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KFC店舗で売れ残ったオリジナルチキンが子ども食堂などに冷凍便で再活用されている取り組みが紹介されています。

日本KFCでは品質管理や衛生管理を徹底し、賞味期限や調理方法のルールを設けています。

子ども食堂ではチキンを提供する際には配慮が必要であり、KFCでは提供先の団体に丁寧にレクチャーを行っています。

これらの取り組みにより、食の安全性が確保されています。

(要約)

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店舗で冷凍された、ケンタの売れ残りチキン。このチキンの行く先は・・・?(撮影:大澤誠) 

 

 売れ残ったケンタッキーフライドチキン(KFC)のオリジナルチキン――。かつては店舗で廃棄されるだけだったその“売れ残り”が、子ども食堂などに冷凍便で届けられ、再活用されている。 

 

 2019年に始まったこの取り組みは、現在届け先が全国14都県、約500か所近くにのぼる。6年でなぜそんなに拡大したのか。チキンの“セカンドステージ”を追った。 

 

■ケンタが挑んだ「チキンの再就職」 

 

 「閉店後、残ってしまったオリジナルチキンは店舗での課題だった。これまでは廃棄するしかなく、アルバイト等スタッフからも『何かできないか』との声が上がっていた」(日本KFC執行役員・経営戦略部部長 中田陽子氏) 

 

 そんな折、横浜市に本社を移転したことをきっかけに、フードバンクを通じて子ども食堂等へ食材を提供することになったという。 

 

 取り組みを実施している店舗でオリジナルチキンが余ってしまった場合は、その日のうちに店内で凍結・保管。そこからフードバンクの倉庫、あるいは子ども食堂に届けられる。子ども食堂では解凍後、必ず調理して提供することとなっている。 

 

【写真21枚】ケンタの”売れ残ったチキン”を利用した「子ども食堂」の食事はこんな感じ! 大量のチキンは人の手によって身、皮、衣、骨に丁寧に分けられる 

 

 一連の流れはシンプルなようだが、実は難しい。食の安全性を担保しなければならないためだ。 

 

 一つには、品質及び衛生管理。そして、骨付き肉であることにも配慮が必要だ。商品を提供する企業だけでなく、関わる組織や、提供する現場、サプライチェーン全体で徹底されねばならない。飲食チェーンとして子ども食堂に調理済の食材を提供している例が他に少ないのも、この取り組み自体、飲食業にとって大きな労力を要する取り組みだからだろう。 

 

 日本KFCではまず、オリジナルチキンの再利用に関する品質確認から始めた。冷凍時の温度管理や時間経過による油の酸化等、第三者機関による検査をし、横浜市医療局食品衛生課の助言も得て、店舗や実施団体におけるルールづくりを行っていったという。 

 

 食中毒等の予防については、店舗での冷凍、賞味期限を6カ月とし、団体に渡す商品には賞味期限シールを貼る、解凍後必ず加熱調理して食べる、といったルールによって対応。 

 

■”骨誤飲”の恐れも排除 

 

 

 また小さい子どもの場合骨誤飲の恐れがあるので、チキンは調理前に、骨と身に分ける。新しく提供する団体に対しては、日本KFCの担当部署が都度、やり方を丁寧にレクチャーしている。 

 

 「しっかりと徹底させなければ継続していけない。関わる人みんなで安全を守っていく、という趣旨をしっかりと理解していただくようにしている」(中田氏) 

 

 団体側の理解が重要な取り組みであるため、日本KFC側から積極的な働きかけはしないものの、行政の呼びかけやNPO法人の横のつながりで伝わり、自然と要望が増えたという。また中田氏によると、他の飲食チェーンからも関心を寄せられているそうだ。 

 

 実際にチキンが届けられている子ども食堂にも話を聞くことができた。まず訪問したのが神奈川県・東戸塚地区センターで開催されている「多世代地域交流食堂〈みらころ〉」だ。 

 

 ある4月の平日の夕方、東戸塚地区センターの広間に響く「いただきます!」の声。ホワイトボードに書かれた「本日のメニュー」は、KFCチキンのトマト煮、エビピラフ(またはビーフピラフ)、大根とキャベツのさっぱりサラダ、和え物、野菜のチキンスープ、そしてデザートだ。 

 

 みらころはいわゆる「子ども食堂」で、中学生までは無料、高校以上の学生100円、大人300円で食事を提供している。小学生が30〜40人、中学生も常連を含め10人ほど、そのほか独居のお年寄りや障害のある方数名と、さまざまな世代が集まる(地区センターの利用時間の制限上、利用時間は世代によって異なる)。 

 

 食材はフードバンクを通じ企業から提供されたものだが、なかでも人気なのがKFCのチキンだという。 

 

■「経済的な理由」以外で人が集まる 

 

 みらころ代表の髙木幸氏によると、同団体が活動している東戸塚は、近年、タワーマンションが多くできてきた地域で、比較的裕福な住民も多いそうだ。子どもたちがのびのびできる、いわゆる「児童館」のような場として、子ども食堂を運営しているという。 

 

