( 293490 )  2025/05/24 04:18:33  
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政府は備蓄米の放出を決定したが、価格は下がらず、物流の問題が顕在化している。

備蓄米が消費現場に届いておらず、配送や手続きの問題があり、コメの価格が高止まりしている。

また、備蓄米の入札でJA全農が多くを落札していることも問題視されている。

消費者へ早く供給するべきだったが、発想が誤っていると指摘されている。

(要約)

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備蓄米はなぜ「スタックしている」のか 

 

【全2回(前編/後編)の前編】 

 

「備蓄米」放出開始から約2カ月たつが、コメの価格は依然として高い。政府がその原因とする物流の“スタック”はどこで起きているのか探ると、現場からは意外な声が。輸入米への期待感も高まっているが、米価が下がるのはいつなのか、その先行きを予測する。 

 

 *** 

 

 一体いつまで続くのか――店頭に並ぶコメの価格を見て、そう嘆息したくなるのも無理はない。今月4日までの1週間で販売されたコメの平均価格は、5キロで4214円。前週からわずかに値下がりしたものの、昨夏にコメが著しく品薄になった「令和の米騒動」以降、高止まりしたままだ。 

 

 スーパー「アキダイ」の秋葉弘道代表いわく、 

 

「大体5キロ4000〜4500円と、昨年同時期の2倍ほどの値段で推移しています。TVでコメの話題を頻繁に取り上げるため食べたくなるのか、売り上げもやや増加している」 

 

備蓄米の流通状況 

 

 需要が供給を上回る状態に対して、2月に政府は備蓄米の放出を決定、4月までに約31万トンが落札された。 

 

 しかし、 

 

「価格を下げるには至っていません。江藤拓農水相(当時、以下同)は、流通段階でコメがスタック(停滞)していることを原因に挙げています」(経済部記者) 

 

 確かに、ほとんど消費の現場に備蓄米が届いていないという実情がある。やり玉に挙げられた流通を担う卸売業者は「そもそも国の見通しが甘い」と嘆く。 

 

「備蓄米には令和5年産の古いコメも含まれ、倉庫の奥から取り出さなくてはいけません。大量の備蓄米を移送するなど前例がないわけで、現場はパニックですよ。受け取りの手続きも煩雑だし、トラックドライバーも不足しています」 

 

 この業者では20トンを発注したが、届くまでに約2カ月を要した。さらに精米・包装を経ることを考えれば、店頭に備蓄米が並ぶのは6月以降と予測する。また、その値下げ効果は限定的だとも言う。 

 

「原則、卸売は年間契約している外食産業や加工食品企業といった、大口顧客を優先します。小売りにまで行き渡らせるには、備蓄米だけではとても足りません。日本は1カ月に約60万トンのコメを消費しますから、放出分なんてすぐ底を突きますよ」 

 

 

 加えて近畿大学農学部の増田忠義准教授は、これまでの入札で放出されたほとんどをJA全農が落札したことが“スタック”の一因ではないかと指摘する。 

 

「備蓄米の入札は、原則1年以内に同品質・同量のコメを政府が買い戻す条件の下で行われました。いま備蓄米をガンガン出荷して、1年後に政府に新米を返すとなれば大損です。さらに備蓄米を大量に出せば、米価が暴落するリスクもある。ある程度セーブしつつ出荷したいというのが、JAの本音ではないでしょうか」 

 

 さも価格高騰への“切り札”であるかのように放出された備蓄米だが、かように消費者の手に届きづらい事情がいくつもあるのだから期待外れだ。 

 

「大体、入札の条件を緩和して参加する業者の数を増やしても、入札価格に上限がなければ競争で落札価格はつり上がる。実際、JAは玄米60キロあたり約2万1000円と、民間取引価格より高水準で落札しています。いくらそこに“利益を乗せない”とうそぶいても、2万1000円以下の価格で卸に売ることはできないわけです。本来であれば、卸や小売りといった、消費者に近い“川下”に備蓄米を迅速に放出すべきでした」(同) 

 

 単に出発点を誤っているだけの話だというのだ。 

 

 一方で、大手米卸「木徳神糧」の1〜3月の営業利益が前年同期と比べ4.5倍の伸長を見せ、市場の注目を集めている。ネット上では江藤大臣の“スタック”論に釣られてか「国民が大変な時にコメをため込み、私腹を肥やしている」といった投稿まで見られるのだ。 

 

 こういった声に対して、前出の業者が反論する。 

 

「卸売はコメを買い付けて精米、包装して売るというサイクルをいかに回すかが肝で、どこも薄利多売なのです。大量にため込んでいるなんて言われますが、そんなことをすれば空調管理費、倉庫の維持費がかさむだけ。むしろ入荷分はとっととさばきたいんですよ」 

 

 木徳神糧の業績アップについても、 

 

「不足を見込んで多めに仕入れたものが、高い相場で売れたというだけでしょう。それに普段なら、古米を在庫処分するため特価で売り出す必要がありますが、今は入荷するなり売れていく。そういった損切りの必要もありません」(前出の業者) 

 

 好調に沸くどころか、業界内ではコメ不足の危機感が広がっているという。 

 

「相場がいつ下がるともしれませんから、今のうちに売りたいのが本心です。とはいえ、新米が出る前の7月にコメが無くなれば、昨夏の二の舞となる。どの業者も普段の1割増しほどでコメを確保し備えているはずですが、それを“スタック”だの“ため込んでいる”だの言われたらたまりません。そもそも相場を操作できるほどのキャパシティーを持つ業者なんて、まずいないのです」(同) 

 

 後編【コメ高騰でも農家は「負債の返済に回し、廃業」 2026年秋までは高値が続くという見通しも 「米価がどっちに転んでもコメ農家を続けるのは厳しい」】では、値上がりによって潤っているはずの農家ですら「続けるのは厳しい」と語る理由について詳しく報じる。 

 

「週刊新潮」2025年5月22日号 掲載 

 

新潮社 

 

 

 
 

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