( 293110 )  2025/05/23 03:10:41  
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夏の賞与に関する話題が注目されており、企業が冬の賞与を廃止し、それを給与に組み込む動きが広がっている。

賞与給与化の導入を進める企業もあり、月給の改定や初任給の引き上げが行われている。

賞与がなくなることで、給与体系が成果主義的なものになり、会社の競争力向上や人材獲得力強化につながるとされている。

しかし、賞与の廃止・縮小による影響もあり、一部では懸念の声もある。

賞与制度の起源は明治時代まで遡り、企業ごとに支給方針が異なる中で、ソニーグループは独自の賞与給与化を進めている。

これまでの一律支給型から成果主義色を強めた支給スタイルに変化している。

賞与給与化が一般的に広まるかは不透明であるが、各企業の個別の経済状況や経営戦略によって変化する可能性がある。

(要約)

( 293112 )  2025/05/23 03:10:41  
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夏冬2回のボーナスが支給されなくなる? 

 

夏の賞与が話題に上る時期となった。出るのか、出ないのか。増えるのか、減るのか…。そうした中、ソニーグループが冬の賞与を廃止し、給与化するとの報道が流れ、世間がざわついた。今後、企業は賞与支給をなくし、‟給与化”へ傾いていくのか。 

 

4月から給与体系を変更する企業もある中で、大和ハウスやバンダイも‟賞与給与化“を導入している。 

 

大和ハウスは「近年は物価上昇が続く中、継続的な給与改定を行ってきましたが、2025年度は、より安心して意欲的に能力が発揮できる環境を整備するとともに、中長期的に事業の成長を担う人財を確保するため、月例給与水準の大幅な改定を行うこととしました」とし、月給と賞与の比率を見直した。 

 

具体的には月給水準を引き上げ、賞与比率の減少分を特に若年・中堅層に振り分けることで、同層の年収約10%増加を実現している。 

 

バンダイも2022年度から賞与の一部を給与に振り分けることで、初任給を大幅に引き上げた。2025年度は新卒社員の初任給をさらに引き上げ、29万円から30万5000円としている。さらに各役職の給与下限額も1万5000円増額した。 

 

大企業を中心にじわじわ広がる賞与の廃止・縮小。 

 

これだけをみれば悲観的になってしまうが、廃止・縮小分は、月給に振り分けられる。つまり、一回ごとのインパクトが大きい賞与こそ一部廃止・縮小されるものの、いずれもトータルの手取りは大きく変わらないたてつけとなっている。 

 

企業側の狙いは月給を増やして採用競争力を高めることや、年俸制の導入・定着を推進することにある。 

 

年収ベースで減少させる思惑はなく、むしろ安定的に収入を得られるようにする。そのことで、物価上昇などの景気変動にも対応しやすくなり、人材獲得アピールにもつながりやすい。賞与給与化は不確実な時代の戦略的な給与体系へのシフトといえる。 

 

労働問題に詳しい向井蘭弁護士は、こうした賞与給与化のメリットを認めつつ、ソニーグループについてはほかの思惑もあると推察する。 

 

「ソニーの賞与廃止の目的が月給の増額による採用競争力の向上や、年俸制の導入・定着にあるのは確かにその通りだと思います。ただし、ソニーにはそれ以外にも隠れた狙いがあると考えられます。 

 

ソニーは年次に関わらず、現在の役割に応じて等級や報酬が決定される『ジョブグレード制』を採用していると言われています。 

 

しかしながら、日本の賞与制度は、どうしても横並び意識や年功序列的な運用に陥りやすいという側面があります。 

 

現に労働組合との交渉では賞与がメインテーマになることが多く、日本の大企業では、賞与の金額全てではないとしても、個人の評価に関係なく、一律で上がったり下がったりする部分が多いです。 

 

そこで、ソニーは、いっそのこと賞与を廃止し、個人の年ごとの評価によって賃金が大幅に変動する、より成果主義の色彩を強めた制度を考えているのではないでしょうか。 

 

賞与がなくなることで、かえって大幅な昇給もあれば、大幅な減給もあり得る。よりメリハリの利いた賃金体系になる可能性があります」 

 

 

賞与のそもそもの支給目的は、利益がでればそれを還元し、従業員をねぎらうこと。あくまで臨時的で特別な金銭支給という位置づけだ。 

 

その起源は明治時代にさかのぼり、郵便汽船三菱会社が初めて支給したといわれる。以来、賞与は不定期の時期などを経て制度化され、夏と冬の時期に企業が従業員に定期的に支給することが定着した。 

 

もっとも、夏冬のほかに臨時ボーナスを支給する企業もある一方で、年俸制を導入して賞与とは無縁の企業もあるなど、給与以外の臨時的金銭支給の方針は、企業ごとに違っている。 

 

そうした中でソニーグループは、賞与の意味に切り込んだ。単に業績に連動させ、一律に支給するだけでなく、そこに個人の評価も密接にリンク。そうすることで、支給額に差をつける狙いがあるとみられる。 

 

年度ごとに、その活躍度を評価軸として1年の報酬を決定する年俸制と従来の一律支給型の賞与システムの中間のような支給スタイル。それが、同社の賞与給与化の実像といえそうだ。 

 

そうなると、ボーナス時期が近づけば、景気や企業業績とは別の側面から「いくらもらえるのだろうか…」と、ある人は憂鬱(ゆううつ)に、ある人はワクワクするといった、二極化の懸念もある。 

 

向井弁護士は以下のように展望する。 

 

「すでに制度でベースを構築しているソニーのように、理詰めで進めることのできる企業はごく一握りだと思います。したがって、賞与給与化が今後、日本の企業社会全般に広まるかといえば、それは考えにくいのではないでしょうか。 

 

企業側にとってはやはり、賞与はいざという時に削減ができます。また、いろいろと曖昧なものを詰め込められますから、‟日本型雇用”には非常になじむのです」 

 

民間調査機関の一般財団法人・労務行政研究所が東証プライム上場企業を対象に行った夏季賞与・一時金についての調査によれば、2025年の夏季賞与は、全産業ベース(114社単純平均)で86万2928円。対前期比3.8%で、4年連続の増加となっている。 

 

賞与は上がり続けるが、物価も上がり続ける――賞与シーズンが近づけばワクワクすることに変わりはないが、昨今は不確定要素が多すぎて、うれしさの度合いも減少している。 

 

給与体系の変更を気にする前に、経済の根本部分のぐらつきの方が気になるのが、実際のところなのかもしれない。 

 

弁護士JPニュース編集部 

 

 

 
 

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