 「ここを自分の『居場所』と感じている子もいると思う。ある中学生の常連の子は、小学校時代の友達に会えるというので通ってきている。また、スタッフや地域の方など、親以外のいろいろな大人と接する機会にもなっているようだ」(みらころ代表 髙木幸氏) 

 

 

 通ううち、「自分で子ども食堂をやってみたい」と考えた子もいる。2024年には、近隣にある川上小学校のあるクラスが、授業で子ども食堂を企画。「ハピネス食堂」を開催し、地域の住民を招いた。調理はみらころが協力したが、食材はSNSで提供者を募るなどして、自分たちで集めたという。 

 

 みらころは月2回の地区センターでの食堂のほか、月1〜2回、お寺で開催する「みんなの食堂」、夏休みや冬休みの「こどもだけ食堂」など複数の活動を行っている。利用者が多いので、スタッフや食材を提供するフードバンクなど、関わる人も多い。また、地域の障害者施設や高齢者施設と連携して、活動を継続してきている。 

 

 子どもたちは食堂に通ううち、人々と接したり、地域におけるつながりを感じたりして、気づきや学びを得ているのだ。 

 

■歌舞伎町の子ども食堂の場合 

 

 もう一つ、チキンの届け先となっている子ども食堂を訪ねた。新宿・歌舞伎町で週3回開かれる「みらいカフェ」だ。 

 

 利用者は日によって異なるが、平均して20〜30名。地域のシングル家庭の親子、大人の困窮者、そして子どもたちだ。大久保公園を拠点とするいわゆる「たちんぼ」の少女、新宿東宝ビル横に集まる「トー横キッズ」と2派がある。年齢はローティーンから20歳前後まで幅広い。 

 

 食堂担当はSさん。食材集め、献立づくり、調理と、1名で食堂を切り盛りしている。また程よい距離感を保ちながら、子どもたちを見守っている。 

 

 「家庭環境が悪くて帰れない子、矯正施設を抜け出した子、いろいろいる。バイトしながらホテルなどに泊まって暮らしているから、1食浮けば助かる。たちんぼの女の子はお金を稼いでも、ホストやメンズ地下アイドルに全部貢いでしまう。女の子を束ねている存在から、巻き上げられることも多い」(Sさん) 

 

 利用者には温かく、優しい味のする食事をとってもらいたい。しかし寄付で賄っており、限られた食材を基本に献立を考えなければならない。どうしても、レトルトや冷凍食品が多くなってしまいがちだ。 

 

 そのため、今年2月から日本KFCの寄付を得られるようになり、大いに助かっているという。 

 

 「足りない食材がある場合は購入しているが、チキンが頂けるようになって、肉を買う必要がなくなった。運営資金の調達に苦労しているので助かる。また、子どもたちは好き嫌いがあって、好みでないと食べてもらえない。チキンだと反応がいい」(Sさん) 

 

 

■親子丼へのアレンジも 

 

 ただし、オリジナルチキンはスパイシーで、味がしっかりしているのでバリエーションを持たせるのが難しい。考えた末、一度煮て味を落とし、親子丼にしてみた。評判はなかなかだったそうだ。 

 

 日本KFCによると、各々の実施団体がチキンのアレンジメニューを考案しており、新しいレシピがどんどん増えている。そんな中でも、みらいカフェのレシピはとりわけバリエーションが豊富だという。 

 

 「子どもが街に立ったり、犯罪に巻き込まれるのを防ぎたい。そのためには、子どものSOSをいち早く捉えることが大事。子ども食堂はその入り口の役割を果たしている。子どもたちはいろいろな事情があって、歌舞伎町をさまよっている。そんな子が安心する、身近な場所でありたい」(Sさん) 

 

 Sさんもかつて、歌舞伎町をさまよっていた一人。高校卒業後、飲食系の会社に入ったものの、ブラック企業だった。転職を繰り返した果てに歌舞伎町で「どん底」を経験したが、みらいカフェに辿り着き、担当者とのつながりに救われた。「お父さんのような存在」のその人に会いたくて食堂に通うようになり、今があるという。 

 

■「廃棄寸前」が「ごちそうさま」の笑顔に 

 

 子どもが1人で行ける、無料または低額の食堂「子ども食堂」は2012年に誕生し、今では1万を超える数に広がってきた。延べ参加人数は子どもだけで1299万人、大人と合わせて1885万人にのぼる(全国こども食堂支援センター・むすびえHPより)。しかし、企業からの安定的な食材提供はまだ道半ばだ。 

 

 DVや貧困、居場所の欠如――。子どもたちが抱える問題は多様だが、温かい食事はまず心をほぐし、会話を促し、人と人を結び付ける。廃棄寸前だったチキンが日本KFCの安全管理と地域の粘り強い支援によって「ごちそうさま」の笑顔に変わる。 

 

 食品ロス削減と地域貢献を同時に実現できるこの仕組みは、飲食業界の衛生管理ノウハウを活かせばもっと広がる可能性を秘めている。 

 

圓岡 志麻 :フリーライター 

 

 

 
 

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