( 290375 )  2025/05/12 05:37:59  
00

中国不動産バブルの崩壊が世界的な影響を広げており、北海道のニセコを中心とするリゾート地でもその影響が見られる。

中国からの投資や観光客が急速に減少し、不動産や観光業界に困難をもたらしている。

中国の経済低迷や不況は日本人にも影響を及ぼし、中国の建設会社によるおから工事なども問題視されている。

中国経済の不安は日本国内にも及び、将来的に日本人にも直接的な影響をもたらす可能性がある。

(要約)

( 290377 )  2025/05/12 05:37:59  
00

ニセコアンヌプリは世界的なスキー場のある山としても知られている(時事通信フォト) 

 

 アメリカによる関税政策が世界経済、日本経済へどんな影響を及ぼすのかということに注目が集まっているが、それより前に崩壊した中国不動産バブルの影響が、じわじわと世界へ影を落としつつある。ライターの森鷹久氏が、インバウンド景気に沸いているように見える観光地などで始まっている、中国発の不況についてレポートする。 

 

 * * * 

 一杯5千円近くするラーメンが飛ぶように売れるなど、空前の「バブル」状態にあると様々なメディアで報じられてきた北海道屈指のリゾート地・ニセコ。ウインタースポーツのシーズンは終わったが、まだまだ残る手つかずの自然や、美しく澄み切った空気を求め、観光客だけでなく、投資資金も世界中から集まっている。 

 

 北海道・ニセコエリアで事業を展開する実業家の男性が破顔する。 

 

「ニセコは以前から外国人の間で人気でした。コロナ禍前から不動産や宿泊事業などに資金を入れてきて、今も儲かっていることは確かです。メディアによっては悪く報じられることもありますけど、世界中から人と金が集まっていることも間違い無いですし、地元の方でも恩恵を受けられている方は少なく無いですよ」 

 

 しかし、このバブルは静かに終焉が迫りつつあるようだ。リゾートホテルやペンションの新築ラッシュで忙しいはずの、道内工務店の経営幹部が苦渋の表情でこう語る。 

 

「ニセコには、確かに世界中から金が投入されました。私も、北米のリゾート企業や中国系の企業が計画しているホテル建設にいくつも携わったことがあり、それなりに稼がせてはもらいました。しかし昨年ごろから、中国系企業の担当者と連絡がつきづらくなった。すでに工事は始まっていて、資材だって確保済みです。元請けの建設会社によれば、先方は未払い資材や人件費の高騰に対応できないと一方的に通告してきて、その後は音信不通なのだそうです。最初にいくらか支払いはあったそうですが、それきりです」(地元工務店の男性) 

 

 道内に拠点を置く、住宅資材販売会社の担当者も同じような状況だと頭を抱える。 

 

「ニセコが中国人に買い占められる、とSNSで話題になるくらい、確かに中国人から人気がありました。弊社でも、中国系企業が進めるリゾート物件にいくつか関わっていて、すでに資材を発注してしまっています。しかし、中国では不動産バブルが弾け、企業も個人も大混乱に陥っている。自国での生活がままならないのに、外国、日本の話なんかどうでもいいと、先方からはっきり言われて唖然とするしかありません」(住宅資材販売会社の男性) 

 

 

 そして4月中旬、地元・北海道内のテレビが、ニセコ最大級のホテル建設を進めていたアジア系企業の破産申し立てを一斉に報じたのだった。 

 

 商習慣の違い、と言ってしまえば身も蓋もないが、それぞれ、当然事前に契約書を交わしており、先方の契約違反は明らかである。にもかかわらず、先方は「音信不通状態」であり、仮に裁判を起こしたところで、残金が支払われたり、もしくは工事が再開しそうな見込みもない。よって「泣き寝入り」するしかないのが現状だとうなだれる。そしてさらに、中国に泣かされる日本人は増加傾向にある。 

 

 中国経済の成長が鈍化したと2010年頃から言われてきたが、そうはいっても全体規模の大きさから急激な悪化の心配はされていなかった。ところが、新型コロナウイルスの世界的流行対策のため政府はゼロコロナ政策をとり、経済活動が大きく制限された。その停滞によって住宅販売が減少、デベロッパーの資金繰り悪化し2021年には最大手の中国恒大集団が総額約3000億ドル(約50兆円)もの負債を抱え債務不履行に陥った。このような情勢で消費者の買い控えがおさまらず、不動産不況が長期化し、中国不動産バブルは崩壊したと言われている。 

