( 292172 ) 2025/05/19 05:38:02 0 00 読売新聞
資源エネルギー庁が14日発表した九州・沖縄のレギュラーガソリン1リットルあたりの平均価格は186・7円だった。昨年末から過去最高水準の180円台が続く。価格高騰のきっかけは産油国のロシアがウクライナ侵略を始めたことだったが、最近は原油価格が下落傾向にもかかわらず高止まりしている。全国平均(183・0円)を上回り、地域別で最も平均価格が高い九州・沖縄の事情に迫った。(橋谷信吾)
都道府県別のレギュラーガソリンの平均価格で全国最高になることが多い鹿児島県。今月2日、鹿児島市のガソリンスタンド(GS)「エコスタンド工学部前店」には、一帯で最も安い価格を目当てに長蛇の車列ができていた。
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この日はレギュラー1リットル171円で、前日にエネ庁が発表した県内の平均価格193・7円(4月28日時点)を1割以上、下回っていた。訪れた男性(62)は「ほかの店よりも10~20円安いこともあり、助かっている」と話した。
安値の理由について運営会社「はーもにーりんぐ社」の中村哲人・統括マネージャーは、割安な「業転玉」だけを仕入れていることを明かす。ガソリンの原料となる原油を精製する過程では、プラスチック原料や航空燃料なども一体的に生産される。特定の製品だけを集中的に精製できないため、ガソリンが余る場合がある。元売り大手が余剰分を商社などに安値で売却したものが業転玉だ。
調達量が安定しないリスクもあるが、平均価格が高い鹿児島では集客効果が大きい。それでも中村さんは「物価高で給油量は落ちており、利益は目減りしている。生活防衛意識の高まりを感じる」と話した。
ただ、業転玉に頼るGSは一部で、多くの仕入れ先は出光興産やENEOS、コスモ石油といった元売り大手の系列だ。こうした中、九州・沖縄の平均価格は全国の中で最高水準が続く。安値競争はあるものの、最近は変化も生じている。
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まず高値には特有の事情がある。九州には製油所が大分市のENEOS系列の1か所しかなく、輸送コストがかさむ地域が多い。長崎、鹿児島、沖縄県には離島が多く、さらに輸送費がかかるため平均が押し上げられる。製油所から運ばれたガソリンを一時、ためておく「油槽所」は各県にあり、その維持管理費も上乗せされる。
全国的な高値の要因が人手不足だ。昨春からトラック運転手の時間外労働の上限規制が厳格化され、不足しがちになった。GSも人員確保に苦労している。GSと油槽所を運営する新出光(福岡市)の担当者は「人手不足と賃金上昇が進んでおり、価格転嫁せざるを得ない」と話す。
価格競争の低迷につながるGSの減少も進んでいる。人口減少に加え、ハイブリッド車などの普及でガソリン需要が低迷し、過疎地を中心に閉店が相次ぐ。2023年度末時点の九州・沖縄のGS数は10年前と比べて19・5%減った。全国平均でも21・0%減、山口県は23・1%減だ。
年2回、店頭での価格表示の有無を調査している大分県では、24年12月時点で200店のうち62・5%が表示していなかった。桃山学院大の小嶌正稔教授(石油流通システム)は「表示に法的な義務はないが、競争原理が働かなくなり、消費者に不利益だ」と警鐘を鳴らす。
原油価格は国際情勢と為替レートに左右され、米国の関税政策を巡って先行きの不透明感が増している。景気が減速すれば需要が落ちるため、価格は下落しやすい。輸入に頼る日本では円高も調達価格の低下につながる。
原油価格は下落傾向だ。ロシアのウクライナ侵略開始後、代表的な指標のテキサス産軽質油(WTI)は一時、1バレル(約159リットル)=100ドル超となったが5月は60ドル台で推移する。円安が進んだ為替も最近は円高方向に振れている。
ただ、楽天証券経済研究所の吉田哲氏は「長期的にみれば円安傾向が抜本的に改善する見通しはなく、国内のガソリン価格は高止まりする可能性もある」と指摘する。
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ガソリン価格には各種の税金が含まれ、1リットル185円の場合、約4割を税金が占める。物価高対策として与野党で軽減策を検討しており、1リットルあたり25.1円の暫定税率については廃止が議論されている。
野村総合研究所によると廃止によって家計の負担は年平均で9670円減る。一方で、年間1.5兆円の税収減となるため、財源確保が課題となる。
政府は既に物価高対策として2022年1月から、ガソリン価格を抑えるための補助金を元売り各社に支給している。現在の補助額は全国の平均価格を1リットル185円に抑える水準で、累計補助額は8.2兆円に上る。22日からは、さらに段階的に拡大して現状より10円安くするための補助を実施する。
ただ、店頭価格はガソリンスタンドが決めるため、政府の目標より高値のケースもある。また、財政難の中、国の支出を拡大することに批判の声もある。
◆暫定税率=揮発油税の本来の税額に上乗せして課される税。道路財源確保のため1974年に暫定的に導入されたが、2009年には一般財源化され、他の用途にも使われるようになった。通称として「暫定税率」と呼ばれ続けている。
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