( 299101 )  2025/06/14 06:11:21  
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中国の自動車メーカーBYDは、5年後にトヨタを上回り、世界最大手の自動車メーカーになる可能性があると言われている。

一方、日本の自動車メーカーは、ハイブリッド車に注力しており、BEV(バッテリー式電気自動車)市場の変化に対応していないとの指摘がある。

2030年にはガソリン車の需要が減少し、ハイブリッド車の販売もピークを迎えると予測されている。

トヨタなどの日本メーカーは、新たな技術と政策支援を活用してBEV市場に参入すべきとの意見がある。

(要約)

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(写真:yamahide/PIXTA) 

 

 バッテリー式電気自動車(BEV)を手がける中国の自動車メーカーBYDは、5年後にはトヨタの世界最大手自動車メーカーの座を奪う可能性を秘めている。 

 

 2026年の目標である650万台(その4分の1は海外市場)を達成すれば、GMとステランティスを凌駕し、3位に浮上する可能性が高い。BYDは2030年までに、中国以外で500万台(グローバル総販売台数の半分)を販売する計画で、既に海外工場を設立し、さらに建設を進めている。 

 

■デトロイトの二の舞か?  

 

 日本の自動車メーカーは、1970年代にデトロイトの3社が日本の挑戦に対して取ったのと同じような行動を取っているため、顧客を失いつつある。当時、デトロイトは、ガソリン効率が高く欠陥の少ない車へ顧客が移行していくことを信じなかったように、トヨタ、ホンダなどはBEVの挑戦について自己欺瞞に陥っている。 

 

 S&Pは、BEVのグローバル市場シェアが2030年までに40%に達するとしている。だが、日本企業はハイブリッド車に多額の投資を行っているため、顧客の嗜好が急速に変化している現実を信じたくないのだ。 

 

 S&Pによると、2030年までにガソリン車は2000万〜2500万台まで減少する可能性がある。さらに深刻なのは、S&Pがグローバルなハイブリッド車販売(HEVとPHEVの合計)が2028年に2200万台でピークに達し、2035年には1400万台まで減少すると予測している点だ。もしS&Pの予測が正しければ、トヨタが戦略の基盤としている未来の展望は、10年後には存在しなくなるだろう。 

 

 BEVを高級品から一般向け製品へと変革するためには、高価格、航続距離への不安、長い充電時間という3つの障害を克服する必要がある。これらの3つの分野において、技術的な飛躍と政策支援による急速な進展がみられている。 

 

 今年、車両のほぼ5台に1台を占めるモデルをほぼ無視し、2030年までに3台に1台に達する可能性のあるモデルを無視することは、かなり愚かな判断だ。それでも、日本の自動車メーカーは現在、グローバルなBEV生産量の約2%しか生産していない。それは、従来のハイブリッド車への投資の回収を脅かすと見ているからだ。 

 

 特にトヨタは、グローバル販売のほぼ半分がハイブリッド車であり、残りの大部分がガソリン車であるため、この傾向が顕著だ。ホンダでは、ガソリン車とハイブリッド車の割合がほぼ80:20で、BEVはごく僅かだ。そのため、ホンダのグローバル市場シェアは2019年の6.1%から2024年には4.6%に低下した。 

 

 

■現在の利益に安心はできない 

 

 トヨタのハイブリッド車中心の戦略が、現在多くの販売と利益をもたらしていることは否定できない。これは、ハイブリッド車が自動車販売の61%を占める日本市場で圧倒的なシェアを握り、アメリカ市場ではハイブリッド車がBEVを凌駕する15%の売上を占めているためだ。しかし、S&Pの予測通りハイブリッド車の販売が数年後にはピークを迎えるなら、現在の利益は将来の売上と利益を犠牲にして得られていることになる。 

 

 一方、日本のメーカーもBEVの販売を拡大しているが、そのペースは極めて緩やかだ。トヨタは、2026年に150万台、2030年に350万台のBEV目標を掲げている。ただし、2026年目標については見直す方針を明らかにしたという報道があった。 

 

 トヨタを含む各社は、必要に応じて生産を拡大し、競争力のあるBEVをいつでも製造できると信じているかもしれない。しかし、BEVの製造は、ガソリン車やハイブリッド車の製造とは根本的に異なる方法が必要だ。 

 

 新製品の場合、企業は「学習曲線」を通じて、つまり実践を通じて生産とマーケティングのスキルを向上させる。長期間にわたって生産量が少ない企業は、リーダーに追いつくのが困難になる可能性がある。 

 

 今年、トヨタは議会で共和党議員が可決した新ルールを支援した。このルールは、カリフォルニア州が数十年間続けてきた「州内で販売される自動車に対する独自の厳しい排出基準を制定する」行為を禁止するものだ。その動機はBEVの需要を減らすことだった。 

 

 カリフォルニア州と、その規則に従う他の12州がアメリカ自動車市場の約40%を占めるため、アメリカの反BEV派は法違反の可能性がある前例のない措置を講じた。この問題は現在、裁判で争われている。 

 

■トヨタの確信とリスク 

 

 トヨタは市場動向を正しく読み取ったと、確信しているかもしれない。同社は、BEVの成長ペースが鈍化した2023年と2024年に、従来型ハイブリッド車にこだわった結果、記録的な利益を上げたことは事実だ。しかし、今年第1四半期には、BEVの販売が前年同期比42%の驚異的な世界的な回復を示した。 

 

 

 さらに、現在の利益が必ずしも将来の利益を保証するわけではない。GMとIBMは、数年間にわたる記録的な損失を招き、GMが破綻する可能性が懸念される直前に、記録的な利益を上げていた。 

 

 世界中の伝統的な企業は、市場における根本的な変化を否定する財務的な動機を持っている。その理由は、彼らが回収しようとしている莫大な「サンクコスト」があるからだ。トヨタの場合、これらの「サンクコスト」はハイブリッド車に存在している。 

 

 トヨタは、最も成功したモデルをハイブリッド専用モデルとしてますます提供している。これは「確証バイアス」を引き起こす可能性があり、現在の戦略を支持する証拠に過大な重きを置き、矛盾する証拠を軽視する傾向が生じる。 

 

 トヨタが現在利益を上げるほど、経営陣が2025年には輝かしく見えるアプローチが、2030年以降にははるかに適さないものになることに気づくまでに時間がかかるだろう。 

 

 もちろんトヨタのほうが正しくて、アナリストの予想が間違っている可能性はある。しかし、トヨタがハイブリッドという一つのバスケットにほぼすべての卵を置くことは、非常にリスクが高いと言える。 

 

リチャード・カッツ :東洋経済 特約記者(在ニューヨーク) 

 

 

 
 

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