( 295713 ) 2025/06/01 06:31:31 0 00 不正駐輪を取り締まるビジネスが(CPGのHPより)
「保育園に子供を迎えに行ったら、有料の駐輪場に朝停めていたはずの自転車が移動させられて、勝手にチェーン型のカギがかけられていたんです。
自転車には『不正車両ロック中』と書かれたフダが付けられていて、わけもわからぬままQRコードを読み取ると、ロックを解除するために6000円近い“罰金”を請求されて……」
こう嘆くのは、東京都在住の女性・Aさんだ。実は最近、「不正駐輪車両」が民間企業によって施錠され、高額を請求されるケースが相次いでいる。
こうした取り締まりを行っているのは、「Cyber Patrol G(以下、CPG)」。愛知県名古屋市の株式会社サイバーGが行っている「不正駐輪・不正駐車取り締まり事業」だ。
同事業では、「CPG」が業務委託しているとみられるスタッフが、有料の駐輪場に未登録のまま駐輪していたり、ロック式なのにロックがかからないまま放置されている自転車・バイクなどを「不正駐輪車両」として施錠。ロック解除の番号を教える代わりに金銭を請求しているとみられる。
「CPG」はホームページ上で〈不正駐輪・不正駐車根絶へ〉〈一人ひとりの勝手な行動が、後を絶たず横行している世の中。私たちはこの問題を根絶するため、徹底的に取締を行います〉とし、事業内容について下記のように記している。
〈私たちは土地やビルのオーナー、管理会社から委託を受け、対策が困難であった私有地における不正駐輪・不正駐車の取締を行っています。不正駐輪・駐車は、私有地の侵害になるだけでなく、お年寄りや緊急車両の通行を妨げることもありとても危険です〉 〈しかし、ロックしても支払いに応じず鍵を破壊するなどして逃亡する不正者がいます。私たちはこうした不正を徹底的に追及しています。悪質な不正者は、刑事事件として立件されたり、解雇・解任処分となって社会的責任を果たすまで追及しています〉
冒頭のAさんは、まさに「CPG」の取り締まりを受けた1人だった。Aさんが当日の様子を振り返る。
「朝、自転車で子供を幼稚園まで送り、近くに新しくできていたラック型の駐輪場に自転車を停めて、そのまま出社しました。それで、夕方に子供を迎えに行ったところ、ラックから自転車が外され、隣接する『みんちゅうSHARE-LIN』という駐輪場の敷地内に自転車が移動された上で、チェーン型の鍵がかかっていたんです。
朝停める時に『ガチャン』とラックにハマる音も聞いていましたが、本当に自転車がロックされていたかと言われたら、100%の自信はありません。それでも、カギがかかったままでは子供と家に帰れない。それでQRコードを読み込むと、まず住所やメールアドレス、電話番号など個人情報の入力を求められ、最終的にカギを外すための“罰金額”が提示されました」
この“罰金”の内容は、「損害賠償金(1100円)+自転車管理料(4400円)+自転車日別管理料(330円/日)」。Aさんはその時点で5830円の支払いを要求されたのだ。
「そもそも自転車が別の場所に移動されていたし、ホームページも威圧的で信頼できなかったので、もともと停めていた駐輪場の掲示板に書いてあった『緊急連絡先』に電話しました。すると、『私たちが取り締まったわけじゃないから、カギを壊して帰っていい』と指示されたので、保育園でペンチを借りてカギを切断し、その日は帰ったんです。
しかし、私が個人情報を入力してしまっていたのが悪かったのか……約一週間後、追って支払いを求める『催告書』というタイトルのメールが届いたんです。“日別管理料”が加算されて、1万円近い金額になっていた。私にはたくさん言い分がありましたが、住所も入力してしまっているし、これ以上金額が増えるのも嫌だったので、泣く泣く支払いました……」(Aさん)
「CPG」の公式サイト下部には、「警視庁」「警察庁」「国土交通省」「日本弁護士連合会」「裁判所」という文字とともに、各所のホームページのリンクが貼られている。さらに「逃亡車両リスト」と題されたコーナーには、「不正者の情報をご提供ください」として、取り締まったと見られる車両の写真と防犯番号、さらに電話番号の一部までが掲載されている。
AさんはこのHPの記載を見て、「私は携帯番号も入力してしまったし、個人情報を晒されるんじゃないかと思って、お金を払うことにしました」と明かした。
有料駐輪場での「不正駐輪」は事業者が頭を悩ませる課題だ。委託を受け、それを取り締まろうとする「CPG」の意図は理解できる。
しかし、個人の所有物である自転車を、民間企業が一方的にカギをかけ賠償金を請求することに、法的な問題点はないのだろうか。「CPG」は、HP上で「法的見解」について以下のように記している。
