( 296661 )  2025/06/05 05:30:35  
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福岡県鞍手町で自動運転の農機を用いた田植えが行われている。

この農機は複数の人工衛星から受信した位置情報を利用し、肥料や農薬まきも可能で、1.1ヘクタールの作業を2時間で終了するなど、作業効率が向上している。

また、鹿児島県では牛の生産農家でもテックの導入が進んでおり、省力化や効率化が進められている。

九州では農業の生産額が高いが、高齢化や担い手不足が深刻化しており、アグリテックの導入や農地の大規模化が求められている。

(要約)

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複数の人工衛星から送られる位置情報を受信しながら、走行を補正する自動運転の田植え機が、苗を直線の列で植えていく。同時に肥料や農薬もまくことができる(福岡県鞍手町で)=若杉和希撮影 

 

 水田にはイネの苗の列が100メートル超にわたり真っすぐ並んでいた。自動運転の農機は一度に8列の苗を植え、同時に農薬をまく。 

 

 農畜産業に先端技術を取り入れる「アグリテック」に積極的な農業法人「遠藤農産」(福岡県鞍手町)は、最新鋭の農機2台を使い、計1・1ヘクタールの作業を約2時間で終わらせた。 

 

 「等間隔に苗を植えてくれて、農薬や肥料をまく位置、量も正確で一度に3役こなせる。作業が飛躍的に楽になった」。社長の遠藤幸男さん(57)は笑った。 

 

 この農機は、農機大手クボタが2020年に発売した「アグリロボ田植機」(メーカー希望小売価格・税込み705万~913万円)。GPSやセンサーを搭載し、人の監視下で無人走行できる。複数の人工衛星から位置情報を受信し走行を補正する機能もあり、誤差は数センチの範囲という。 

 

 遠藤農産は、担い手がいなくなった近隣の農地も耕作。みずほペイペイドーム福岡(福岡市)9個分近くに相当する約60ヘクタールをわずか3人で管理し、米や麦、大豆などを生産している。 

 

 借地の交換などで農地集約を進めながら、自動運転の農機を導入した。「米の高騰で、自分たちの仕事が日本を支えていることを実感している」と遠藤さん。「テックを活用すれば、少ない人数でも広い土地を耕作できることを証明し、農業の衰退を食い止めたい」と強調する。 

 

 畜産王国の鹿児島では、牛の生産農家でもテックの導入が進む。繁殖作業の効率化のため、母牛にセンサーを取り付け、発情の兆候を生産者のスマートフォンなどに通知する仕組みだ。 

 

 鹿児島県肝付町で両親と畜産を営む渡口大作さん(49)も取り入れ、効果を実感。「両親がいつまで畜産をできるか分からない。新技術が営農のカギになるのは間違いない」と話す。 

 

読売新聞 

 

 農林水産省によると、九州の農業産出額は23年に鹿児島県が全国2位、熊本県5位、宮崎県6位など、7県で計約1兆9200億円に上る。人口、面積、経済規模は全国の約1割だが農業産出額は約2割あり、九州の強みだ。食料基地として食料安全保障に貢献する。 

 

 

読売新聞 

 

 だが、担い手の高齢化と不足は深刻だ。九州の基幹的農業従事者数は、昨年約19万人(全国約111万人)で、1995年と比べ6割減った。平均年齢は67・9歳(同69・2歳)で10歳上昇し、70歳以上が5割超だ。 

 

 三菱総合研究所(東京)は、このままだと2050年には全国の耕地面積は36%減少、農業産出額は半分になり、食料自給率(カロリーベース)は38%から29%まで低下すると推計。アグリテック導入と農地の大規模化が急務だとする。 

 

 ただ、日本は中山間地が多く、自動運転農機は効果が発揮しにくい場所もある。1経営体の平均経営面積は3・4ヘクタール(2023年)で、米国187・8ヘクタール(同)や欧州連合(EU)17・1ヘクタール(20年)と比べ狭い。 

 

「双日大分農人」で生産し、作業場で選別されるタマネギ(大分県国東市で) 

 

 そうした中、中山間地での新たな動きもある。大分県国東市でタマネギ栽培に挑戦する農業法人「らいむ工房」だ。 

 

 同社は実家の建設会社を継いだ佐藤司会長(51)が、農業に本格参入するため15年ほど前に設立。当初0・6ヘクタールだった農地は、市内に点在する耕作放棄地を借りるなどして、今では計約190ヘクタールまで増えた。約50人の従業員と米などを生産し、売り上げは年間3億円規模に成長した。 

 

 だが、市内は中山間地で抜本的な農地の集約や拡充は難しい。そこで3年前から、点在した農地でも麦などより収益が見込めるタマネギの生産を始めた。大手商社・双日の子会社と共同出資で「双日大分農人」を設立。米の裏作で昨年は2ヘクタールで70トンを収穫した。タマネギは、双日側が国内向けに出荷しており、新たなビジネスモデルとして注目されている。 

 

 将来的には80ヘクタールで年間3200トンまで生産量を伸ばす考えだ。佐藤会長は「稼げる農業のモデルケースをつくる」と意気込む。 

 

 農家の高齢化で農業の持続可能性が危ぶまれる中、九州の農業がより成長産業となり、食料基地であり続けるには何が必要なのか。 

 

 

 九州地方知事会の河野俊嗣会長(宮崎県知事)は「農業の構造改革の大きな流れの中で、生産者の初期投資の部分のさらなる後押しがどうしても必要だ。国・県・市町村が連携してやっていく必要がある」と話す。 

 

 三菱総研の稲垣公雄・研究理事は「地力のある農業経営体が多い九州に日本の農業の変革をリードしてほしい。九州全体と各県のビジョンを描き、限られたリソース(人材や土地、予算など)を最適化するために連携を深めるべきだ」と指摘する。残された時間は少なく、行政や関係機関の実行力が問われている。(池田寛樹、中尾健) 

 

 

 
 

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