( 291449 )  2025/05/16 06:17:20  
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首都圏で急成長しているイオンのまいばすけっとの店舗数と売上高が増加中で、その成功背景には首都圏の特異な市場や人口密集地における需要、少子高齢化などがある。

大手スーパーやコンビニとの競争において、小型店舗での成功が注目される中、地元の中小スーパーや商店の姿が薄れつつある状況も指摘されている。

また、トライアルHDの取り組みやコンビニ業界の生鮮品対応の遅れも問題視されている。

(要約)

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首都圏で増加している「まいばすけっと」(写真:編集部) 

 

 イオンのミニスーパーまいばすけっと(以下、まいばす)の増殖が止まらない。2025年2月期には売上高2903億円、店舗数1204店に達しており、2005年の初出店から約20年で、新たな大手スーパーが首都圏に誕生したということだ。 

 

 東京23区、川崎市、横浜市を中心に店舗を増やしてきた。最近では出店エリアも拡大し、北はさいたま市宮原、東は千葉市、南は横浜市磯子区、西は相模原市橋本や座間市あたりまで出始めており、郊外エリアでもその看板を見かけるようになってきた。 

 

■「まいばすけっと」が支持されている背景 

 

 首都圏以外の方々はご存じないと思うので簡単に説明しておくと、基本はコンビニサイズ(実際に多くがコンビニの跡地の居抜き)の小さい店にいわゆる食品スーパーの品揃えをギュッと詰め込んだ店で、生鮮なども一通り買うことができる最低限の品揃えがされている。 

 

 首都圏の人口密集地では「バス停ごとに店がある」と言えるほど高密度に展開している。24時間営業ではないが、朝7時から夜11時頃まで営業しており、コンビニにはない生鮮があるので、帰宅途中に必要なものをさっと買うのに便利な存在だ。 

 

 そのうえ、イオングループなので、トップバリュ商品を中心にイオン価格で売っているため、最近の物価高の時代では、「実は近所で一番安い」とも噂されている。品揃えは必ずしも十分ではないが、なぜこれほど支持されているのか。その背景を詳しく見ていこう。 

 

 そもそも、スーパーはコンビニの何倍もの広さが必要であり、品揃えの充実が顧客の支持に影響するため、大型店のほうが強いというのが定説である。大手の大型店が出店すれば、地域の中小スーパーや商店が競争に敗れて消えていく。これが業界の常識だった。 

 

■首都圏という特異なマーケットに対応 

 

 まいばす以外に、これほど小型店舗で成功した企業は存在しない。これは首都圏という世界最大級の大都市圏が世界屈指の鉄道網で結ばれ、さらに急速な少子高齢化が進んだことで生まれた特異なマーケットだと理解する必要がある。 

 

 日本では高度成長期以降、クルマが生活に浸透し、全国的には一家に一台クルマを持っているというのが一般的になっている。しかし、公共交通網が稠密に発達している首都圏では、平日の生活にはクルマを使うのは少数派である。 

 

 

 通勤はもちろん、近場の買い物でも駐車場の問題があるため、公共交通を使うほうが便利だ。首都圏でもクルマを持っている家は多いのだが、使うのは休日ぐらいという人は多い。つまり首都圏は全国的に見て、個人の移動範囲が狭い地域だということだ。 

 

 次の図は、東京都市圏交通計画協議会のパーソントリップ調査による首都圏の主要移動手段を示している。23区内ではクルマ利用のシェアが低いこと、東京から離れるほどクルマへの依存度が高くなっていることが見て取れるだろう。 

 

 重要なのは、中心部で近年クルマ離れが加速していることだ。その背景は、①クルマ保有のコスパが悪い、②少子高齢化、③女性就労率の上昇、などが挙げられる。 

 

 週末しか乗らないのに維持費が高く、買い物でも駐車料金がかかるクルマは、公共交通が発達した都心部ではコストパフォーマンスが悪い。このため、都内ではクルマを持つ人が減っており、首都圏居住者の機動力は小さくなりつつある。 

 

 高齢者の増加もクルマ利用率の低下要因だ。働く女性が増え、共働き世帯が主流となった現在、仕事帰りにしか買い物できない現役世帯は平日にクルマを使わない。これらの要因により、首都圏では買い物時の移動距離が大幅に短縮された。つまり近い店が選ばれるようになり、これがまいばすにとって追い風となった。 

 

■地元の中小スーパーなど小規模店の淘汰が進む 

 

 もう1つの要因は、大手食品スーパーによる寡占化の進行だ。首都圏中心部で大手食品スーパーの出店は着実に進んでおり、イオングループ、ライフ、サミット、オーケーといった大型店舗を展開するチェーンが、近年じわじわとシェアアップを進めてきた。 

 