〈不正駐輪・不正駐車は、他人の所有又は管理地を不法に占拠する行為であり、原則として物権又は債権(借地権等)の侵害で違法と解されます。
土地の所有者等の権利者の許可なく、故意又は過失により、他人の土地に駐車する行為(不正駐輪・不正駐車)は、他人の権利又は利益を違法に侵害する行為であり、原則として不法行為にあたると考えられます(民法709条)。
不正駐輪・不正駐車の結果、土地の使用収益又は事業者による駐輪サービスが妨げられたことによる損害が発生した場合、加害者は被害者に対して損害賠償の責任を負うことになります〉
一方、「弁護士法人ユア・エース」の代表弁護士・正木絢生氏は、サイバーG社の事業について「違法性を否定できない」と指摘する。
「私人が司法手続によらずに自己の権利を実現する行為は『自力救済』と呼ばれ、不正駐輪車両を第三者が移動させるケースはこれに含まれますが、原則として法的に許されていません。例外的に、事態が急迫しており、公的救済を待ついとまがなく、後に権利の実現が不可能または著しく困難となる特段の事情がある場合に限り、必要最小限の範囲で認められる可能性があります。
しかしながら、その『例外』とする要件は非常に厳格です。今回のAさんのケースのように、不正駐輪車両を一律に移動・施錠する行為が、『特別の事情』に該当するとは到底言えません」
さらに、第三者が勝手に施錠することは、窃盗罪などの罪に問われる可能性もあると指摘する。
「前提として、自治体による放置自転車の撤去は、『自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律』に基づく条例によって実施されています。これに対して、『CPG』が行っている行為は、法的根拠を欠いたまま他人の自転車を勝手に移動・施錠するものであり、窃盗罪や器物損壊罪に該当する可能性が否定できません」
サイバーG社は、これらの指摘にどう答えるのか。取材を申請すると、メール上での返答があった。
——「CPG」(以下、同活動)のHPには、「停めやすいという理由で建物のデッドスペースや路上など、駐輪・駐車スペースではない場所に自転車やバイクを停め、乱雑に置く人がたくさんいます」とあります。公道に置かれている不正駐輪の自転車の取り締まりは行なっているのでしょうか。
「公道での取り締まりは行っておりません。あくまでもオーナー様から依頼を請けた土地に限ります」
——同活動では、貴社が業務委託契約を結ぶパトロール員が、報酬を受けて不正駐輪のロック・移動をしていると聞いています。こちらは事実でしょうか。
「こちらは機密保持契約に関わりますので、大変恐れ入りますが、返答は差し控えさせて頂きます」
——不正駐輪車両に鍵をかけること、また移動させることに違法性はないのでしょうか。
「当社の法的見解はHPをご参考ください」
——弁護士からは、貴社の鍵のロックや金銭請求は、「損害の実態を大きく超えている」という見解もあります。
「損害賠償金及び管理費は、巡回にかかる人件費、交通費、鍵代、保管する管理費、不正駐輪による正規利用者からのサービスへの信頼毀損といった要素を総合的に考慮し、算出しております。弁護士の監修を受け、適正な基準を元に決定されております」
——弁護士からは、CPGの活動が「自力救済」として許容される可能性は低いという見解もあります。
「当局の見解はHP上に記載しております通りでございますので、ご確認頂ければと存じます」
——HP上には、「警視庁」「警察庁」「国土交通省」「日本弁護士連合会」「裁判所」というタグが大きく添付されています。貴社活動とこれらの組織は、どのようなつながりがあるのでしょうか。
「当局の取り組みに関しまして、ご相談等させていただいている機関でございます」
不正駐輪に対する取り締まりは必要だろう。しかしその仕組みや方法には、慎重な検討や解釈が求められるのではないだろうか。
【取材協力】 正木絢生(まさき・けんしょう)/弁護士。弁護士法人ユア・エース(https://your-ace.or.jp/)代表。第二東京弁護士会所属。消費者トラブルや交通事故・相続・労働問題・離婚・借金など民事事件から刑事事件まで幅広く手掛ける。BAYFM『ゆっきーのCan Can do it!』(https://your-ace.or.jp/radio/)にレギュラー出演するほか、ニュース・情報番組などメディア出演も多数。YouTubeやTikTokの「マサッキー弁護士チャンネル」(https://www.youtube.com/@your-ace)にて、法律やお金のことをわかりやすく解説、配信中。
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