( 297838 ) 2025/06/09 07:30:50 0 00 試合後、観客とタッチを交わし引き揚げる那須川(撮影・増田悦実)
<プロボクシング:バンタム級10回戦>◇8日◇東京・有明コロシアム
無敗の格闘家でWBA世界バンタム級1位の那須川天心(26=帝拳)が世界前哨戦をクリアした。WBA世界同級6位ビクトル・サンティリャン(29=ドミニカ共和国)とのノンタイトル戦に臨み、3-0の判定勝ちを収めた。23年4月のボクシング転向から7戦目。世界ランカー対決を制し、今年11月に首都圏で控える世界初挑戦に向けて大きく前進した。
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最後まで倒しにいく姿勢は貫いた。那須川が至近距離でサンティリャンと激しく拳を交錯させた。試合終了のゴングまでハラハラさせる展開を演出。3人のジャッジのうち、2人が99-91、残り1人が100-90のフルマークをつける圧勝の内容。ただ…那須川は倒したかった。
「やっぱ鮮やかに勝ったり倒したかった。もっと幅を見せられたかなとか。やれることはもっとあった」
6回には1度しゃがみ、相手の視界から消えた直後、カエルパンチの強烈アッパーを放った。「ちょっといろいろなことを考え過ぎて小さくなりすぎていた。1回、カエルパンチして、ああいうことをして幅も広がる。ほぼ全ラウンド取っているけれど、数字よりも中身を突き詰めたかった」と那須川。倒したかった理想が強すぎるゆえの現実とのジレンマがある。
「やっぱり倒して勝てるのが理想的。圧倒して勝てたけれど、その先の景色がみたい。もう自分を破壊するしかない。ちょっとロックな男になる。毎日、これでいいんだではなくて。もっともっと、という男になりたい」
世界6位との世界前哨戦をクリアしたことに変わりはない。今年11月に予定される世界挑戦の切符を手にした。那須川は「これからも那須川天心という生き方を見せる。何があっても負けない。たくさん強い選手がいるので、倒しにいきたい」と口調を強めた。会場には日本人のバンタム級王者4人がそろっていた。
「すごいところに足を踏み入れている。すべてを懸けて、生半可な気持ちでは勝てないと思う。しっかりと向きあって、全員と戦う。全ベルトを狙うつもりでいる。1歩1歩進んでいくしかない」
最後のテストマッチを終え、来たるべき世界舞台を見据えた。【藤中栄二】
◆那須川天心(なすかわ・てんしん)1998年(平10)8月18日、千葉・松戸市生まれ。5歳で空手を始め、小学5年でジュニア世界大会優勝し、キックボクシングに転向。14年7月、15歳でプロデビュー。15年5月にプロ6戦目で史上最年少16歳でRISEバンタム級王座を獲得。16年からRIZINにも参戦。18年6月、初代RISE世界フェザー級王者に。22年6月、K-1の元3階級制覇王者・武尊を判定で撃破。23年4月に6回判定勝ちでボクシングデビュー。24年10月にWBOアジア・パシフィック・バンタム級王座獲得。身長165センチの左ボクサーファイター。
【ラウンドVTR】
1回 那須川は7戦目で初めてサウスポー同士の一戦を迎えた。那須川はスピードある右ジャブをついて、じりじりとプレッシューをかける。右ジャブが相手の顔面をとらえる場面もあった。サンティリャンは様子見の形で手数が少ない。スピードで那須川に分があった。ニッカン採点は那須川10-9
2回 那須川は右ジャブをつきながら、相手の動きを封じる。3つ、4つの連打もまじえて、軽快なフットワーク。サンティリャンは大振りの左を放つが、かわされてリターンを浴びる。スピードで那須川が主導権を握った。ニッカン採点は那須川10-9
3回 那須川が距離をつめてパンチを打ち込み始める。左ボディーフックをヒットする場面があった。サンティリャンは接近戦で活路を見出そうと、右フック、右アッパーを放って対抗した。ニッカン採点は那須川10-9
4回 サンティリャンが右フックを軸にして手数を増やした。偶然のバッティングで那須川の左目上から出血する。那須川はシャープな左ストレートを再三にわたってヒット。打ち合いの場面が増える。ニッカン採点は那須川10-9
5回 那須川の左ボディーフックで、サンティリャンがクリンチする。那須川は接近戦で左右にステップを踏み、ボディー、フックを相手のボディーに集中させる。近い距離でもペースを握って、左アッパー3連発も見せた。ニッカン採点は那須川10-9
6回 那須川が左アッパーでサンティリャンのあごを跳ね上げた。右フックのカウンター、左ストレートとクリーンヒットが増える。サンティリャンは那須川の動きについていけない。那須川は終盤に、深く沈み込んでからジャンプして左アッパーをクリーンヒット。「蛙跳び」のようなトリッキーなパンチを見せた。ニッカン採点は那須川10-9
7回 サンティリャンは手数を出して、巻き返しを図った。大振りのパンチも気にせずに、右フックを出していく。那須川は少し様子見で手数が減る。サンティリャンが必死の攻撃を見せた。ニッカン採点はサンティリャン10-9
8回 那須川は右ジャブをついて、前に出て、プレッシャーをかける。右ジャブから左ストレートが相手の顔面をとらえる。サンティリャンは足を使われると、ついていけず、右目が腫れ始める。那須川がリズムをとって終えた。ニッカン採点は那須川10-9
9回 那須川が左ストレートの打ち下ろしを何度もヒットした。サンティリャンは、何度も左ストレーを浴びて、動きが止まる場面も。那須川は強いパンチを打ち込んで、相手にダメージを与えた。ニッカン採点は那須川10-9
10回 那須川は左ストレートを何度もヒット。力強いパンチを打ち込んだ。サンティリャンはふらつきながら、バランスを崩しながら、必死で腕を振り回した。那須川の左ボディーフックを食らってクリンチする場面もあったが、意地でダウンを拒否。両者は打ち合いの中で終了のゴングを聞いた。ニッカン採点は那須川10-9
◆キック出身の主なボクシング世界王者 スーパーライト級王者としてムエタイ無敵を誇ったセンサク(タイ)は75年7月、転向3戦目でWBCスーパーライト級王者フェルナンデス(スペイン)に8回KO勝ちして世界王者に。3戦目での世界王座奪取は今も最短記録。ムエタイ3階級制覇ウィラポン(タイ)は95年9月に転向4戦目でダオルン(タイ)に判定勝ちしてWBAバンタム級王座を獲得。元WBO、WBCヘビー級王者ビタリ・クリチコ(ウクライナ)もキックからの転向組。世界選手権スーパーヘビー級で銀、プロでも世界一に。24年5月、元K-1スーパーバンタム級王者武居由樹(大橋)がWBOバンタム級王座を獲得し、日本人初のK-1とボクシングの世界王者に。
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