( 293975 )  2025/05/26 03:34:16  
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大阪拘置所で5年半勾留された元収容者の男性が、確定死刑囚が執行される朝の様子を日記に記録し、その後死刑が執行されたことを知った。

男性は、確定死刑囚として治療されている人物がいることに気付いた。

執行当日の拘置所内の緊迫した様子を証言し、幕が張られた房から刑務官と確定死刑囚のやり取りを目撃した。

法務省が3人の死刑執行を発表した後、確定死刑囚の1人が死刑が執行されたことを知り、死刑執行の非人間的な扱いを批判している。

関西の弁護士が主催する勉強会でも証言し、死刑囚に告知を行うタイミングの問題に対して法的手続きを取る確定死刑囚がいることも報じられている。

(要約)

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大阪拘置所での勾留中に元収容者の男性がつけていた日記。「今日の朝、何かあったんかな?」「刑務官にかこまれた奴が通り過ぎた」と記した。その後、死刑が執行されたと知った(画像の一部を加工しています) 

 

 確定死刑囚が収容されている大阪拘置所で2021年、執行当日の朝に連れ出される死刑囚の様子を目撃したという元収容者の男性が、このほど京都新聞社の取材に応じた。死刑囚と隣り合わせの房で生活した経験や、当日の緊迫した拘置所内の様子を証言した。 

 

■周囲と異なる扱い、確定死刑囚と気付いた 

 

 大阪府の男性(36)。傷害致死罪などで起訴され、大阪拘置所に5年半勾留された。一貫して無罪を訴えて昨年夏に保釈が認められ、昨年11月、大阪高裁で逆転無罪が言い渡された(大阪高検が上告中)。 

 

 大阪拘置所では独房(単独室)に収容され続けた。他の収容者との会話は許されず、周囲に誰がいるかも知らされなかった。しかし長く過ごすうちに、血圧や体重の測定が頻繁にあるなど、異なる扱いを受けている人がおり、確定死刑囚だと気付いたという。 

 

■黒い幕が張られ、刑務官は怒鳴った 

 

 男性の日記によると、異変が起きたのは21年12月21日。午前7時半に起床のチャイムが鳴ったが、毎朝の点呼が始まらずやけに静かだった。けげんに思っていると、いきなり廊下から階段につながるドアが開き、大勢の刑務官の靴音が所内に響いた。 

 

 扉の窓から廊下をのぞくと、三つの房で扉の窓に黒い幕が張られ、扉の前に刑務官が立った。いずれも確定死刑囚が収容されているとみられる房だ。男性の房は幕が張られなかったが「何もないから。着座位置に座れ」と刑務官に怒鳴られた。照明が薄暗くなり、幕を張られた房の収容者が興奮したのか、刑務官を呼ぶボタンを何度も押し、廊下で赤いランプがこうこうと光った。 

 

 廊下の奥から、黒いジャンパーに青いスリッパ姿の男性収容者が、7人ほどの刑務官に囲まれて歩いてきた。肩を小さく丸めながら通り過ぎる収容者と、「目が合ったような気がした。がっくりしているように見えた」 

 

■「おそろしいとこや、ここは」 

 

 一団が階段の方に去った後、「配食準備」の声がかかり、朝食の用意が始まった。最初に異変を感じてから5分ほどの出来事だった。昼前には、確定死刑囚とみられる収容者の1人が「睡眠薬をくれ。あんなことがあったら眠れない」と訴える声が響いた。「あんなんするって聞かされてなかった。ごめんな」となだめる刑務官の声が聞こえてきた。 

 

 夕方、法務省が3人の死刑執行を発表したことを伝えるニュースがラジオで流れた。うち1人が、兵庫県加古川市の7人刺殺事件で死刑が確定し、大阪拘置所に収容されていた藤城康孝元死刑囚=執行当時(65)=だった。朝に目にした収容者と思われる名前を初めて知った。「おそろしいとこや、ここは。絞首されてる時に、俺らは何も知らんと、のんきにメシを食ってる」「通り過ぎる光景が忘れられへん」。男性は翌日の日記にこう記した。 

 

 

 男性は、死刑関連の問題に取り組む関西の弁護士が開催する勉強会でも証言している。死刑執行の当日告知を巡っては、大阪拘置所の確定死刑囚2人が、当日の告知では不服を申し立てることができず違憲だとして、国に損害賠償などを求めて提訴。大阪地裁は訴えを却下・棄却したが、二審の大阪高裁は3月、却下部分の審理を地裁に差し戻した。 

 

■専門家「さよならも言えない、非人間的な扱い」 

 

 刑事施設での死の在り方を研究する龍谷大の古川原明子教授(刑法)は、男性の証言を「近年の執行に関する情報は少なく、貴重だ」と指摘する。「周囲の収容者が『さよなら』といった声をかけることさえできないとすれば、非人間的な扱いだ」と現行の運用を批判する。 

 

 死刑執行の時間は法務大臣の命令から5日以内とする刑事訴訟法の規定以外に定めはないが、国会答弁などによると、本人の心情の平穏を保つためとして当日の1〜2時間前に告知し、絞首刑を執行する。古川原教授によると、米国では州によって数日から数十日前に執行日が告知され、世間にも広く知らされる。本人に書面で手順などを説明し、自殺などを防ぐため監視体制が強化される。 

 

 古川原教授は「死刑囚は罪の責任を負う主体的な人間として扱うべきだ。事前告知か直前告知かを選べるようにした上で、死に向き合う機会を与えることが望ましい。適切に執行されるかどうか国民が監視することも必要だ」と話す。 

 

 

 
 

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