 裏を返せば、地元の中小スーパーや商店街の食品店が徐々に姿を消していることを意味する。クルマ社会の地方なら、近所の店がなくなっても少し遠出すれば済む。しかし、移動手段が限られる大都市住民にとって遠出はハードルが高く、特に高齢者にとっては深刻だ。 

 

 

 実際、経済センサス(経済産業省)によると、東京都の飲食料品店は2016年から2021年にかけて店舗数が8%減少し、1店舗あたりの販売額は増加した。まさに小規模店の淘汰が進んでいる。近くの店が減っている上に、遠くに買い物に行けない首都圏住民にとって、まいばすは待望の店だったのである。 

 

 この寡占化の流れは地方でも加速している。クルマ社会化が進んだ郊外では、人口減少による市場縮小に加え、幹線道路沿いに広い駐車場を備えた大型スーパーが、中心市街地や住宅地の中小スーパーを閉店に追い込んでいる。 

 

 そのため、地場の老舗スーパーが徐々に姿を消している。店が閉店しても、クルマを持つ現役世代は別の店に行けるため大きな問題はない。しかし、免許を返納した高齢者世帯は行ける店がなくなる。人口密度の低い地方では、大都市型のまいばすでは採算が取れない。そこでは、コンビニやフード&ドラッグがスーパーの代替機能を果たす可能性がある。 

 

■小型店が求められる時代 

 

 生鮮を扱うフード&ドラッグの損益分岐点売上は、クスリのアオキで約3.8億円、ゲンキーで約3.2億円と試算される(販管費を固定費、粗利率を変動費率とした簡易試算)。これは損益分岐点売上が5〜6億円以上と言われる食品スーパーよりもかなり低い。商圏が縮小してスーパーが撤退しても、需要がゼロになるわけではない。5億円未満の需要は残存する。 

 

 そのため、生鮮フード&ドラッグなら十分採算が取れる。また、コンビニでもローソンは、スーパー撤退跡地に出店して、地場スーパーと連携して生鮮供給を受けることで、地域の高齢者などのニーズに応える取り組みを進めている。こうして地方では、スーパー撤退後の空白を異業種が埋める動きが広がっている。 

 

 大都市と地方では事情は異なるが、どちらも小型スーパーや同様の機能を持つ小型店が求められる時代になっている。もちろん、大型で品揃えの充実したスーパーが業界の主流であることに変わりはない。しかし、まいばすが生鮮も含めたワンストップ型の小型店が実現可能であることを証明した意義は大きい。 

 

 

 これまで「日本の消費者は鮮度にこだわるため、店舗で小分けパック詰めが必要」という定説があった。加工センターで集中処理し、店舗では陳列のみという方式は日本では通用しないとされてきた。 

 

 しかし、日本にスーパーが登場して60年以上が経過し、冷蔵・輸送技術の進歩とともに消費者の意識も大きく変化した。「今切りました」「今詰めました」という鮮度アピールより、「近くて便利で生鮮品も買える」ことを重視する消費者が増えているのだろう。 

 

 以上を踏まえると、スーパー並みの生鮮品をスーパー価格で提供するコンビニがあれば、このニーズに応えられるはずだ。しかし、現時点でそうした業態は存在しない。ここで注目すべきは、西友を買収したトライアルHDが発表した、西友既存店を活用したサテライト店舗網構想だ。IT・物流投資に注力してきたトライアルは、店舗デジタル化で業界をリードしている。 

 

 同社は「トライアルGO」という省人化小型店舗でありながら、スーパーの品揃えを実現するフォーマットを開発した。西友既存店で小分け・パック詰めした生鮮・総菜を周辺の小型店「GO」に配送し、生鮮コンビニ機能を持つ店舗網を構築するという構想だ。これはまいばすへの挑戦状であり、トライアルの西友買収が綿密に計画された首都圏攻略戦略に基づくことを示している。 

 

■コンビニは生鮮への対応に遅れ 

 

 一方、コンビニ各社の生鮮対応は遅れている。セブンイレブンのSIP店舗はまだ実験段階であり、ローソンのスーパー跡地出店も始まったばかりだ。全国に物流網を持つコンビニ大手なら、このニーズに対応した生鮮コンビニの展開は可能なはずだ。 

 

 しかし、ディスカウントストアやトライアルに先を越された形となっている。飽和したと言われる国内コンビニ市場を活性化するには、生鮮コンビニによるスーパーの内食需要取り込みがカギとなるが、まだ実現していない。 

 

 まいばすとトライアルGOの競争が本格化すれば、コンビニ各社も動きを加速するだろう。首都圏市場の覇権争いの主役が、まいばすとトライアルという新参者同士になったことは、変化の速い流通業界の特徴をよく表している。 

 

中井 彰人 :流通アナリスト 

 

 

 
 

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