( 296646 )  2025/06/05 05:12:47  
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小泉進次郎氏が目指していた「5kg2000円台での米の販売」が早くも実現し、農政改革が進められている。

備蓄米の価格の問題に対して、農林水産省が公表したデータや専門家の指摘が示唆している問題点が浮き彫りになっている。

米の流通改革に期待が高まっており、米価高騰などの要因が懸念される中、小売業者や農家の立場も議論されている。

小泉氏は透明性を重視し、業界再編や中間コスト削減の提案が出されているが、実現が難しい状況が続いている。

(要約)

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農政改革を進める進次郎だが… 

 

小泉進次郎氏が農林水産大臣に就任した直後に公言していた「5kg2000円台で店頭に並べたい」との目標が早くも実現した。備蓄米の随意契約を行なったイオンが、6月1日から東京・品川の店舗で5kg2138円(税込)で販売を開始した。  

 

今回の備蓄米の放出で、米卸売事業者への消費者の目は厳しさを増した。小泉氏はかつて「農林水産業骨太方針策定プロジェクトチーム」の委員長を務めたが、当時から米卸売業の不要論は持ち上がっていた。こうした流れの中でコメの流通改革への期待感が高まっている。  

 

農林水産省が5月16日に公表した政府備蓄米の流通実績は衝撃的な内容だった。 

 

今年3月17日〜4月13日に流通した備蓄米はJAなどの集荷業者から卸売業者に販売する過程で、「60kgあたり7593円」の経費・利益が乗せられていたという。2022年産の米のコスト調査結果では2206〜4689円だったため、経費と利益は1.6〜3.4倍になっていたことが明らかになったのだ。 

 

これに対して、輸送費や人件費高騰の影響を受けたという専門家の意見も聞こえてくる。しかし、とある米の卸売業者の2024年度における運賃荷役料と給料及び手当は46億円で、2022年度が39億円だ。米の販売数量は2024年度が36万トン、2022年度が38万トンだった。 

 

単純計算で2024年度は1トンあたり1.3億円の輸送費、人件費がかかっていた計算で、2022年度は1億円である。専門家が指摘するように、輸送費や人件費高騰で経費が3.4倍になるほど膨らむとは考えづらい。 

 

結局のところ、卸売業者が十分な利益を出すために、備蓄米の価格を上げていたと見られてもしかたがないのではないか。 

 

米の流通に疑問の声を上げる小売業者も現れた。「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)だ。小泉大臣に意見書を提出し、五次問屋まで存在する多層構造を批判。 

 

中間コストやマージンが膨らみ、価格高騰の一因になっていると問題視したのだ。PPIHは、小売業者とJAなどの集荷業者が直接交渉するというシンプルな構造にすることで、コスト削減につながると提起している。 

 

これに対し、小泉大臣は「米の流通に対して透明化しなければならない」とコメントしている。 

 

実は小泉氏が食品流通の仕組みを問題視するのはこれが初めてではない。「農林水産業骨太方針策定プロジェクトチーム」の委員長を務めていた2016年、「生産者に有利な流通・加工構造の確立に向けて」という資料を提出している。 

 

「国内で生産された9.2兆円に輸入品を加えた10.5兆円の農林水産物は、流通・加工の各段階でマージンとコストが付加され、最終的に約76兆円となって消費」されていると指摘したのだ。 

 

同年9月14日に行なわれた会合では、米卸売業の不要論にも踏み込んでいる。 

 

 

米卸売業は玄米を仕入れて白米に加工して販売するというビジネスモデルのため、付加価値を生み出しづらい。それが薄利多売を引き起こす一番の要因だ。米価格が高騰する前に行なわれた三井住友銀行による調査(「米穀卸売業界の動向」)によると、事業者の3割程度が赤字だったという。 

 

米価の変動にも翻弄され、経営基盤が安定していないにもかかわらず、数多くの事業者が永続的に事業を展開してきたのは、不動産業などの副業を営んでいるケースが大半だからだ。 

 

業界トップの神明ホールディングスでさえ、米穀事業の売上は全体の3割程度。ここでは青果事業が成長を支えている。上場企業のヤマタネは、食品事業の営業利益率は米価高騰後も4.7%ほどだが、不動産事業は41.0%だ。 

 

また、米卸売業者は寡占化が進んでおらず、中小零細の事業者が大部分を占めている。これは、かつて米の生産が各都道府県で広く行なわれており、それを前提として多くの流通事業者が誕生したためだ。加えて事業者の多くはいわゆる地元の名士と言われる資産家が多いことも特徴となっている。 

 

さらに「米の流通に関与している」という社会的な責任感とプライドも相まって再編が進まない。こうした要因が重なり、五次問屋という多層構造が解消されずにいるのだ。 

 

この現状を踏まえ、小泉氏が委員長を務める「農林水産業骨太方針策定プロジェクトチーム」は、「生産者・JA等が、自ら販路を開拓するとともに、流通を合理化してコストを削減」、「生産者・JA等と実需者との間で事前契約や複数年契約などの安定取引を促進」することで、生産者と消費者にとってより有利な取引を実現できると提案していた。 

 

JA福井県五連の宮田幸一会長は5月27日の記者会見で、備蓄米の放出によって米価が下がると農家の生産意欲が減退すると危機感を表明した。 

 

しかし、卸売業者を通さないシンプルな流通経路を確立し、中間マージンをカットすることは農家の収入という側面において影響は少ないはずだ。懸念されるのは、本当に卸売業者を介さないことで、人への負担を含めた流通コストを下げることができるのかということだ。 

 

小売店にとって、卸売業は便利な存在だ。価格交渉、受発注、物流などの面倒な業務を一手に引き受けてくれるからだ。特に中小のスーパーにおいては、卸売業者を通さずに取引すると担当者の負担が大きくなる可能性が高い。そして、卸売業者は納期の無理な依頼にも対応してくれるなど、スーパーにとって都合がいいというのも事実だろう。 

 

とはいえ、米価高騰は流通の透明化、効率化を進める一番の契機となったはずだ。改革に着手する絶好の機会である。流通の透明性を図ったうえで業界再編を促すことができれば、中間コストを削減することはできるのではないか。 

 

今こそ小売業者への負担を軽減し、消費者への恩恵を大きくする道を模索すべきだ。 

 

取材・文/不破聡 

 

不破聡 

 

 

 
 

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