( 299061 )  2025/06/14 05:22:52  
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家具・インテリア最大手のニトリが10万円を切るドラム式洗濯乾燥機を発売し、低価格で話題になっている。

これは日本の家電市場が停滞しており、競争が厳しいレッドオーシャンであるため、なぜニトリが参入するのか疑問が出ている。

家電量販店業界は寡占化が進んでおり、競争が激しい状況だ。

一方、ニトリは家電市場とは別に圧倒的な地位を築き、インテリア雑貨で来店頻度向上を実現してきた。

これを家電販売にも展開しようとしており、ニトリが提供する「ちょうどいい家電」に需要があると考えられている。

(要約)

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(撮影:今井康一) 

 

 家具インテリア商品の最大手ニトリホールディングスの10万円を切るドラム式洗濯乾燥機が発売され、テレビCMなどでも頻繁に見かけるようになった。ドラム式洗濯乾燥機の売れ筋価格は20万円ちょっとである。しかし、ニトリは機能を絞り込むことで低価格を実現した。これはかなりインパクトがあったようで、日経MJの「2025年上期ヒット商品番付」でも東の関脇にランクインしていた。 

 

 ニトリはこれまでも小型家電を中心に、主に単身世帯向けに家電製品を拡充してきた。最近では品揃えを白物家電にも広げつつ、売り場も拡大し、家電専門売り場を全国の店舗に拡大していく方針だ。 

 

 ただ、家電といえば大手家電量販店がしのぎを削るレッドオーシャンのイメージがある。マスコミの方々からも「なぜ、そんな競争の厳しい市場にニトリは参入するのか?」といった問い合わせを受けることが増えてきた。実際、ヤマダホールディングスはすぐに、ほぼ同価格のオリジナル商品を投入して対抗している。家電販売の世界は今、どんな状況なのだろうか。 

 

■停滞する家電市場 

 

 家電量販店市場(商業動態統計ベース)は5兆円弱で、おおむね横ばい推移である。伸びている市場とは言えない。多種多様な家電製品がすでに出揃っている感もあり、パソコンやスマホもすっかり普及した今では、画期的な新ジャンルもなかなか出てこない。 

 

 家電購入といえば、住宅の新築や引っ越しといったタイミングが最も大きなチャンスだろう。しかし、人口減少が続く国内では住宅着工件数が長年右肩下がりで推移しており、引っ越しの件数も2024年が戦後最低を更新した。家電市場が厳しいマーケットであることは間違いない。 

 

 こうした市場環境の下で、家電量販店業界はすでに寡占化が進んでいる。トップシェアで家電売上1.3兆円のヤマダ以下、ビックカメラ、ヨドバシカメラ、ケーズデンキ、エディオンなど7000億〜9000億円クラスの大手が激しいシェア争いを繰り広げている。普通に考えて、とても新規参入してメリットがありそうには思えない。 

 

 

■家電の販売だけでは成長が頭打ち 

 

 かつて最大手ヤマダがトップシェアとなった戦略は、地方・郊外にライバルより大きな店舗を出店し、品揃えと価格競争によって圧倒し、淘汰・併合するという手法だった。地場の中堅中小チェーンをほぼ淘汰した時点で、その成長余地は失われた。 

 

 今残っているプレイヤーは前述の各社であり、大手同士の競争は拮抗し、シェアはほとんど動かなくなった。大都市部にはビック、ヨドバシのカメラ系大手量販店がシェアを確立し、地方郊外と大都市で相互にすみ分けた形となっている。 

 

 ヤマダも家電による成長戦略を示すことは難しく、住建(住宅建設)、リフォーム、家具、家電リサイクルなどの関連分野への進出によって事業拡大を目指す中期計画になっている。 

 

 家電の購入タイミングである住宅新築、リフォームなどに直接参入することで、家電販売と併せて購入する家具類の販売機会を取り込み、不要になった家電を引き取ってリサイクルビジネスも展開するのがヤマダの発想だ。 

 

 以下の資料は同社の中期経営計画における「くらしまるごと戦略」のイメージ図であるが、この戦略自体は至極妥当な考え方だろう。しかし、この計画をもってしても、総売り上げ1.6兆円規模のヤマダの成長戦略としては力不足な感は否めない。 

 

■厳しい家電市場になぜニトリは乗り込むのか 

 

 次の図表は、近年のヤマダの家電と非家電の売上推移である。非家電が少しずつ貢献度を高めていることは確認できる。非家電では住建売り上げが3000億円を超えており、大きな柱となっている。だが、ピーク2兆円ほどあった家電部門売り上げが前期で1.3兆円あたりと縮小したことで、トータルでは売り上げ伸び悩みというしかない状況になっている。 

 

 家電新規需要獲得の起点となる住建部門は着実に成長を続けているが、急に大きくなるというものでもない。また、グループ施工件数約7000棟とされるが、そのすべてに100万円家電を販売したと想定しても70億円であり、1兆3000億円の0.5%相当の効果というのが計算上の波及効果である。 

