断で会社を休んでいるそうだね」 

 

 「無断じゃありません。始業時間前までにはB課長に連絡してます」 

 

 「わかった。じゃあ、なぜ休むのか理由を教えてほしい」 

 

 「どんな理由で休もうが自由でしょう?」 

 

 Aの返答にあきれたC部長はため息をついた。 

 

 「あのね、会社を休むにはそれなりの理由が必要なの。理由が言えないんじゃ無断欠勤だよ。休んだ日の給料は出ないから、月給からその分をカットするけどいいの?」 

 

 「じゃあ、休んだ日は有休にしてください。有休の日の給料はカットされないし、休む理由を話す必要もないって、新入社員研修の時、C部長が説明してくれましたよね」 

 

 甲社の有休付与基準日は4月1日で、この日に入社した正社員にも10日の有休が付与される。有休の申請は前日までにすることと就業規則には定めているが、実態は社員が病気やケガなどで休んだ場合、後日会社と本人の双方が認めれば有休に振り替えることもある。Aの場合は仕事をサボるために休んでいるかもしれず、現状では振替に応じたくないとC部長は思っていた。 

 

 2人の言い争いはしばらくの間続いた。Aがその場を去った後、疲れ果てたC部長はソファに倒れこむように腰かけた。 

 

 「これは困った。どうすればいいかD社労士に相談しよう」 

 

 

● 「無断欠勤」と「欠勤」はどう違う? 

 

 次の日の午後。C部長はD社労士と面談し、Aの件について詳細を説明した。 

 

 「詳細はわかりました。まずは甲社の就業規則を確認させて下さい。会社としては、Aさんの扱いをどうしたいですか?」とD社労士が尋ねた。 

 

 「とにかく無断欠勤はやめてもらいたい。もしこの状況が続くなら、試用期間中ですがクビにするしかないでしょう。休まれてばかりじゃ仕事になりませんからね」 

 

 D社労士はC部長から就業規則を預かり、欠勤規定の内容を確認した。 

 

 「C部長の説明によれば、Aさんの欠勤届は規定通りに行われています。従って無断欠勤とは言えず、その理由で試用期間中に解雇するのは難しいですね」 

 

 D社労士は、無断欠勤と欠勤の違い、試用期間中の対応、有給休暇の取り扱いについてC部長に説明した。 

 

【無断欠勤と欠勤の違い】 

・無断欠勤とは会社に連絡を入れずに休むことで、欠勤は事前に許可を得てから休むことをいう。 

 

・就業規則には欠勤連絡のルールを定めている場合が多い。(例えば甲社の場合「欠勤する場合は、原則始業時間前までに直属上司に届け出なければならない」と明記している) 

・無断欠勤は、労働契約や会社の規則に反する行為として懲戒処分や普通解雇の対象になりうる。就業規則には「無断欠勤の場合連続○○日以上で懲戒処分及び普通解雇にする」と明記されている場合が多い。 

 

・Aのように、事前連絡さえ入れれば、何日でも欠勤していいかと言うとそうではない。理由にもよるが、本来の労働日に対して欠勤日数が多い場合は、労働条件の契約不履行(雇用契約時に締結した内容の労働を提供していないこと)として、就業規則による懲戒処分や普通解雇の理由として認められることがある。 

 欠勤と無断欠勤の違いは、会社に連絡を入れるかどうか。甲社の就業規則には「欠勤する場合は、原則始業時間前までに直属上司に届け出なければならない」と明記されており、Aはこれを守っていた。しかし、事前連絡さえ入れれば何日でも欠勤していいわけではない。理由によっては労働条件の契約不履行として就業規則による懲戒処分や普通解雇の理由となりうる。 

 

 「ウチだって、新卒社員を辞めさせたくはないですよ。A君の欠勤理由がわかればそれなりに対処できますが、私やB課長がいくら尋ねても『どんな理由で休もうと自由だ』と反論します。でも会社としては、休む理由を聞くのは当然ですよね?」 

 

 

 「はい。労働契約上の労働日に欠勤する場合、その日の契約が履行されません。だからAさんは欠勤する場合、会社に対して理由を説明する必要があります」 

 

 「やっぱり……。もしこんな態度を続けるようなら、試用期間中でも会社を辞めてもらうのは仕方がないですね」 

 

【試用期間中の欠勤について:Aの場合】 ・試用期間中の社員については、適性や能力を見極める期間であり、通常「解約権留保付労働契約」として扱われる。不適格と判断した場合は契約解除の権利を留保しているが、解雇には試用期間中なりに「客観的にみて合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要であり、この立証義務が免除されるわけではない。 

