( 291164 )  2025/05/15 06:05:38  
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コメ価格が記録的な高値で庶民の食卓を直撃しているが、政府の失政が原因であると指摘されている。

自民党政権は農政での長年の失敗を繰り返しており、現政権では農水省に責任転嫁が行われている。

また、農水省を敵視し、その責任を押し付けようとする姿勢が批判されている。

農水省が自主性を持って行動しているかのような情報操作が行われ、実際には政権が対策を動かしている可能性が指摘されている。

(要約)

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(c) Adobe Stock 

 

 コメ価格が記録的な高騰を続け、庶民の食卓を直撃している。5キロあたり4000円超えという異常事態は、単なる市場の気まぐれではない。これは明らかに、政府による農政の長年にわたる失敗と怠慢の帰結である。にもかかわらず、現政権の中枢から聞こえてくるのは、驚くべき責任転嫁の声ばかりだ。農水省への怒りを演出し、あたかも官僚機構こそが元凶であるかのように描き出すーーこれは政権による巧妙な情報操作であり、国民の怒りの矛先をずらすための意図的なスケープゴート化に他ならない。経済誌『プレジデント』元編集長で作家の小倉健一氏が、政権の罪を抉り出す。 

 

 記録的な米価高騰に国民生活が悲鳴を上げ、その元凶が長年にわたる自民党政権の失政にあることは明白である。にもかかわらず、政権中枢からは、驚くべきことに農林水産省への責任転嫁が始まった。政治ジャーナリストの田崎史郎氏がテレビ番組で暴露した、石破茂首相の農水省に対する「ものすごい怒り」と、責任を官僚組織になすりつけようとするその姿勢は、自らの党が犯してきた罪から目を逸らし、国民を欺こうとする、醜悪な責任逃れの極みと言わざるを得ない。断じて許すことはできない。 

 

 フジテレビ系情報番組「サン!シャイン」(5月8日)に出演したジャーナリストの田崎史郎氏は、17週連続で値上がりし5kgあたり4233円に達したコメ価格について、「明らかに農林水産省の失敗なんです」と断言したという。さらに田崎氏は、「石破(茂)さんも農林水産省にものすごい怒っていて、それで昨日、自民党の小野寺(五典)政調会長を呼んで、コメの値段下げるように党の方で考えてくれ、と。で、農水省に言ってもなかなかやらないんです。備蓄米の放出も実は、官邸がやらせたんです。農水省が自主的にやったんじゃないんです」と、あたかも農水省が抵抗勢力であり、官邸主導でようやく対策が動き出したかのような内幕を解説した。そして、「官邸内で農水省への不信感を持っている声」や、石破首相が「農水省の問題だってずっと分かっているんです」と考えていることまで明かしたとされる。 

 

 これが事実だとすれば、石破政権、そして自民党の無責任体質は、もはや救いようのないレベルに達している。 

 

 

 一体どの口が「農林水産省の失敗」などと言えるのか。半世紀にも及ぶ亡国の「減反政策」を主導し、補助金漬けで農業の活力を奪い、供給力を破壊したのは誰か。他ならぬ自民党政権自身ではないか。 

 

 国際的な学術研究が示す補助金の弊害を無視し、非効率な政策を続け、農業の衰退を招いたのは誰か。それも自民党政権である。「778%」という幻の関税率で国民と農家を欺き、国際的な批判を招き、適切な市場開放や競争力強化を怠ってきたのは誰か。それも自民党政権である。備蓄米放出という場当たり的な弥縫策しか打てず、根本的な解決策を示せないのは誰か。それも現在の石破政権を含む自民党政権である。 

 

 この米価高騰は、農水省という一官庁の失敗などという矮小な問題では断じてない。これは、長年にわたり農政を私物化し、利権構造を温存し、国民生活よりも党利党略、業界団体への配慮を優先してきた自民党政権そのものの構造的失敗の帰結である。農水省の官僚は、その自民党政権の方針に従い、あるいは忖度し、政策を実行してきたに過ぎない。もちろん、官僚組織の硬直性や事なかれ主義も批判されるべき点は多々あるだろう。 

 

 しかし、最終的な政策決定の権限と責任は、常に政権与党、そしてそのトップである総理大臣にある。それを棚に上げ、あたかも自分たちは問題点を認識していたが、実行部隊である農水省が動かなかったかのように責任を転嫁する。これほど卑劣で醜い責任逃れがあるだろうか。 

 

 田崎氏が伝える「石破首相の農水省へのものすごい怒り」というのも、茶番にしか見えない。本当に怒りを感じているなら、なぜ農水大臣を更迭しないのか。なぜ農水省の組織改革、農政の抜本的な見直しを断行しないのか。小野寺政調会長に「党の方で考えてくれ」と丸投げするのではなく、総理大臣として自らリーダーシップを発揮し、具体的な指示を出すべきではないのか。結局のところ、「怒っている」というポーズを見せることで、国民の不満の矛先を農水省に向けさせ、自らは批判を回避しようという魂胆が見え透いている。 

