( 295271 )  2025/05/30 08:17:37  
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男性が拘置所で失明寸前の視力低下に至り、保釈を求めていたが認められず、適切な治療を受けられなかったことについて、国に賠償を求める裁判が大阪地裁で行われた。

裁判所は男性が自ら外部の医療機関での治療を希望しなかった可能性や、拘置所の医師の意見を考慮して男性の請求を退けた。

男性側は大阪高裁に控訴する方針。

(要約)

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MBSニュース 

 

無罪推定が及ぶはずの未決拘禁者だったのに、外部の医療機関での適切な治療を受けられず、失明寸前の著しい視力低下に至った__。現在服役中の男性が、拘置所での勾留中に保釈請求が認められず、眼の治療の機会を奪われたのは不当だとして、国に賠償を求めていた裁判。大阪地裁は5月29日、男性の請求を退けました。(松本陸) 

 

訴状によりますと、原告の50代男性は2019年11月、覚醒剤取締法違反の罪で逮捕・起訴され、2020年12月に懲役7年の有罪判決が確定。現在、服役しています。 

 

男性は起訴後も大阪拘置所に勾留されていましたが、2019年12月、右眼の急激な視力低下を訴え、拘置所の医師の診察を受けました。医師は網膜出血が起きていることを確認し、男性が糖尿病、および糖尿病網膜症に罹患していると診断しました。 

 

糖尿病網膜症は、糖尿病の3大合併症のひとつで、成人が失明する原因の上位に位置しています。 

 

拘置所の医師は男性に対し、すぐにレーザーで手術しなければ失明のおそれがあり、外部の医療機関で治療を受ける必要性を伝えました。男性は、弁護人(今回の訴訟の代理人でもある)に対し、「いよいよ右目が見えません。早急に保釈申請してください。恐怖を感じています。失明の。」などと記した電報を送りました。 

 

なお、起訴された段階で男性は、起訴内容を認めていました。 

 

弁護人は「専門的な医療機関での治療が必要だ」として、1回目の保釈請求を実施。 

 

これに対し検察官は「男性は捜査段階を通じて一貫して起訴内容を否認している」「男性の糖尿病網膜症は初期段階で、保釈して手術を経ないと治療困難な状態とは認めがたい」などとして、保釈に強硬に反対。大阪地裁(第10刑事部)は保釈請求を却下し、弁護人が準抗告しましたが、それも退けられました。 

 

この際、大阪地裁(第10刑事部)の裁判官が拘置所に病状を照会することはなかったといいます。 

 

しかし、大阪地裁(第7刑事部)は準抗告棄却の決定の中で、「検察官は被告人は一貫して事実を否認していたと主張するが、明らかに誤りだ」とも指弾しました。 

 

 

MBSニュース 

 

その後、男性側は2020年4月までに2回目・3回目の保釈請求も行いましたが、いずれも却下されました。症状は進行し、4月上旬には右眼の視野の大半が失われた状態に陥ったほか、4月下旬の拘置所での診察では、右眼球内の浮腫(水がたまって視野を妨げる状態)の増悪が確認されました。 

 

拘置所の医師も「大阪拘置所では対処不能の状態であり、外部の医療専門施設での加療が必要」との所見を示しましたが、拘置所長がその所見を聞き入れることはありませんでした。 

 

さらに、弁護人が関連資料の開示請求を行ったところ、検察側からの照会に回答する際、視野欠損や浮腫についての医師の所見を、拘置所側が記載していなかったことも判明しました。 

 

男性側は2020年5月、4回目の保釈請求を行い、これは認められました。しかし検察官が準抗告した結果、保釈金が増額されたほか、一部を保証書で代納してもよいとする許可も取り消されました。結果的に男性は保釈金を納められず、勾留が続く形となりました。 

 

その後、弁護人が拘置所に「男性への加療を行う医療機関を確保したか」を問いただすと、拘置所側は「入院加療を引き受ける医療機関が見つからない。何らかの形で保釈を得て、男性自ら医療機関を探してほしい」と“突き放した”といいます。 

 

1回目の保釈請求以降の一連の過程で、拘置所側は、診療録の写しを弁護人に開示することも一貫して拒否しました。 

 

結局、男性側は保釈請求ではなく「勾留の一時執行停止」を申し立てることを選択。この申し立てを大阪地裁は認めました。 

 

1回目の停止期間は2日間でしたが、その2日間で医療機関を探し、手術の段取りを決定。2回目の停止期間(14日間)で入院し、両眼の手術を受けました(左眼も症状悪化が進んでいた)。 

 

男性は完全な失明はまぬがれたものの、術後の視力検査では著しい視力低下が判明。右眼の視力は裸眼・矯正いずれも0.03(矯正不能)にまで低下していたといいます。 

 

 

大阪地裁に入る代理人弁護士ら(29日午後1時ごろ) 

 

男性は「拘置所長・検察官・裁判官は、適切な治療を受ける機会を合理的理由なく剝奪した。無罪推定の原則が及ぶはずの未決拘禁者に対し、最低限の治療すら行わないまま漫然と身体拘束を続け、失明の現実的危険を放置し、不可逆的な視力低下に至らせた」として、国に対し約1億1500万円の賠償を求め、2022年12月に大阪地裁に提訴していました。 

 

大阪地裁(成田晋司裁判長)は5月29日の判決で、▽原告男性が、自らが選んだ医療機関での治療を受けたいがために保釈を希望し、他の外部医療機関での診療を拒んでいた可能性を排斥できないと判断しました。 

 

また、▽大阪拘置所の医師は、2020年4月の診察時点で、2週間~1か月以内に症状が急激に悪化するおそれはないと判断した旨を述べており、その医師の判断を前提とした拘置所の検察庁への回答が違法だったとも認められない ▽新型コロナの感染拡大を受けて大阪府下に緊急事態宣言が出されていた状況も踏まえると、同年4月以降の時点で、男性が希望しても外部医療機関を受診できなかった可能性は相当高かったと言わざるをえない と指摘。 

 

男性側の請求を全面的に退けました。男性側は大阪高裁に控訴する方針です。 

 

 

 
 

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