( 300133 ) 2025/06/18 05:15:21 0 00 自民党が、夏の参院選の公約として「国民一律2万円の現金給付」を打ち出したが、世間の受け止めは「どう見てもバラマキじゃないか」といった論調だ(写真:Nicolas Datiche © 2025 Bloomberg Finance LP)
自民党が、夏の参院選の公約として、「国民一律2万円の現金給付」を打ち出した。長引く物価高への対策として、子どもと非課税世帯には、さらに2万円を上乗せして、あわせて4万円を支給する方針だ。
石破茂首相(自民党総裁)は、あくまで「バラマキではない」との認識を示しているが、世間の受け止めは「どう見てもバラマキじゃないか」といった論調だ。
なぜ世論とのギャップが広がったのかを考察すると、いくつかの課題が見えてきた。
■自民執行部は減税に消極的
石破氏は2025年6月13日、会見で「本日昼に、政調会長に決してバラマキではなく、本当に困っておられる方々に重点を置いた給付金を、来るべき参議院(選挙)の公約に盛り込むよう検討するように指示をいたした」と発言した。
次期参院選は、7月3日公示、7月20日の投開票となる方針が伝えられている。公示まで約2週間と迫り、各党の公約が出つつあるが、物価高対策はメインのひとつだ。
しかし、その方法は与野党で異なる。立憲民主党などは、消費税をはじめとする減税を訴えるが、自民執行部は減税に消極的だ。
立憲の野田佳彦代表は6月14日、「世論が厳しいから突然、1人2万円とか言いだしたようですけど、秋の補正予算でようやく予算がついてできる話で、制度設計もできていないでしょう。真剣に考えていないってことですよ。無策です」と批判。
なお立憲も参院選公約に、1人2万円の「食卓おうえん給付金」を掲げているが、野田氏は制度設計の上で「財源も決めて訴えている」とアピールしている。
政治資金問題が尾を引く自民党にとっては、参院選を勝ち抜くカギとなる政策が必要だ。ただでさえ少数与党で、今回の結果によっては、“ねじれ“が解消されて、下野するおそれもある。
そこで現金給付を打開策と位置づけたのだろうが、SNSの反応を見ると、少なくとも「支持率アップのカギ」とは見られていないようだ。
■算出根拠が不明瞭など国民には“疑念”がある
世論は「理屈はこねているが、バラマキそのものではないか」との疑念を持っている。そして石破氏は、そこに納得できる解を与えられていない。だからこそ、両者のギャップが際立ち、よりネガティブなイメージにつながっている。このままでは、せっかく小泉進次郎農水相の「コメ改革」でアップした支持率に水を差しかねない。
やっかいなのは、国民の“疑念”が、あらゆる要因に絡まっていることだ。その一つひとつに向き合わない限り、この公約が受け入れられることはないだろう。まずは、算出根拠が不明瞭なことだ。
自民党の森山裕幹事長は6月14日、2万円は「食費1年分の消費税相当額」との認識を示したが、これにSNS上では、「年間の食費を20万円台とするのには無理がある」との指摘が出ている。
反応を受けて、林芳正官房長官は6月16日、「家計調査をもとにすると、1人2万円程度」「マクロの消費税収をもとにすると、1人4万円程度」といった数値を念頭に置いていると発言した。ちなみに、立憲の「食卓おうえん給付金」は、2万円を「食料費にかかる消費税の半年分相当にあたる」としている。
給付のタイミングについても、疑問が浮かんでいる。石破氏の言葉を借りれば、「本当に困っておられる方」を助けるためには、一刻も早い支援が必要となる。
しかし、参院選の勝利後となると、結論は最低でも1カ月先に持ち越される。その後、連立交渉や組閣などを経て、ようやく国会が動ける状態になると考えると、あまりに遅すぎるのではないかという批判も理解できるだろう。
加えて、給付経路の問題もある。支給にあたっては、マイナンバーとひも付けた「公金受取口座」の活用が想定される。しかし、デジタル庁のサイトによると、公金受取口座の登録率は65.2%(5月30日時点)。加えて、この母数はマイナンバーカード保有枚数(人口に対する保有枚数率は78.5%)であることから、非保有の人々も含めると、さらに登録率は低下する。
