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2024年6月15日、長野県岡谷市で撮影されたスカイラインGT-R(R32型)は、技術の象徴とされている。

2025年5月13日に日産自動車の社長が新たな事業再生計画を発表し、新型スカイラインが最初の投入モデルとして挙げられた。

再生計画にはコスト削減や苦渋の施策も含まれているが、前向きなメッセージもあり、新型スカイラインやインフィニティのコンパクトSUVなどが注目されている。

再生計画では日本市場でのブランド強化が重要視されており、「ワクワクするクルマ」を活用して展開する考えだ。

スカイラインは日産のDNAを象徴し、将来の成功に期待が集まっている。

(要約)

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「技術の日産」を象徴する往年のスカイラインGT-R(R32型)=長野県岡谷市で2024年6月15日、川口雅浩撮影 

 

 「大事なのは日産の心臓の鼓動を取り戻すことだ。日産のブランドを活用し、ワクワクするハートビートモデルでブランド力を強化したい」。日産自動車のイバン・エスピノーサ社長は2025年5月13日、新たな事業再生計画を発表した記者会見で、こう力を込めた。日産が復活を目指し、最初に投入するモデルの一つは「新型スカイライン」だという。【毎日新聞経済プレミア・川口雅浩】 

 

 スカイラインは「技術の日産」を象徴する名車だ。新型スカイラインの投入で、日産は本当に「心臓の鼓動」を取り戻せるのか。 

 

 日産が「Re:Nissan」と名付けた再生計画は、工場閉鎖や人員削減などのメニューがズラリと並ぶ。「先行開発や26年度以降の商品の開発を一時的に停止して、コスト削減活動に集中的に取り組む」という。日産ファンなら、悲しい気持ちになるだろう。 

 

 しかし、「開発期間を短縮するプロセスを迅速に適用することで、商品の市場投入を遅らせることはない」「日本ではホームマーケットにおけるブランドを強化する」という前向きなメッセージもある。ユーザーにとっては、ここがポイントだ。 

 

 日産は部品種類を70%削減し、プラットフォーム(車台)の数も現行の13から32年度に9、35年度に7まで減らすという。この新たな再生計画で最初に投入する車種として、日産は新型スカイラインやインフィニティのコンパクトSUV(スポーツタイプ多目的車)などを挙げた。前者は日本市場、後者は北米市場を意識している。 

 

 ◇「ワクワクするクルマを活用する」 

 

 いくら工場閉鎖やコスト削減を進めても、魅力的で売れるクルマがなければ日産は再生できない。当たり前のことだが、日産がここまで疲弊したのは、世界的にヒット車がなかったからだ。世界に先駆け、10年に電気自動車(EV)の初代「リーフ」を発売。22年には社運をかけ、第2弾のEV「アリア」を発売したが、米テスラや中国の比亜迪(BYD)との差を埋めることはできなかった。 

 

 5月13日の再生計画の発表記者会見では、「日産の復活には、よい商品が鍵になる。社長にとって、よいクルマとはどのようなものか」との質問が出た。冒頭のエスピノーサ社長の発言は、この質問に対する回答だ。 

 

 エスピノーサ社長は「日産の心臓の鼓動を取り戻すには、コアのDNAとなる日産のクルマ、ワクワクするクルマを活用する。これで皆さんを笑顔にしたいと思っている。日産は多くのファンや愛好者がたくさんいるブランドだ。これを活用してグローバルに展開していかなければならない」と述べた。 

 

 日本市場で日産が活用する「ワクワクするクルマ」の筆頭がスカイラインというわけだ。スカイラインは1960年代から90年代にかけ、人気を博した高性能セダンだ。歴代のスカイラインは「箱スカ」「ケンメリ」などの愛称で呼ばれ、憧れの存在だった。 

 

 とりわけ89年発売の8代目(R32型)スカイラインでスポーツモデルの「GT-R」が復活してから、98年発売の10代目(R34型)までの歴代GT-Rは今も人気が高い。中古車市場ではR32型が1000万円台、R34型が3000万円台などで取引されている。約30年前の中古車で、これだけの価格を維持している日本車は皆無に近い。 

 

 GT-Rは07年にスカイラインから独立して「日産GT-R」(R35型)となり、25年まで生産が続いた。GT-Rは新規の受注を終了したため、中古車市場ではさらなる価格高騰が予想される。歴代GT-Rのブランド力は日本車として突出している。 

 

 ただし、GT-Rが独立した後のスカイラインは、14年に13代目の現行モデルとなって以来、フルモデルチェンジがなく、地味な存在となっている。日産はまず、ここをテコ入れするようだ。 

 

 ◇テスラやBYDに追いつける? 

 

 エスピノーサ社長は再生計画で示した「日産のDNAを体現するアイコニックな車種」として、スカイラインとともに「フェアレディZ」を例示した。フェアレディZはGT-Rと並ぶスポーツカーとして、世界中に熱烈なファンがいる。 

 

 スカイラインやフェアレディZのような伝統と人気のあるモデルを複数抱えるメーカーは、日本では日産だけといってよい。トヨタ自動車の豊田章男会長が22年の「東京オートサロン」で、日産が初公開した新型Zについて「日産のみなさん、Zには負けませんから」と対抗心を見せたのは、日産にはトヨタにないブランド力があるからだろう。 

 

 日産はそのブランド力をどう生かすのか。新型スカイランはセダンからSUVになると予想される。姿は変わっても、かつての「箱スカ」や「ケンメリ」のように時代をリードし、みんなが憧れるクルマになるのか。注目度は高いだけに、ファンの期待を裏切ることになれば、日産の再生は遠のくだろう。 

 

 同じことは3代目となる新型リーフにもいえる。日産は25年半ばに新型リーフの詳細を発表する予定だが、EVのパイオニアとしてテスラやBYDに追いつくだけの革新性や利便性を示せるか。 

 

 日産とホンダの経営統合は白紙となった。交渉を知る日産のあるエンジニアは「日産とホンダでは部長や課長の裁量で使える予算のケタが異なり、開発のスピード感が全く違う。その差を知り、お互いに驚いた」と筆者に漏らした。最後の切り札ともいえるスカイラインで、日産は今度こそ復活できるのか。再生計画の真価が問われるのはこれからだ。 

 

 

 
 

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