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北陸新幹線の小浜・京都ルートに関する建設計画に関して、沿線自治体の間で足並みが乱れており、2025年の予算に影響を与える可能性がある状況が懸念されている。

小浜・京都ルートに対する反対運動が高まっており、京都府市を中心に懸念が強いため、着工が難航している。

石川県では米原ルートに変更する声も出ており、北陸3県の意見が一致しない状況となっている。

京都府市も地下水への影響などを懸念し、理解を得るための説明会も不十分なまま進行している。

財務省も財政状況を考慮して新幹線整備について慎重な姿勢を示しており、着工の可否に関しては厳しい意見が根強い。

(要約)

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北陸新幹線(画像:写真AC) 

 

 北陸新幹線小浜・京都ルートが京都府市の懸念を解消できないなか、沿線地方自治体の足並みが乱れている。2025年夏の新年度予算概算要求に影響が出ることを不安視する声も聞こえる。 

 

「万が一大きな前提が崩れる場合には、10年前に議論があった『米原ルート』も検討してほしい」 

 

東京都内のホテルで5月中旬に開かれた北陸新幹線建設促進大会。馳浩石川県知事の一言で約300人を集めた会場の空気が凍りついた。 

 

 発言は2024年夏の北陸新幹線建設促進石川県民会議決議を説明したもので、事前の事務方協議で石川県が今大会の決議に含めることを求めたが、却下されていた。会場がざわめくなか、馳知事は 

 

「小浜・京都ルートが京都府民の同意を得るのは課題が多い」 

 

と述べ、前提が崩れつつあるとの見方を示した。 

 

 これに対し、杉本達治福井県知事、三日月大造滋賀県知事、新田八朗富山県知事らは小浜・京都ルート推進で譲らない。大会決議は小浜・京都ルート建設促進に京都の課題解決を急ぐことを盛り込み、馳知事の賛同を得たが、石川県の国会議員、県議、首長らが採決時に抗議の退席をする異常事態となった。 

 

大阪延伸の駅候補となるJR京都駅(画像:高田泰) 

 

 小浜・京都ルートは福井県敦賀市から同県小浜市、京都市、京都府京田辺市を経て大阪市に至る約140km。2016年に与党プロジェクトチームが決定した。だが、ルートの約8割はトンネル。京都府で地下水への影響や建設費の高騰を懸念する反対運動が高まり、着工できない状態に陥っている。 

 

 石川県では早期着工が難しいとして、敦賀市から滋賀県米原市で東海道新幹線に接続する米原ルート検討を求める声が県議会や経済団体、県南部の自治体などから出ている。以前は小浜・京都ルートを支持していた馳知事の発言も、次第に懐疑的なニュアンスが強まっているように聞こえる。 

 

 福井県新幹線建設推進課は「大会での馳知事の発言は石川県の状況を説明しただけ。小浜・京都ルートの推進は揺るがない」と火消しに躍起だが、馳知事は後日の記者会見で 

 

「(大会での発言は)触れられたくない部分に触れたのだろう。大きな波紋を呼び起こすことができて良かった」 

 

と振り返った。そこに見えるのは、石川県と福井、富山両県の足並みの乱れだ。 

 

 

地下水への影響を心配する京都市の酒造会社(画像:高田泰) 

 

 与党の北陸新幹線整備委員会は2024年末で京都市内の駅位置など詳細ルートを絞り込み、2025年度着工を目指していた。しかし、京都府市から地下水への影響などに対して懸念を示され、地元の理解を得ることを優先するとして着工を先送りした。駅候補地はJR京都駅(下京区)とJR桂川駅(南区)で、新たな着工目標は設定されていない。 

 

 ところが、京都府市説得に向けた国土交通省、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の動きが鈍く、懸念解消のめどは立たない。京都府内の自治体を対象とする説明会が京都市で開かれたのは3月末。国交省や鉄道・運輸機構は地下水への影響についてデータを示して否定するなどこれまで通りの主張を繰り返した。 

 

 京都市の松井孝治市長は記者会見で 

 

「京都府市を納得させようとしているのか、論破しようとしているのかわからなかった。懸念が解消されたとは全く思っていない」 

 

と厳しい見方を示している。 

 

 小浜・京都ルートに反対する 

 

・伏見区の酒造業者 

・仏教界 

・住民 

・市民団体 

 

に対する説明会は一度も開かれないまま。自治体向け2度目の説明会も開催されていない。京都府交通政策課は「府と各市町村の6月議会日程を国交省に送っているが、開催の連絡は来ていない」という。これに対し、国交省幹線鉄道課は「現在、調整している」と述べた。ある自民党国会議員は 

 

「京都府市を説得できるすべがあるのだろうか。できるとすれば説明会開催をアリバイにして強行突破するぐらいしか思いつかないが、そんな手法が通用する時代ではない。今は手詰まりなのだろう」 

 

と首をかしげた。 

 

財布のひもを緩めそうもない財務省(画像:高田泰) 

 

 関西との結びつきが強い北陸3県は1日も早い大阪延伸を強く望んでいる。2026年度中に着工するとすれば、国交省が夏に財務省に新年度予算の概算要求することになる。例年なら財務省が7月にその年度のルールを示し、各省庁が8月末までに取り組みたい事業と費用の見積もりを提示したうえで、折衝に入る。 

 

 国債と借入金、政府短期証券を合わせた政府の借金は2024年度末で1323兆円余に達し、過去最高を更新した。物価高対策など支出の拡大を税収で賄いきれず、借金が膨らんだ結果だ。財務省は増え続ける社会保障費を念頭に緊縮財政を維持したい方針とみられ、新幹線整備など多額の費用がかかる事業費について財布のひもを緩める気配はない。 

 

 財務相の諮問機関である財政制度等審議会は2024年、新幹線整備に関して建議を出している。 

 

・投資効果 

・収支採算性など着工5条件の順守 

・環境への影響 

・自治体の不同意 

 

などリスクを考慮した着工判断を求める内容が含まれ、与党内に小浜・京都ルートを国費で建設しようとする声があるのを牽制する財務省の思惑を反映しているとの見方もある。 

 

 このまま京都府市の理解を得るために時間をかけすぎると、石川県が小浜・京都ルートを否定する動きを強めかねない。かといって1、2回の説明会で京都府市が納得するはずもない。反対団体向けの説明会を開けば、混乱を助長させる可能性がある。 

 

 北陸3県の足並みが乱れ、京都府市の納得も得られないなか、概算要求しても財務省からすんなり認められるのだろうか。国交省や鉄道・運輸機構、与党整備委員会は苦しい状況に追い込まれている。 

 

高田泰(フリージャーナリスト) 

 

 

 
 

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