( 295708 ) 2025/06/01 06:24:19 0 00 (写真:barman/PIXTA)
「日本の財政破綻リスクが高まってきた」、と、私以外の人も言うようになってきた。
東京財団は「財政危機時の緊急対応プラン」という研究プログラムを行っており、今年3月17日に「プランB:財政危機に政府はどう備えるべきか」というシンポジウムを行い、3月31日には「財政危機時の緊急対応プラン2025」という報告書を公表している。
この報告書は、自民党の財政改革検討本部全体会合(本部長:小野寺五典・政調会長、4月8日開催)、財務省の財政制度等審議会(会長:十倉雅和・日本経団連会長、4月9日開催)において相次いで取り上げられた。
局面は、もはや「財政破綻するのは、いつか」というステージに移行している(ただし、東京財団の研究は、あくまでプランBであり、破綻しないようにするのがベスト、しかし、破綻危機になればどうする、それにどのように備えておくべきか、という議論をしている)。
■日本の財政破綻は「すでに始まっている」
いったい、日本の財政破綻は、いつ起こるのか。
もう起きている。財政破綻はすでに始まっているのである。
「財政破綻の定義は何か」と言われるだろうが、デフォルトと捉えれば、法的に公式な定義は、債務不履行、つまり利払い停止または延期が起きるということだ。
しかし、現実には、「資金調達ができなくなったとき」、それが「実質財政破綻」の定義と言っていいだろう。20世紀であれば、国債発行残高の過半を日銀が保有している段階で、実質財政破綻とみなされただろうから、異次元緩和イコール財政破綻とみなされただろう。
ただ、21世紀、世界的に中央銀行に国債を保有させる行為が広がり、人々の感覚が麻痺してしまい、現在、そういう解釈は少数派だ。しかし、中央銀行が、直接引き受けをしたり、政府に直接融資をしたりすれば、21世紀においても、明らかな財政破綻とみなされるだろう。
■超長期国債入札の「記録的不調」が意味するもの
結局、民間の主体、政府以外の経済主体が金(カネ)を貸してくれなくなったら財政破綻なのである。マネーを大量に発行してハイパーインフレになるのも、この財政破綻に当たると解釈できるから、この定義が実質財政破綻として妥当であろう。
となると、これは、始まっている。財政破綻は始まっているのである。
5月20日の20年物国債の入札は記録的な不調(値が大きいほど不調とされる指標「テール」(平均落札価格と最低落札価格の差)は、1987年以来の大きさだった)になり、日本経済新聞をはじめ、世界中のメディアが一斉に報じた。
これを受けて30年物、40年物は、ともに歴史上最安値を更新した。財務省が6月20日に債券市場参加者を集めたプライマリー・ディーラー会合を開くことになったと日本経済新聞は5月27日に報じた。
足元の債券市場で超長期国債の金利が上昇していることを議論し、需給の悪化を踏まえ、超長期債の発行計画を修正するという観測が広がっている。年度途中で発行計画についてヒアリングをするのは異例のことだ。
2025年度の発行計画においては、市場の意見も踏まえ、すでに30年や40年債の発行をそれぞれ1.2兆円減らし、5年債や短期国債を増やしていた。つまり、もはや日本政府は、超長期債では資金調達が困難になってきているのである。そして、それは今年度に入ってから急速に悪化しているのである。
また、日銀は、国債買い入れ額の減額を少しずつ進めているが、需給に配慮して、残存年限25年までの国債買い入れを減額している一方、25年超の年限では減額に着手していない。それにもかかわらず、超長期債は利回りの上昇が続いているのである。さらに、5月28日に実施した40年物国債入札では、最高落札利回りが2007年に入札を開始して以降で過去最高の3.135%となった。
「綱渡りを続けがんばっている」「世界最高の能力を持つ」と言われている財務省理財局の努力に水を差すようで申し訳ないが、限界に近づいている(普通の当局だったら、限界を超えている)のである。
そこへ持ってきて、外部環境も悪い。日銀は、国債買い入れ減額の2026年4月以降のペースの見直しを6月の政策決定会合で行うこととしている。これも市場の思惑を呼ぶ。
さらに、最大の問題は、アメリカのドナルド・トランプ大統領である。米国債が格下げとなり、それにもかかわらず、大減税法案を審議中である。根強いインフレが続き、中央銀行であるFEDの利下げも見込みにくく、そこで大減税実現となれば、国債は大幅下落となるだろう。