 

「中国発の不況の影響は、まだまだ日本には及ばないと思っていたが、今年に入って10組以上、総勢200名のお客さんからドタキャンを食らいましたね」 

 

 こう話すのは、東京都内で旅行代理店を営む日本人女性。中国系旅行代理店と提携しており、事業の一環として10年ほど前から現在まで、数千を超える中国人観光客のアテンドに関わっており「バブル状態だった」と振り返る。しかし、その終焉は「いきなり来た」と肩を落とす。 

 

「もちろん、いくらかの前金は受け取っていますが、全て完全キャンセルのため、こちらも準備していた分、数百万円の赤字が出ています。文句を言いたくても、相手は”キャンセル”というばかり。残金も払われないし、訴訟を提起しようと思っても相手は中国にいる中国人。日本の裁判所の命令なんか絶対に聞き入れないでしょう。中国では不動産バブルが弾け、アメリカによる制裁的な高額関税の影響で、仕事を失う人も出てきたようです。中国国内でもトラブルになっているのですから、我々はすでに蚊帳の外。こちらが泣くしかありません」(旅行代理店経営者の女性) 

 

 

 東南アジアでも、中国経済の低迷の煽りをうけた日本人が「泣いている」という。 

 

「先日、ミャンマーで発生した大地震の影響で、震源から1000キロも離れたタイで建設中だった高層ビルが崩壊しました。ビルの建設は中国の政府系建設会社が主導で行っていましたが、その後、中国人の関係者が逮捕されています。東南アジアでは、こうした中国政府系の建設会社が数多くの建設を担っていますが、他の建物は大丈夫か?と、地元民の間でも話題になっているのです」 

 

 こう説明するのは、タイ・バンコクで日本人向けに不動産投資物件を販売する男性。東南アジア諸国は世界的に見ても大変な「成長市場」であり、世界中から資本が投下されている。日本からタイへは移住先としてだけでなく、不動産投資の対象としても人気が高いので、日本人向けビジネスが成り立つのだ。 

 

 魅力的な市場を投資先として中国が見逃すわけもなく、さかんに進出していたが、2017年に着工した中国製高速鉄道は2021年開業予定が大きく遅れ、2022年に開業見通しを2027年に変更、今年1月はさらに2030年開通予定と改めて発表された。将来、ラオスを経由して中国と繋がる予定だと発表されていたが、タイのネットユーザーからは、生きているうちに開業を見られるのかと皮肉られている。この高速鉄道は、2013年に習近平主席が唱えた、中国とヨーロッパを結ぶ広域経済構想「一帯一路」の一環として手がけられているのだが、地震で倒壊したバンコクで建設中のビルも、その構想と無関係ではないという。 

 

「崩壊したビルは、中国の一帯一路構想を進める上では欠かせない、中国政府系の大企業です。そんな大企業でさえ、いわゆる”おから工事”をしていたとなると、他の中国系建設会社の物件はどうなんだと騒ぎになっています。中国系の会社が建設途中の物件で様々な不具合が見つかったと、地元メディアでは連日報道され、その中には、私が仲介した物件もありました。顧客からは文句を言われ、問題物件の建設会社や代理店はいきなり音信不通です」(バンコクの不動産会社の男性) 

 

“おから工事”という言葉に日本人がなじみがないのも当然で、中国語「豆腐渣工程」の日本語訳である。鉄筋やコンクリートで作られるはずの建築物が、ごみや砂、廃材などを使って建てると、おからのようにポロポロ崩れる、ということから中国で手抜き工事のことを「おから」と呼ぶようになり、最近の中国圏では広く一般で使われている。中国国内でも”おから工事”が相次ぎ大きな問題になっていたというが、それが東南アジア諸国に「輸出」された格好なのだという。 

 

 中国経済の低迷を、多くの日本人は対岸の火事としか捉えていないだろう。だが、中国に泣かされる世界はさらに増え、間違いなくそのなかに日本人も含まれるだろう。現在のところ、中国によるおから工事が日本国内に流入する恐れはなさそうだが、中国景気が日本国内の日本人に影響を及ぼし始めている。ぼんやりとした経済や外交の話ではなく、債務不履行による実害が、一人一人の日本の一般市民に襲いかかってくる可能性を覚悟しておいたほうがよさそうだ。 

 

 

 
 

IMAGE