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イオンが発売する「カルローズ米」はリゾットやピラフに向く米で、店頭での販売が好評を得ている。

イオンはコメの価格高騰を受けて供給策を打ち出しており、国内外の米を取り扱う方針である。

日本のコメ価格は需要と供給のバランスが取れておらず高騰しているが、政府や企業が対策を講じている。

イオンの取り組みや輸入米の活用などが今後のコメ価格をどう抑えるか注目されている。

(要約)

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イオンが発売する「カルローズ米」はリゾットやピラフに向くという 

 

 イオンが本社を置く千葉市美浜区。6月2日朝、ひときわ熱気を帯びる場所があった。それは総合スーパー「イオンスタイル幕張新都心」。店の前には午前7時15分時点で約200人が列をなし、同8時の開店時には350人近くまで増えた。 

 

 お目当ては、この日同店で売り出した備蓄米だ。地元に住む50代の女性は備蓄米を手に取り、「この瞬間を待ち望んでいた」と満面の笑みを浮かべた。前日の1日が自身の誕生日だったと言い「備蓄米は(小泉)進次郎さんからの誕生日プレゼントだ」と声を弾ませた。 

 

 イオンリテールの古澤康之社長は報道陣に対し「(コメの)価格が上がりすぎており、供給を安定化させたい」と説明した。「相場高のムードを抑え、お客様に安心してご購入いただける場面をつくり上げることが、私たち小売業の使命だ」(古澤社長) 

 

 イオンは矢継ぎ早にコメの供給策を打ち出している。まず4月、国産と米国産のブレンド米「二穂の匠(にすいのたくみ)」を発売した。加えて随意契約で備蓄米を約2万トン調達。今後は備蓄米の取扱店舗を全国1万店に広げたい考えだ。 

 

 農林水産省によると、コメの平均店頭価格(5キログラム)は5月19~25日時点で4260円と、前年と比べ約2倍の水準だ。なぜここまで値上がりしたのか。 

 

 キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「米価は基本的に需要と供給で決まる。コメの需要に対し供給量が不足し高騰している」と指摘する。 

 

●「相場押し下げられるかは不透明」 

 

 米価は2023年にはすでに上昇基調に入っていた。農水省がまとめた23年7月~24年6月の国内の主食用米の需要は705万トンと、生産量(661万トン)を44万トン上回った。需要の超過量は前年(21万トン)も合わせて65万トンだ。 

 

 24年秋に新米が流通することで米価は落ち着くとの見方もあったが、実際は値上がりに歯止めがかからなかった。24年7月~25年6月は生産量が679 万トンと増えたが、需要を5万トン上回るだけとなる見通し。供給不足は解消していない。コメの民間在庫は25年4月まで19カ月連続で前年同月の水準を下回った。 

 

 足元では政府が備蓄米の放出を進めている。三菱総合研究所の稲垣公雄研究理事は「備蓄米が60万トン放出されれば、需給ギャップは数字上なくなる。価格を現状の水準で均衡させることは期待できる」とした上で「相場を押し下げられるかは不透明だ」とみる。 

 

 

 米価高騰の収束が見通せない中、イオンは「第三の矢」として6月6日に米カリフォルニア産米を使ったコメ「かろやか」を全国で発売すると決めた。取扱量は約1.4万トンと、同社が随意契約で調達した備蓄米の7割に相当する量だ。商品・物流担当のイオン土谷美津子副社長は「国産米を大切にしながら、消費者に選択肢を提供したい」と語る。 

 

●関税払っても輸入米に割安感 

 

 米カリフォルニア産米は「カルローズ米」という品種で、粘り気が少なくあっさりとした食感が特長だという。イオンはリゾットやピラフなどに向いているとして消費者に提案する。記者はイオンが5月に開いた発表会でカルローズ米を試食したが、香りや味わいに違和感は覚えなかった。 

 

 価格は4キログラムで2894円だ。無関税のミニマムアクセス米ではなく、1キログラムあたり341円の関税を支払って輸入している。それでも前述のコメの平均店頭価格より5キログラム換算で約15%安い。米価高騰が続けば輸入米が国産米に対して割安感を保つことになる。  

 

 財務省の貿易統計によると、関税を支払って輸入したコメ(精米)は4月で約6800トンと、24年度12カ月間の輸入量の2.3倍に上った。うち8割を米国からの輸入が占める。アジアも調達先の一つだ。スーパー大手の西友は24年11月に台湾産のジャポニカ米を売り出した。 

 

 キヤノングローバル戦略研究所の山下氏は「長期的には国内の生産量を増やすことが重要だが、年内には間に合わない。今年限りでコメ輸入にかかる関税を下げたり主食用米のミニマムアクセス枠を増やしたりすれば、相場を押し下げられる」と語る。日本はミニマムアクセス米を年77万トン輸入しているが、主食用は最大10万トンにとどまる。 

 

 小泉農相は5月28日、輸入米の活用について「国産米離れは食い止めなければならない」としつつ「マーケットに対するメッセージとしてあらゆる選択肢を排除しない」と述べた。輸入を含む供給量の上振れ余地をちらつかせることで、米価を抑える狙いがある。 

 

 政府はかねて食料安全保障の重要性を強調してきたが「令和の米騒動」を防げなかった。政府は国内の需要減に合わせてコメの生産量をコントロールし需給を均衡させようとしてきた。その結果、短期的な供給余力が小さく需給が逼迫しやすい状況が生じている。 

 

 三菱総研の稲垣氏は「政府の政策運営はこれまでそれなりにうまく回っていた」と評価しつつ「従来の手法にほころびが出始めているのは確かだ」と語る。 

 

 経済学者などが所属する制度・規制改革学会は2月、米価高騰への抜本的な対策としてコメの生産調整を見直すことなどを提言した。専業農家への農地集約を促し、輸出を視野に入れた増産体制を築くことを主眼に置く。「コメの輸出は『無償の備蓄』になる」(キヤノングローバル戦略研究所の山下氏) 

 

 日本の安全保障環境が厳しさを増す中、食料の安定供給は重要度が一段と高まっている。今回の危機を奇貨とし、コメ政策を再点検する必要がありそうだ。 

 

梅国 典 

 

 

 
 

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