( 299933 ) 2025/06/17 06:24:47 0 00 最近、「無印良品」に行く機会が増えたという人も多いのではないでしょうか(写真:今井康一撮影)
最近、筆者は「無印良品」に立ち寄る機会が増えました。資料を整理するボックスはすべて無印、タオルや収納ケースなども同社の商品が多いのです。最近では髭剃り後に無印のオールインワンクリームを使っているのですが、これも、ベトつかず使い心地が良いので、出張用のミニサイズも追加購入したばかりです。
定期的に店に足を運ぶ中で、2024年あたりから店内にお客さんが増えたなあと感じていました。あらためて、女性客が増えている気がするのです。
実際に無印良品を展開する良品計画の業績は好調で、2025年5月30日には同社の株価は上場来高値をつけました。
また、2025年8月期の売上高(営業収益)は前期比16%増の7700億円を見込んでいます。これは当初計画よりも160億円の上乗せです。営業利益は19%増の670億円。そして連結純利益が前期比9%増の455億円になる見通しと発表しています。
数年前までは海外店舗の苦戦や国内での伸び悩みもあった無印が、なぜここまで好調に転じたのか。同社の好業績を支える店舗戦略と商品戦略の2点に着目して、無印好調の要因からこれからの小売・サービス業が成長するためのポイントをまとめます。
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■無印は成長軌道に入っている
無印良品の売り上げは2023年以降、特に好調です。売り上げを2ケタ以上伸ばし続けており2025年8月期はさらに伸び率が高まりそうです。
この売り上げの伸びを支えているのが、同社の出店戦略です。
特に2023年8月期からは毎年110店舗以上の純増です(出退店の合計)。この店舗数の伸びが同社成長の一大要素です。
店を出しているから売り上げが伸びている。そんなの当たり前ではないかと思われるかもしれません。しかし、注目したいのは、「店舗数の伸び以上に売り上げを伸ばしている」点。
店舗数は前年比110%弱なのに対して売り上げは110%台後半です。2019年2月期に1店舗当り4億4千万円程度だった売り上げが、2024年8月期には5億円以上に高まっているのです(国内外全店1店舗当り売上高)。
これは、売り上げを上げるための絶対的な店舗フォーマットがなければ実現できません。その点で無印の店舗戦略には、確実に売り上げを上げられる秘訣がありそうです。同社の店舗戦略に注目して分析していきます。
■今や「ニトリ」以上の伸び率に
無印と取扱商品が近い業態の代表格が、「ニトリ」です。
大型店で家具や生活雑貨、アパレルを扱う総合小売店のニトリも長く増収増益を続けてきましたが、2025年は増収減益となりました。一方の無印は2019年比でだけでなく、2024年、2023年比でも売り上げや営業利益、経常利益、純利益が二桁の伸びです。
ニトリと比較すると営業利益率は見劣りしますが、それでも8%を超えています。無印は企業としての成長軌道に入ったと言えるかもしれません。
無印は比較的早い時期から海外出店をしてきた企業です。1991年にイギリス・ロンドンに1号店、そして香港にも出店をして以降、世界に店舗展開してきました。現時点ではトータルで1368店舗、うち海外店舗が717店舗、国内店舗が651店舗です。
海外店舗構成比が52%に対して国内店舗が48%です(2025年2月時点)。海外では東アジア(中国大陸398店舗、香港22店舗、台湾65店舗、韓国42店舗の合計527店舗)の比重が高く、特に中国大陸での展開が無印の戦略上、重要拠点となっています。
一方で、売り上げは海外店舗構成比が40.8%、国内店舗が59.2%です。
営業利益ではグローバル販管費(無印の海外店舗にかかる広告費、人件費、物流費、管理費などの販管費)を差し引くと、海外店舗の利益は国内店舗の半分程度です。店舗数、売り上げともに海外依存度が高いのですが、利益でいえばやはり国内店舗の貢献度が大きいのです。
その国内店舗の売り上げを伸ばしているのが、「郊外型600坪フォーマット」と言われる大型店の存在です。同社は「世界での成長に向けた8つの成長ドライバー」を掲げています。その筆頭にくるのが「出店拡大」です。
出店拡大のためのKFS(Key Factor for Success)が600坪(約1980平方メートル)店舗の出店拡大です。「600坪の店舗フォーマットは完成した。今後は台湾、韓国、フィリピンに完全移植を開始する」(同社)と語っています。この600坪モデルが無印良品を成長軌道に乗せているのです。
