( 295841 )  2025/06/02 04:10:18  
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日本の農業や食育を学ぶ一環として行われる「田植え体験」について賛否が分かれている。

一部では、実際の農業とは異なる体験をすることでネガティブなイメージを与えるとして否定的な意見が出ている一方、体験を通じて食の生産過程を知る貴重な機会であると肯定的な意見もある。

日本の教育現場では農業体験学習が推進されており、新潟市ではスマート農業を学ぶ取り組みも行われている。

こうした取り組みを通じて、農業の重要性や食のありがたさを学ぶ機会が提供されている。

一方で、農業体験には様々な課題や苦労も伴うことがあり、支援する大人たちの努力や苦労も考える必要がある。

(要約)

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「田植え体験」の学習は必要か? 

 

一向に収まる気配のない「令和のコメ騒動」。備蓄米の売り渡し方法の見直しで店頭価格の値下がりが期待されるが、コメ需要の減少や農家の後継者不足などの課題は山積したままだ。そんな中、全国では田植えのシーズンを迎え、教育現場でも食育体験等の一環として「田植え体験」を行なう学校が多く見られる。ところが、Xのある投稿が賛否を巻き起こしているのだ。 

 

長引くコメ不足と高騰。農水相の交代により備蓄米の売り渡し方法を随意契約に方針転換するなど状況は刻々と変化しているが、それでも「令和のコメ騒動」が収まる気配はない。 

 

そんな中、全国では田植えのシーズンを迎えている。教育現場でも、食育活動等の一環として田植えに取り組む学校が多く見られ、子どもたちがそろって励む姿をニュースで見た人もいるのではないだろうか。 

 

ところが、Xに投稿されたある投稿が賛否を巻き起こしている。 

 

「手植えを体験させて『大変』なんてネガティブ思考を子どもに植えつけるの止めてほしい」 

 

農家であるという投稿者は、子どもたちが手植えに挑戦したというニュースを引用し、「いまコメ農家はこんな田植えはしていない」と発信。「田植え体験」に否定的な意見を述べたのである。 

 

これをめぐってXには、 

 

「伝えたいのは『実際の農業を教えること』ではなくて『体験に基づくその輝く瞬間』だと個人的には思います」 

 

「お米はどうやってお米になるのかを体験として知るいい機会だと思います」 

 

「食育の一環として、手植えは良いと思うなぁ…機械で出来ないところは、手植えだし…」 

 

「私の通ってた小学校では、体験授業の最後に田植機が登場して手作業の何倍もの速さで終わらせて文明の利器ってすげーって終わり方でしたね」 

 

「個人的には田植え体験して良かったと思っている身ですが、今現実的に農家さんが工夫されている方法や農機具等も同時に学ぶべきなのだと思います」 

 

など、さまざまな声があがったのだ。 

 

 

全国の公立小学校のおよそ80%で農業体験学習が実施されているというデータ(全国農村青少年教育振興会 2010)にもあるように、日本の教育現場では積極的に農業を体験する機会を設けており、中でもコメ作りに取り組む学校は少なくない。 

 

そうした中、全国有数のコメどころである新潟県新潟市では、市内の小学校でスマート農業(ロボットやAI、IoTなどの先端技術を活用する農業)学習を進めており、実施する学校数は年々増えているという。 

 

取り組みの内容について、市の担当者に話を聞いた。 

 

「新潟市は、SDGsの達成に向けて優れた取り組みを行なう自治体として2022年度に『SDGs未来都市』に選定され、その中核事業である『食と農のわくわくSDGs学習』に取り組んでいます」 

 

この事業は、小学校高学年から大学生までを対象に、「総合的な学習の時間」などの授業の中で「食」や「農」をテーマにした探究的な学習を行なうというもの。 

 

スマート農機の見学や稲の品種改良について学ぶなど、さまざまな学習に取り組んでいるという。同担当者は、事業の目的について次のように話した。 

 

「農業に対して『つらい』『大変』といったネガティブなイメージを持たれる方も多いと思いますが、スマート農機などを使った農作業の省力化や、『持続可能な食や農に向けてどうしたらいいのか』ということをテーマにすえた取り組みを通して、子どもたちの深い学びや能力の育成につなげられればと、教育委員会と連携して取り組んでいます」  

 

農家の高齢化による後継者不足が課題となっている新潟市。前述の事業が目指すものとして、「スマート農業や6次産業化など、農業のイメージを転換させる取り組みについても学ぶことで、将来、食や農の産業を様々な面から支える人材の育成につなげる」こともあるという。 

 

ちなみに「6次産業化」とは、農業(1次産業)の従事者が、加工(2次産業)、流通・販売 (3次産業)まで取り組むことをいう。 

 

では市内の学校が「手植え」の体験をしていないのかというと、そういうわけではないと担当者は話す。 

 

「『手植え』や『手刈り』体験をしている学校もあります。ただ、そうした体験にとどまらず、農業の未来について考えるような機会になれば、という思いもあります」 

 

実際に学習に取り組む子どもたちの反応はどうなのだろうか? 

 

「長期間の学習になるので、スマート農業も取り入れた最近の農業について学んでいく過程で『そうした施設や設備があることを知らなかったから、知る機会になってよかった』という声が多くあります。 

 

『農業の担い手につながる』という形が一番理想的かもしれません。ですが、それだけではなくて、『自分たちが食べているものは地域の方々がこうやって作っているんだな』ということを知ってもらい、身近に感じてもらって、『自分たちにできることは何か』と考えてもらうきっかけになればと思います」 

 

新潟市の取り組みは、全国有数の農業都市ならではの実践的なものであると言えるだろう。しかし、いっぽうで田植え体験にはこんなトラブルもある。 

 

静岡県浜松市内で環境保護に取り組む、あるNPO団体の理事長(70代)は「10年ほどやったのですが…本当に大変だった」と当時のことを語る。 

 

「近所に湧き水を使ってコメ作りをされていた農家の方がいたので、ウチが一部を借りて無農薬の『田んぼ体験』を地域の子どもやNPOの会員さん向けにやっていました。田んぼにはドジョウやタガメもいて、子どもたちは大喜び。小学校の5、6年生の遠足でも使われて裸足でみんな田んぼに入っていました。 

 

でも、いろいろ大変でね、一番は草刈り。借りた田んぼの近所が農薬を使うところだったから、草の種が田んぼに入らないように、こまめに草刈りをやるのがしんどかった。それに無農薬だから、虫も出るので近隣からのクレームもあって、よく近所に菓子折りを持っていきました。子どもたちへの影響も考えて他の農薬を含んだ水が入らないように、気を遣うことが多かったですね。 

 

あと熱中症対策で、水分補給のために子ども用の麦茶も準備したのですが『容器が汚い』と保護者からクレームを言われてしまうこともありましたね。 

 

地域貢献、ボランティアでやってたから息子には『お金にもならないし無理するな』とよく怒られました。結局体力もなくなり、いろいろ疲れてしまって田んぼはやめました」 

 

食べ物へのありがたさを教えてくれる農業体験。それを支える大人たちには、知られざる苦労があった。これらの取り組みが、将来、実を結ぶことを期待したい。 

 

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 

 

集英社オンライン編集部ニュース班 

 

 

 
 

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