 

 

 伸び悩む家電市場、そして、これから人口減少の加速でさらに減少していく地方マーケットを縄張りとしているヤマダにとって、事業構造の転換は容易ではない。そんな厳しい家電市場になぜニトリは乗り込んでいこうとしているのだろうか。 

 

■圧倒的な地位を築くニトリ 

 

 ニトリの現状について少し見てみよう。ニトリは家具・インテリア雑貨の製造小売業として、2000年代以降急成長を続けて全国展開し、業界の圧倒的なトップシェアを確立していることはご存じの通りだろう。 

 

 国内家具業界でニトリに次ぐ存在といえば、イケア・ジャパンだろうが、売上952億円(2024年8月期)で収益は赤字である。他には良品計画(MUJI、2024年8月期)が家具を含む部門で1800億円ちょっと、東京インテリア家具で568億円(2025年5月期)といったところであり、ニトリの8210億円(除くホームセンター島忠)に比肩しうる存在は国内にはいない。 

 

 1社寡占のニトリは、家電量販店同様、シェアアップによる成長余地は乏しく、家具以外の事業拡大と海外進出で成長を実現していくしかない。 

 

 ただ、ニトリは家具も売るが、それ以上に売っているのがインテリア雑貨類であり、そこにはまだまだ拡大の余地がある。そもそも、ニトリが他の家具チェーンを圧倒した勝因が、インテリア雑貨の拡充による来店頻度向上にあることは一般的には知られていない。 

 

 消費者にとって大型家具は年に何回買うかどうかであり、普通は家具店に頻繁に行く用がない。しかし、ニトリはコスパの高いインテリア雑貨(キッチン、バス、トイレ、寝具など家周りのさまざまな雑貨類)が豊富に品揃えされているため、月に何回も来てもらうことができた。 

 

 この雑貨類は女性客の人気が高いため、特に購買決定の実権者である女性の来店頻度と親近感を高めるのに効果があった。ニトリの大型店に入ると、1Fインテリア雑貨、2F家具となっていることはご存じかもしれないが、この1Fがあるから、ニトリは女性客に何度も来てもらえる店になり、結果、コスパの高い家具も売っている店として広く認知されたのである。 

 

 そしてニトリは、この手法を家電販売においても応用しようとしている。 

 

 

■変化する家電の選び方 

 

 かつて家電製品の買い方のスタンダードなやり方は、欲しい商品の様々なメーカーの機能、仕様、クチコミ等を複数比較しながら、価格の現況を加味して機種を絞り込み、さらに複数の家電量販店で価格交渉をしながら購入する小売店を決める、といったやり方だったように思う。要は機能性を軸としてコスパで判断してメーカーや購入店を決めるというものである。 

 

 しかし、家電製品を選ぶ要素は機能性だけではなく、デザインや使い勝手(機能が絞り込まれていて簡単に使える)がいいことも大事だろう。特にニトリユーザーはコスパのいいシンプルなデザインの雑貨類を評価する女性客が多く来店している。求める機能があってシンプルなデザインでコスパがいいものなら、多様な機能性を誇り、相応の値段がする国内メーカー品でなくてもいいという人は相当数いる。ニトリは自社ユーザーのニーズに合わせた「ちょうどいい家電」を提供することにチャレンジしているのである。 

 

 これまで家電製品は国内大手電機メーカーへのブランド信仰が強く、いくつかの大手メーカー製品から機能性で選択し、その商品を安く提供してくれる量販店を選んで買うものだった。中小メーカーの廉価版的な製品はこれまでも作られてきたが、消費者の品質へのブランド信仰もあり、安くても主流にはならなかった。 

 

 しかし、近年は国内大手電機メーカーが何社も国際競争に敗れ、海外に買収されたり、家電から撤退したりすることが相次いで、海外メーカー製品も店頭に並ぶようになり、ブランド信仰はかなり薄まってきたように思われる。そうした中では、家電ブランドではないが、全国展開して知名度も十分に高いニトリが5年保証(4万9900円以上、有償で延長可能)をつけて低価格販売するのであれば、試してみる価値はあるのだろう。 

 

 長い間、メーカーブランド品のディスカウント販売をしてきた家電量販店には、消費者の来店頻度の重要性に対する認識が乏しいかもしれない。ヤマダの「くらしまるごと戦略」が正論ながらなかなか進捗しないのは、家電量販店の今の来店頻度では、消費者のロイヤルティー(店に対する愛着心)を持ってもらいにくいからではないか。 

 

 百貨店にデパ地下があるのも、ドラッグストアが食品を強化しているのも、消費者の来店頻度を高めるためにやっている。低価格で来店誘致するディスカウントストア最大手ドン・キホーテでも、食品の低価格販売は集客のためのまき餌である。消費者は頻繁に訪れる店に親近感を持つし、そこでさまざまな商品情報を入手する。こうした特性をよく把握したうえで、ニトリは勝算をもって家電に参入しているのである。 

 

 

 
 

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