無印良品の出店戦略は、①600坪フォーマットの世界展開、②主要都市への旗艦店出店、③出店のバリエーション強化(面積、レイアウト、品揃えなどを地域に合わせる)、④小型店やアパレル強化型の出店模索。これらをベースに同社の成長を加速させようとしています。
■既存店の客数が大幅増になった理由
2025年に入ってから、無印は既存店客数を確実に伸ばしています。
ニトリは、2025年1月から5月までの既存店客数は100%に届いていません。一方の無印は、5月まで毎月既存店客数を伸ばし、3月と5月にいたっては二桁の伸びです。いまの流通小売り業界で既存店客数をこれだけ伸ばしているのは希少です。
その要因となっているのが、生活雑貨。2025年に入ってからは生活雑貨が毎月10%以上伸びています。食品も伸びていますがそれを上回る伸びを示しています。
■購買頻度の高い商品を徹底強化
この生活雑貨を牽引しているのは、同社が重点商品に設定している2つのカテゴリーです。
スキンケアなどのコスメを扱う「ヘルス&ビューティカテゴリー」と、日用消耗品などを扱う「ハウスウェアカテゴリー」です。
「ヘルス&ビューティ」は2024年9月から2025年2月の上半期で前年同期比40%増、前前年上半期比で75%の売り上げの伸びです。結果的に売上構成比が21%にまで高まったといいますから、まさに無印全体の業績を押し上げる一大カテゴリーになってきています。
「ハウスウェアカテゴリー」もこの2年で大きく伸び、売上高構成比で7%を占めています。全体の3割近くの売り上げを占める生活雑貨の2カテゴリーの強化が、品揃え面での同社の成長ドライバーになっています。
これまでは食品を強化してきた無印。池袋には食に特化した店舗も作り、全社を挙げて食品強化をして顧客の来店頻度を上げてきましたが、次はコスメとハウスウェアでリピート来店を狙い始めています。
最近、無印店舗に女性客が増えているのは、コスメとハウスウェアという、日常使いできる購買頻度(年間何回購入するかという購買回数を指数化したもの)の高い商品を強化していたことが理由でした。
ちなみにコスメやハウスウェア商品、食品は購買頻度が高い商品で、年間5〜50回以上購入するような単品も多いカテゴリーです(筆者試算では2025年上半期売れ筋のスポンジ、除湿剤、水切りネット、衣類用洗剤、トイレットペーパーなどは年間5〜10回程度の購買頻度です)。
同社は2021年に社長に就任した堂前宣夫氏(現会長)が、同年8月期の決算説明会で、2030年に実現したいこととして、「日常生活の基本を担う」「地域への土着化」という2点を掲げました。特に「生活の基本を支える基本商品を完璧に完成する」という方針を打ち出しています。
さらに2024年8月期には重点カテゴリー強化として、①グローバル重点商品群のテーマを「自然の力でここまでできる」と設定。化粧水、ヘアケア、アロマなどのヘルス&ビューティと天然素材の機能性インナーなどの衣服をグローバル重点商品と位置付けています。
また、食品とハウスウェアはローカライズ重点商品群として、各国各地の需要に合わせた商材開発に力を入れるとしています。
■「無印コスメ」がブームになるまで
そして、無印の大躍進に大きく寄与したコスメですが、同社では2015年ごろからキャリア採用で化粧品メーカー出身の中途人材を採用するなど専門人材も新たに投入し、コスメ商品の開発やリニューアルに取り組んできました。
特に、無印コスメの主力商品である「敏感肌用シリーズ」は、2023年9月に約23年ぶりに全面リニューアルした商品です。配合成分やパッケージなどを新しくしたことで、さらに新たなファンを獲得し、無印のコスメ人気拡大につなげました。
敏感肌用シリーズの価格は化粧水の「さっぱりタイプ」「しっとりタイプ」ともに790円(300ml)と比較的買いやすい価格であるため、リピート購入するファンを多数生み出しました。「コスメはファンをつくれば確実にリピート購買につながる商材である」ことが実証されました。
同時に一時期は品切れが続いていた「発酵導入化粧液」や「ふき取り化粧水」をリニューアルしたことも、コスメの売り上げ増につながる一因となりました。
ミニサイズ商品を充実させたり、海外店舗での取り扱いを強化したり、新宿歌舞伎町タワー周辺で無印の移動販売車に出くわしたこともありました。さまざまなチャネルを活用して、コスメ販売強化に乗り出していたのです。
■今後のカギを握るのは国内と中国
このように無印良品は、いま新たな成長軌道に入り始めています。2027年8月期には営業収益8800億円、営業利益790億円、営業利益率9%を達成するために国内、海外で60店舗ずつの年間120店舗を出店すると発表しています。
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