 

 

 ・Aのケースでは、週に2日欠勤している(労働契約違反)ことや、欠勤理由を上司に答えない(命令義務違反)ことから、就業規則に基づいての懲戒処分や解雇が考えられるかもしれない。しかしAは入社から1カ月以内の試用期間中であり、社会人経験が少ない新卒社員への教育責任がある。現時点ではじゅうぶんな教育をしているとは言えず、処分は無効になる可能性が高い。 

 

 「Aさんは、理由が不明のまま欠勤を繰り返した場合、労働契約違反により自分の人事評価が下がること、懲戒処分や普通解雇になる可能性があることを知らないと思われます。まずは就業規則に則り、説明することが大切です」 

 

 「わかりました。もう一つ質問があります。A君の要求通り欠勤した日を有休に振り替えなくてはいけませんか?」 

 

【欠勤した後、年次有給休暇(有休)に振り替えることはできるか】 

・欠勤日は原則「ノーワーク ノーペイ」である。 

 

・有休を付与する目的は、労働者が心身をリフレッシュし、生活の質を向上させることで生産性を維持・向上するためである。 

 

・上記の理由で、有休は原則労働者からの事前申請により付与される(申請する際、取得理由を伝える義務はない)が、実務的には病気やケガなど特別な事情の場合、事後申請(欠勤を有休に振り替えること)を可能としている会社もある。 

 

・ただし欠勤を有休に振り替える場合、本人の申請と会社の承認が必要。Aの例では、本人が有休を申請しても会社が認めなければ欠勤扱いとなる。 

 「欠勤理由がわからない以上、今の段階では有休への振替は認めません。でも、どうして頑なに理由を言わないのかなあ……」 

 

 

 「身体やメンタルの不調、社内の人間関係のトラブルなど、何か深い事情があるかもしれません。B課長にはAさんの様子を観察しつつ、本人が自分のことを話しやすい雰囲気を作るなど、指導に対するアドバイスをするといいでしょう」 

 

 D社労士からアドバイスを受けたC部長は、翌日Aを呼び、欠勤の理由が不明なので有休への振替はしないこと、欠勤扱いの場合、就業規則により給料から欠勤分の給料を差し引くことを説明した。Aはこれを承知したが、欠勤理由はやはり明かさなかった。C部長はAに、労働契約違反による処分対象になる可能性があることなどを話し、最後に「困ったことがあるならB課長に相談してごらん。彼は面倒見がいいから君の悩みをよく聞いてくれるはずだよ」と付け加えた。B課長にはD社労士からアドバイスを受けた内容をそのまま伝えた。 

 

● 思いがけないところで、思いがけない人に遭遇 

 

 金曜日の夜。Aは同僚と居酒屋で盛り上がった後、一人でカフェに入った。ホットコーヒーを手に席に着くと、すぐにタブレットを取り出し、ゲームのスタンバイを始めた。 

 

 「あと10分で夜の9時。伝説の勇者が現れる時間だ……あれ?」 

 

 ふと隣の席に目を移したAは、タブレット画面を見つめ一心不乱に指を動かしているB課長を発見した。 

 

 「課長、何してるんですか?」 

 

 声をかけたと同時にタブレットの画面をのぞき込むと、そこに映っていたのは間違いなく……。 

 

 「伝説の勇者って、課長!?」 

 

 Aの叫び声に顔を上げたB課長は手を止めて、かすかな笑みを浮かべた。 

 

 「伝説の勇者を知っているとは。まさかA君の欠勤理由は、このゲームのやりすぎ?」 

 

 Aは下を向いた。 

 

 「毎日夜遅くまで対戦するから、朝起きられない。図星だろ?」 

 

 「すみません。でも俺、課長……いえ、勇者様をとても尊敬しています。どうしたら、最高レベルに君臨している勇者様みたいに強くなれるのか、知りたいです」 

 

 「それは無理。でも、他の手を使って簡単にレベルアップする方法なら教えてもいいよ」 

 

 「お願いします。チームの仲間も喜びます」 

 

 「ただし来週から休まないで会社に来ること。ゲームのやりすぎで仕事を休むヤツなんかには教えない。わかった?」 

 

 「はい!勇者様の命令には従います」 

 

 「上司の言うことは聞かなくて勇者ならOKとはあきれたけど、来週からはみっちり仕事を教えてやろう。そうだ、C部長にも事の顛末を報告しておかなくっちゃ」B課長は心の中でそっとつぶやいた。 

 

木村政美 

 

 

 
 

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