 

 

「備蓄米の放出も実は、官邸がやらせたんです。農水省が自主的にやったんじゃないんです」。この発言に至っては、開いた口が塞がらない。備蓄米の小出し放出自体が、効果も薄く、食料安全保障を危うくする愚策であることは、既に多くの専門家から指摘されている。その愚策を、あたかも官邸主導の英断であるかのように語り、実行をためらった(とされる)農水省を非難する。これは、失敗した政策の責任すら農水省に押し付けようとする、二重三重の責任転嫁である。そもそも、効果的な対策を立案・実行できなかった官邸(石破政権)自身の無能こそが問われるべきだ。 

 

 石破首相は「農水省の問題だってずっと分かっているんです」という。ならばなぜ、これまで抜本的な対策を講じてこなかったのか。なぜ、江藤大臣のような人物を農政のトップに据え続けているのか。「分かっている」と言うだけで何もしないのは、単なる怠慢か、あるいは問題解決能力の欠如の証明でしかない。結局、石破首相もまた、長年自民党農政の中枢にいた一人として、この構造的な問題を生み出し、温存してきた当事者の一人なのである。今になって「農水省が悪い」と言い出したところで、何の説得力もない。 

 

 そもそも、政治ジャーナリストである田崎氏が、なぜこのような官邸側のリーク情報とも取れる内幕を、公の電波で詳細に語るのか。これもまた、政権側の意図的な情報操作、農水省への責任押し付けキャンペーンの一環である可能性を疑わざるを得ない。メディアを利用して官僚を叩き、政権への批判をかわす。これは、過去の政権でも見られた悪しき手法である。 

 

 国民は、このような政権の責任逃れ、情報操作に騙されてはならない。米価高騰の責任は、一義的には、長年にわたり日本の農政を歪め、国民生活を顧みず、利権構造を維持してきた自由民主党政権にある。石破首相もその例外ではない。彼らが今やるべきことは、農水省をスケープゴートにして責任逃れを図ることではない。 

 

 自らの党が犯してきた数々の失政を真摯に反省し、国民に謝罪し、そして、減反政策の完全撤廃、生産・流通の自由化、戦略的な備蓄・輸出政策への転換、JA改革といった、痛みを伴うが真に必要な改革を断行することである。それなくして、この「コメ・クライシス」を乗り越え、日本の食と農の未来を切り開くことはできない。今こそ、国民は石破政権と自民党に対し、その責任を厳しく問い質さなければならない。 

 

 

 2025年、日本の夏は再び過酷な様相を呈しそうだ。「梅雨明け早く猛暑」「戻り梅雨に注意」「また猛暑」――日本気象協会が発表した暖候期予報(2025年2月25日)は、楽観を許さない厳しい見通しを示している。過ごしやすい季節は短く、激しい気象変動が日常となる「メリハリ型」の気候。これは単なる一年の天候不順ではない。気象庁の報告書「日本の気候変動2025」が示すように、これは地球温暖化によって加速する、日本の気候の構造的変化なのである。 

 

 この報告書が突きつける現実は、米作りにとって悪夢そのものである。日本の年平均気温は、世界平均の倍近いペース(100年あたり1.40℃)で上昇を続け、特に1980年代後半からの加速は著しい。その結果、真夏日、猛暑日、熱帯夜の日数は統計的に有意に増加し、将来予測ではさらに激増する(4℃上昇シナリオで猛暑日は全国平均約17.5日増)。一方で、雨の降り方も極端化している。 

 

 年間の総降水量は大きく変わらないものの、1時間降水量50mm以上の短時間強雨や、日降水量100mm、200mm以上の大雨の発生頻度・強度は明確に増加している(信頼度高い)。短期間の集中豪雨と、それに続く高温・乾燥。水田は冠水し、稲は倒れ、病害虫が蔓延しやすくなる。かと思えば、必要な時に水がなく、田は干上がる。今年4月、大分県佐伯市で早期米の田植えが深刻な水不足でできなくなったという報道は、まさにこの気候変動リスクが現実化した姿だ。農家は「心が折れそう」(テレ朝NEWS、4月29日)と悲鳴を上げている。 

 

 このような科学的知見と現実の危機を前にして、日本の農政を司る自由民主党と農林水産省は何をしてきたのか。そして、今、何をしようとしているのか。答えは、驚くべきほどの無策、怠慢、そして国民を愚弄する責任転嫁である。彼らは、この気候変動という国家的な危機に対し、何の有効な手も打たず、問題を悪化させ、挙句の果てにはその責任を国民や市場になすりつけようとしている。 

 

小倉健一 

 

 

 
 

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