( 296161 ) 2025/06/03 05:22:06 1 00 世界中の商品が原料費や物流費の高騰により値上げされる中、アパレル業界でも値上げが続いている。 |
( 296163 ) 2025/06/03 05:22:06 0 00 知らないうちに進んでいるファスナーの変化(イメージ)
お気に入りのファッションブランドの商品を買おうとして、「やっぱり高くなったな」と感じる人も少なくないのではないか。原材料費や物流費の高騰などを理由に、世界中のあらゆる商品で値上げラッシュが続いており、その波はアパレル業界にも及ぶ。米ナイキも5月21日、大人向けのアパレル製品について2~10ドルの値上げを発表したばかりだ。
一方で、できることなら値上げを避けたいという思いから、原材料や部品を変更してコストダウンをはかる“企業努力”の動きもある。あるヨーロッパ発の有名ファッションブランドで、販売員歴10年になるAさん(30代女性)は、「気が付かない人も多いとは思うんですが、ファスナー部分が変わりました」と、商品に使用されているファスナーのメーカーが密かに変わっていることを明かす。
「最近、アウターやワンピースなどのファスナーを締める時にものすごく締めづらいものがあるんです。引手(スライダー)を持っても、閉める部分(エレメント)の左右が全然噛み合わない。ファスナーの裏を見ると、それまではYKKだったのに、なんだか知らない会社の名前が書いてある。金属もなんだか安っぽい。本社から特に何らかの説明があったわけではありませんが、ほぼ間違いなくコストダウンだと思います」(Aさん)
Aさんの勤めるブランドに限らず、さまざまなブランドで“ファスナーの変化”は起きているようだ。Xには、
〈以前買った服とファスナーの頑丈さが全然違う。こういうところに物価高の影響がでるんだな〉 〈初期の商品はYKKなんですが、最近買ったのはノーブランドのパーツだった。どうやら途中で変わったっぽいです〉 〈昔は安い製品でもファスナーがYKKだったのに……〉
などといった嘆きが確認できるほか、洋服は基本的にネット通販を利用するというデザイナーのBさんは、「先日ある通販サイトで買ったパンツのファスナーが粗悪品で、どうやっても締めることができなかった」と嘆く。
たしかに通販では、ファスナーの使い勝手までは確認できない。通販ユーザーに話を聞くと、「大手ECサイトで財布を買ったらファスナー部分が1か月で壊れた」(30代男性・会社員)、「中華系のアパレル通販でスカートを買ったら3回でファスナーが崩壊した」(20代女性・大学生)など、ファスナーにまつわるトラブルが続々と集まった。
ファスナーの使い勝手の悪さを実感したことがある人たちからよく聞かれたのは、ファスナーの最大手ブランド「YKK」の名だ。高品質・高耐久性で高い評価を受ける「YKK」は世界72か国に事業を展開し、2024年度は販売数量100億本を突破。ファスナー市場において世界No.1のシェアを誇る。
YKKのホームページによれば、ファスナーはスライダーやエレメントの形に少しでも誤差が生じると噛み合いが悪くなり、使い物にならなくなるため、100分の1ミリ単位の精密さが求められる。そして同社では世界中のどこでも同品質の製品を生産できるように努めているという。
前出の販売員・Aさんは、「うちも前は、ファスナーは全部YKK製だったんですが、やっぱりいいものだけあってか、他と比べると“高い”らしくて。高いというか、安いファスナーがたくさん出てきたということなのでしょうが……」とコストダウンの方針に理解を示しつつも、販売する立場としては懸念もあるようだ。
「よく見ると、エレメントとスライダーの部分で、若干金属の光沢感が違うんです。ブランドロゴが入る引手の部分は以前のままなんですが、エレメントの部分はチープな安物の輝き。Tシャツ1枚に2万円もするようなブランドなんだから、正直そこはケチってほしくないというか。コストダウンは仕方ないと思うけど、使い勝手や見た目の劣化で、お客さんが離れていかないかと心配になります」(Aさん)
ファスナーのコストダウン問題は、YKKの“偽物騒動”にも発展している。YKKのホームページ上でも〈近年、模倣YKKファスナーがアジア諸国を中心に、また模倣YKKファスナーのついた衣料品やブーツなどが世界中に出回っています〉と注意喚起されているが、昨年も韓国のファッション通販サイト「MUSINSA(ムシンサ)」で人気のあった新興ファッションブランドが自社製品に偽物のYKKファスナーを使用していたとの疑惑が浮上している。同社は疑惑を概ね認め、ムシンサ側は、販売過程で問題が発生したブランドについては、事実関係を調査したうえで販売中止などの措置も取るという声明を発表している。
一時の価格を抑えても、質の悪さによりすぐに壊れたり長く使えなかったりしたら、結局多少高くても質の良いものを買ったほうがいいということになる。物価高が続くからこそ値上げもやむなしと考えるか、コストを抑えて価格を維持するか、アパレル業界も難しい選択を迫られているようだ。
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