■アメリカへの信認低下は世界的な金融暴落につながる
そして、私個人の最大の懸念は、トランプ大統領がすでに壊れてしまったのではないか、ということだ。EUへの追加関税50%を執行するといってみたり、即日にそれを撤回したり、駆け引きではなく、ただのご乱心、不安定である。
さらに、ハーバード大学への留学生受け入れ禁止は、ハーバードに恨み、攻撃をする、ということで、一応の動機はわかるが(本当はわからないが)、アメリカの大学留学を希望する学生への「ビザ発給面接の新規受付一時停止」は、まったく意味不明であり、いかなる動機でも説明できない。
やはりトランプ大統領は壊れたのだ。
トランプ政権の信任はアメリカへの信任、それはアメリカ国債にもっとも如実に現れる。株式や為替市場は、トレーダーたちの欲望とセンチメントが前面に出てくるが、国債市場は、理屈の市場、合理的な論理が価格に反映される。だから、アメリカへの信任低下は、米国債暴落となり、アメリカ信任低下なら、ドル安、そのほかの通貨は? ということを超えて、世界的に金融市場トリプル安、リスク資産はすべて暴落となるだろう。
そのときには、いちばん弱いところから攻撃を受けるから、日本なら、それは為替を絡めて、国債を攻撃されるだろう。
つまり、現状よりも悪くなるシナリオしか想定できず、そのインパクトの大きさ、最後のショックの引き金が何か、ということが議論になるだけで、改善の見込みはゼロである。
それでいて、現状は前述のように、危機的、破綻は始まっているのだから、破綻は確定であり、逆から言えば、破綻を後から振り返ったとき、現時点2025年5月末には、それは始まっていたということになるだろう。
さて、ここまでの議論は、世間での財政危機議論とまったく違うことに気づかれただろうか。普通は「借金の額がいかに大きいか」「対GDP比何パーセント」などという話がまず出てくる。次には、金利負担が上昇し、長期金利が4%を超えれば警告、7%を超えたときが危機という感じの金利上昇による財政負担の話になる。
私の議論には、どこにもない。なぜか。これらの話は、財政破綻が起きるかどうかとは直接は関係ないからである。
■「値下がりし続ける」と思われた時点で潮目は変わる
前述したとおり、財政破綻は、借金を引き受けてくれる先があるかどうかに尽きる。そして、日銀以外の民間投資主体は、国債を買うかどうかはリターンの見通しだけで決める。となると、日本政府が支払い不能になるかどうかよりも先に、民間投資主体が国債を「買いたくない」と思うときはやってくる。
それはいつか。単純に考えれば、政府が支払い不能になるという「噂」や「懸念」が広まると、だれも国債を買わなくなる、という銀行の取り付け騒ぎに類似した状況が想定される。
それはもちろんそうなのだが、それよりずっと前に、財政破綻はやってくる可能性はあるし、実際、日本の場合は、そのリスクは高いだろう。
それは、単に国債が今後値下がりすることだけで起こりうる。つまり、国債の値下がりが続くと、国債投資主体が予想するだけで起こる。「今日は1.5%だが、来月には2%になるかも」、と思えば、今日買う理由はない。とりわけ新発債入札に関してはそうだ。既発債の流動性の高いマーケットで少しずつ買えばよい。となると、新発国債の入札は不調に終わる。利回りが極端に高い水準で成立するか、まったく成立しないか、それを恐れて、財務省が入札を延期するだろう。
しかし、この3つのどのシナリオが起きても、既発債市場はパニックになる。国債暴落のリスクが目の前にあり、かつ流動性のある市場が目の前にある。現在国債を保有している投資家は「とにかく売れるうちに売っておこう」ということになり、一方、国債に投資しようとしている投資家は、今、買う必要はない、ということになる。みんなが売ろうとし、買おうとする人は誰もいない。だから暴落する。
株式と違うのは、債券には満期があるということで、普通の場合はこれがパニック売りの歯止めになる。なぜなら、暴落がいったん始まったら、株ならとにかくまず売って、底で買い戻すという戦略がとられるので、パニック的に一気に売りが加速するが、底打ちも早く、そこから戻す展開になる。
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