つまり、国民の半数近くに対しては、従来型の給付を行う必要がある。
■自治体首長からも批判が相次ぐ
そこで考える必要があるのが、自治体職員の負担だ。千葉県知事の熊谷俊人氏は6月11日の時点で、「せめて現金給付を発案した国会議員と国家公務員は全員、地方自治体に来て、この給付事務に従事してみてはいかがかと思います」とXで批判した。
兵庫県芦屋市長の高島崚輔氏も、国と市区町村の役割分担に触れつつ、「地方自治体は、国の下請けではないはずです」と問題提起している。いずれの首長も、今回の方針のように、公金受取口座にひも付けていない人も対象にするのであれば、国が支給するよう求めている。
いま挙げた疑問点は、いずれもそれなりに理屈に基づいている。それ以外にも、今回の公約は、心情の面でも違和感を残している。繰り返すようだが、石破氏は「困った人を助ける」ことを主目的とすることで、バラマキとの批判を回避しようとしている。
法案提出の理由にするのなら、まだ理解できる。しかし、それを「選挙に挑むための公約」としてしまえば、有権者に対する「俺たちに投票しなければ支援はない。もし自民党が下野すれば、あなたは困った人を見殺しにすることになる」といった“脅し”のメッセージを与えかねない。
野田氏は「選挙前にニンジンをぶら下げている」と表現していたが、見方によっては「身代金を要求している」ようにも感じさせてしまう。
そもそも、もし本当に非課税世帯の救済を、バラマキの理由とするのであれば、国民一律の部分を削減、またはゼロにして、その分を低所得者層に上乗せするほうが、筋は通っている。「困っている方々」を引き合いに出すことで、ダシに使っているように見えてしまうのが問題なのだ。
■「本当に困ってる人」は非課税世帯なのか?
もっとも、非課税世帯への現金給付が「本当に困っている人」への解決策になるかは、また別の議論が必要となる。年金収入を中心とした高齢者世代は、非課税世帯になりやすい。そのため、非課税世帯への給付は「現役世代から高齢者への“上納金”」でしかないとの指摘は絶えない。
少子高齢化によって、高齢者の政治的影響力が高まることは、“シルバー民主主義”と呼ばれて批判されることが多々ある。そして、その背景には、高齢者向けの政策を重点的にアピールすることで、票を集めようとする政治家たちが存在する。
結果的に、若年層は「自分たちの1票では何も変わらない」と失望し、それをメディアは“政治離れ”とあおる。若者は離れたくて離れているのではない……と言いたくなるが、永田町には響かない。
現金給付に話を戻すと、非課税世帯を対象とした政策で、どれだけ「食うに困る現役世代」を助けられるのか。その点において納得のいく説明がない限り、ただ単に世代間対立をあおるだけになり、「高齢者票をねらったバラマキだ」と取られても仕方ない。
■物価高に対する根本的治療が必要
そもそも多くの国民は、税金や社会保険料について「取られすぎ」という感想を抱いている。そこで、2万円程度支給されたところで、「焼け石に水でしかない」と感じるのは至極まっとうだ。また、何にもひも付けされていない現金では、貯蓄や投資に回る可能性も否定できない。
立憲にも同じことが言えるが、支給すればそれで終わりではない。あくまで給付金は対症療法でしかなく、必要なのは物価高に対する根本的治療だ。「その場しのぎで、結局はツケが残るだけ」だと感じさせるから、バラマキだとの印象が残ってしまう。
このように、今回の公約には「国民の消極的な受け止め」につながる要素が多々ある。にもかかわらず、自民党はそうしたハレーションを予想できなかった、もしくは納得させる口実を用意できなかった。これから参院選に向けて、さらなる逆風が吹くことは間違いないだろう。
城戸 譲 :ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー
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