( 297466 )  2025/06/08 06:03:17  
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1993年の「米騒動」では日本で米不足が発生し、政府がタイから米を緊急輸入したが、メディアはその品質を批判する報道をした。

日本の日常食と異なるタイ米に対して、日本人は不満を持ち、バッシングが起こった。

タイ料理に合うパラパラのタイ米は、日本の炭水化物とは異なり、日本人の食事には合わないとされた。

1994年には米騒動は収束したが、30年後の現在も備蓄米不足が報道されており、人々は安い米を求めて群がっている。

テレビ報道がパニックを煽る一方で、30年前の経験を考えると進歩のなさに疑問を感じる。

(要約)

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令和の米騒動はいつ終わるのか(備蓄米の販売状況を視察する小泉進次郎・農水相。時事通信フォト) 

 

「令和の米騒動」が日本中を騒がせているが、約30年前には「平成の米騒動」とも言われる「1993年の米騒動」が起こった。この年は冷夏で米が不作となり、秋には米の価格が高騰。タイ米を緊急輸入するなどして日本は米不足を乗り切ろうとした。その時の経験が今の「備蓄米」制度につながっているわけだが、昨今の米騒動報道を見て違和感を覚えるというのは、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏だ。1993年当時は大学生だった中川氏がレポートする。 

 

 * * * 

「1993年の米騒動」を覚えてますでしょうか。この頃、我が家で私は大学の帰りに食料品を買う担当でした。母親から指令された食材を自転車に乗って買いに行くわけですが、スーパーに米がとにかくない! 米屋に行くと売っているのですが、10kgで1万3000円と言われる。それまで10kgは5000~6000円ほどだったのでこれにはギョーテン。 

 

 さらに、この時米不足を解消すべく日本政府はタイからタイ米を輸入したのですが、当時のメディアの報道は本当にヒドかった……。「ネズミの死骸が混入していた!」という報道をして、衛生状況の悪さをことさら強調していました。いや、多分日本の米でもネズミやゴキブリは入ったことはあるでしょうが。タイ米だからって過度に叩き過ぎてませんか? 

 

 そこから先は、「日本の料理に合わない!」というバッシングが発生しました。これについては、私は同意します(バッシングする気は毛頭ありません)。何しろタイ米と日本米は別物です。「米」と名付けられていたとしても、まったく別の食材だと思っていい。 

 

 長粒米のタイ米はパラパラで、普通におにぎりや寿司には使える代物ではありません。アジフライ定食やエビフライ定食や、サバ味噌煮定食にも合わない。玉子かけご飯、納豆ご飯、刺身定食に合うワケがない炭水化物なのです。 

 

 それはパラパラな米だからで、だったら何に合うかといえば、基本的には中華料理やタイ料理の液体を含んだおかずやチャーハンです。回鍋肉、青椒肉絲は当然のことながら、タイ料理の空心菜炒め、豚肉と野菜のオイスターソース炒め、麻婆豆腐など、ある程度の汁っ気があるものに合うわけで、純粋に日本米に合う食事に合うタイプの米ではない。 

 

 

 このように、日本米とタイ米はまったく別物なのに、当時の日本は「タイ米が米不足の日本の食を補完してくれる!」と思い込んだ。だからこそバッシングにつながったのですね。米屋でも、日本米5kgとタイ米5kgを抱き合わせ販売で1万円、なんて売り方をしていました。挙げ句、タイ米は捨てられたりもした。 

 

 私はこれまでタイに40回以上行き、タイ料理こそ世界の料理では至高と思っています。そんな私からすれば、憤慨ものの事態です。日本でタイ料理を作る人たちも同様の思いだったでしょう。いいですか、タイは日本がコメが足りないから助けてくれたんです。そして、日本は勝手にタイ米を“日本の米と似たようなもの”だと思って、その目論見が外れたから文句をいいまくった。挙句の果てにはネズミ混入まで持ち出して、タイ米の品質と衛生管理の低さを糾弾した。 

 

 この時、テレビではいかにしてタイ米を美味しく食べるか、という企画も見受けられました。寒天を混ぜるといい、でんぷん的なものを混ぜると日本米に近くなる――。いずれも頓珍漢です。タイ米はとにかく日本米と用途が違うのです。刺身には合いません! あなたはパンで刺身を食べようと思いますか!? そのぐらい日本米とタイ米は違うのです。 

 

 しかし、当時の日本人はタイ米に日本米の代替を求め、それが叶わぬとわかると散々悪口を言った。漫画『美味しんぼ』では、タイ米をいかにおいしく食べるか、といった話があり、タイ米の国内入荷に反対していた日本の農家が最後はタイの農家に敬意を表し大団円、という描写がありました。作中に登場する日本の米農家もタイ米と日本米の違いを存分に理解したのです。『美味しんぼ』はフェアな描き方をしたといえるでしょう。 

 

 この米騒動は、翌1994年には解消されましたが、「なんで我々の食の根幹である米がここまで高騰するんだよ……」と当時の日本政府の農業政策に大学1年生ながら呆れたことを思い出しました。何もなかったかのように我々はその後安い米を食べ続けられる生活を約30年続けましたが、昨年来の米騒動で、国民は大騒ぎしてますね。 

 

 1993年同様、「備蓄米をいかにおいしく食べるか」という特集をテレビは展開しています。小売店に前日から行列を作った人が2000円ほどの備蓄米をGETして大喜びする様をテレビは流す。32年経ってもまったく進歩していない。 

 

 人は少しでも安いものに群がり、余裕がある人ですら、パニックになったら少しでも備蓄量を増やそうと行列に参加する──。パニックを煽るばかりで進歩のないテレビ報道だけでなく、テレビが流す「危機情報」に左右される人たちにも呆れる次第です。 

 

【プロフィール】 

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。 

 

 

 
 

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