( 300783 ) 2025/06/20 06:10:15 0 00 日本ではオンライン上でワールドプレミアした新型日産「リーフ」 写真提供:日産自動車
日産自動車は6月17日、第3世代となる新型「リーフ」を世界初公開した。第2世代と比べやや小ぶりで、満充電での航続距離が社内計測値で600kmを超えるなど刷新感が強い。ただし、事業再生に向けた大変革期の日産にとって、新型リーフに「切り札」という言葉は似合わない。その背景とは?(ジャーナリスト 桃田健史)
● 「アリア」と「サクラ」の中間というポジショニングの難しさとは?
新型リーフは、窮地の日産自動車にとっての救世主。事業再生に向けた切り札になる。
メディアやSNSの中には、そうしたニュアンスのコメントを見かけることがある。
だが、ワールドプレミアを受けて、日産関係者らと意見交換していると、必ずしもそうした観点で、日産は新型リーフを発表したわけではないように感じた。
かといって、いわゆる正常進化でもない。車体や電池など、EVの重要要素の詳細を知ると第2世代とはまったく違うクルマという印象を持った。
では、新型リーフとは日産にとってどんなクルマであり、そうした日産の思いをユーザーはどう受けとめるべきなのか?
なお、公開されたのは北米仕様を前提としており、日本仕様は年内に発表される予定だ。
まずは、新型リーフの概要から紹介する。ボディ寸法は、全長4405mm(日本仕様4360mm)×全幅1810mm×全高1557mm(1550mm)。日本仕様の第2世代と比べると、全長で120mm短く、全幅は20mm大きく、全高で10mm低い(第2世代のロッドアンテナ対応比では10mm高い)。全高については日本の立体駐車場でハイルーフ車以外は全高1550mmとしている場合が多いので、その対応を明確にした形だ。
デザインは「スリークで大胆なスタイルながら考え抜かれた室内空間」となり、第2世代とは印象が大きく違う。
こだわったのが、空気抵抗の係数Cd値。このセグメントとしては異例の0.26(北米0.25)としたことが大きく影響し、第2世代に比べて時速100キロ時の電費が10%低減した。
また、搭載する電池セルと電池パックの容量を刷新したことで、航続距離が大きく延びている。
● 初代、第2世代とは社会状況がまったく違う
電池容量は、52.9kWh(グレード名:B5)と75.1kWh(B7)の2種類。日本仕様B7では、満充電で600km以上走れる。
充電効率も上がった。出力150kWで急速充電した場合、バッテリー温度が25℃の状態でSOC(ステート・オブ・チャージ)が10%からの航続距離回復量は、15分充電で約250kmに達する。
モーター性能は、B5が最高出力130kW・最大トルク345Nmで、B7が160kW・355Nm。ともにFWD(前輪駆動車)である。
車体については、「アリア」をベースに改良しているため、サスペンションは第2世代のトーションビームからマルチリンクに変わった。これにより、第2世代に比べて縦方向の剛性を28%低減できた。車両バランスを最適にして、長距離や悪路での快適な乗り味と静粛性でドライバーの疲れも低減しているという。
さて、ここからは「新型リーフは日産の事業再生に向けた切り札か?」という観点で話を進めていく。
直近での日産に関する話題といえば、一部報道で神奈川県追浜(おっぱま)工場や日産車体湘南工場の閉鎖に関するニュースがあり、それぞれの地域住民、関係各企業、そして地方自治体が今度の動向を見守っているところだ。
このニュースの真偽は現時点で不明だが、ホンダとの経営統合が白紙に戻り、イヴァン・エスピノーサ新社長体制となった日産が、本格的な事業再編を進めていることは間違いない。
6月24日には株主総会を控えており、その1週間前の新型リーフのワールドプレミアは、日産の次世代に向けたキックオフともいえる。
ただし、これをもって「経営再建の切り札」とか「救世主」と表現するのは、筆者として少々違和感がある。
なぜならば、EV市場は今、初期普及期から本格普及期に向かう中で「踊り場」に差し掛かっているからだ。
時計の針を少し戻すと、初代リーフが登場した2010年前半、大手自動車メーカーとしてEVを大量生産したのは、世界で日産と三菱自動車の2社のみだった。筆者は、両社のEV参入プロセスについて、技術的な観点のみならず、産業界・財界・政界での水面下の動きを含めて当時、詳しく取材している。
その上で、リーフと三菱の「i-MiEV」は両社にとっての救世主であり、また切り札であったといえる。自動車産業界において、まさにエポックメイキングだった。
● 「アリア」と「サクラ」の中間なので、大幅な値上げは考えにくい
次に、第2世代リーフが登場した2017年は、世界のEV市場に大きな変動が起こり始めていたタイミングだった。
紆余曲折を経て、米テスラが「モデル3」量産によってEV市場のけん引役としてその地位を確立した。また、COP21のパリ協定を基盤とした、欧州連合の欧州グリーンディール政策が引き金となり、米中を巻き込んだEGS投資が急速に広まり始めていたころでもある。
ESG投資とは、従来の財務情報だけではなく、環境、ソーシャル(社会性)、ガバナンスを重視した投資を指す。10年代後半から20年代前半にかけて、グローバルでESG投資バブルが起こり、その中でEVの存在価値も急変していった。多様な競合モデルが登場し、第2世代リーフの存在感が結果的に薄れたといえる。
そうした中、日産は満を持してEVラインアップの強化に動いた。上級モデル「アリア」と日本におけるエントリーモデル「サクラ」の登場だ。
このようなEV市場の変遷を鑑みると、第3世代リーフの商品企画の方向性を日産は設定し分かりやすかったといえるかもしれない。
実際、新型リーフのチーフ・プロダクト・スペシャリストの遠藤慶至氏は、筆者の「新型におけるポジショニング」に関する質問に対して「価格を含めて、アリアとサクラの中間」という発想から始まっていることを明らかにした。
グローバルでのEVマーケット規模で見れば、リーフはボリュームゾーンへの対応が求められることは変わりなく、競合他社の動きを考えればさらに厳しいコスト管理と商品としての刷新感の両立が必要だ。
そのため、車体は前述のようにアリアを基本として、またモーターや制御系については日本では次期「エルグランド」を筆頭に搭載予定の第3世代e-POWERとの共通性を持たせて、量産効果を上げた。
車内体験の領域では、調光パノラミックガラスルーフを日産として初採用したり、「スカイライン」で導入実績がある市街地で前車との距離を管理するインテリジェント・ディスタンス・コントロールをEVとして初採用していたりしている。
気になる日本仕様の価格について、今回は未発表だった。ただし、繰り返すが商品のポジショニングとしては、アリアとサクラの中間であるため、走行性能や充電性能が大きく向上しても、第2世代の価格から大きく上昇するとは考えにくい。
新型リーフの開発陣は、開発方針を「新たなEVのスタンダードを目指した」と表現する。
これからも新型リーフについて日産から情報開示があるタイミングで、さまざまな角度からリポートしていきたい。
桃田健史
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