( 301053 )  2025/06/21 06:13:24  
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京成電鉄は他の私鉄会社と比べ、パッとしないイメージを持たれがちだが、成田空港へのアクセスの良さを活かすことで好調な業績を上げている。

従来は弱点とされてきた沿線開発にフォーカスしない経営方針を持つ京成電鉄は、多くの私鉄が目指す「選ばれる沿線」のコンセプトとは異なる強みを持つことで成功している。

(要約)

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パッとしないイメージを持たれている京成電鉄だが、“数少ない強み”を尖らせる戦略で勝負に出ている。その成果は出ているのか?(写真:熊博毅/アフロ) 

 

 京成電鉄と言えば、東京の東側~千葉県という、あまり華やかではないエリアの沿線を運営する、やや地味な印象のある鉄道会社だろう。東武、東急、京王、小田急など、ライバルの私鉄会社と比べても、輸送スケールは小さく目立った特徴がないように見える。しかし、そんな京成電鉄には、他社にはない圧倒的な優位性がある。業績好調の京成電鉄のカラクリに迫る。 

 

 一般的に、関東圏の私鉄というのは、鉄道を中心としたさまざまな事業を展開し、その中で沿線住民を幸福にする、というビジネスモデルを採用している。沿線を豊かにすることで、鉄道会社が豊かになることを基本的な姿勢としている。 

 

 そうしたことから、多くの私鉄は「選ばれる沿線」を標榜し、沿線に定住してもらうことを目指し、沿線の魅力発信などPR活動にも力を入れている。そうして住んでくれる人が増えれば、鉄道の利用者が増え、沿線周辺の商業施設の利用者が増え、土地の価格が上がり、高所得者が集まり、沿線内の消費額も増え、結果として鉄道会社の収益につながるというわけだ。 

 

 つまり、運営する沿線エリアの“豊かさ”こそ、鉄道会社の勝敗を分ける重要なポイントになるわけだ。 

 

 そうした視点から見ると、東京圏は地域格差がハッキリしている。ざっくりと言うと、西側が豊かであり、東側はそうではない。もっと言えば、都心部エリアを除き、現状、比較的所得の高い層が暮らしている(≒選ばれている)エリアは、「東急東横線」や「東急田園都市線」の沿線である。これは、鉄道会社の豊かさを演出する施策の結果とも言えるだろう。 

 

 東急東横線や東急田園都市線など、選ばれているエリアに共通する要素に、都心部へのアクセスの良さが挙げられるだろう。たとえば、両路線ともに、渋谷駅に直結し、地下鉄にも乗り入れる。東急目黒線は目黒で地下鉄と直通する。そのほか、多くの私鉄も山手線上の便利な駅(露骨に言えば、ポジションの高い駅)に直結し、そうでなくても地下鉄に相互直通し、都心部へのアクセス利便性を確保している。 

 

 このような沿線アクセスなども、鉄道会社の実力に関わるポイントになるのだ。さて問題は京成電鉄である。 

 

 

 一般的に、企業の経営戦略として、強みを生かすというものがある。鉄道業界の場合だと、たとえば、JR東海は「東海道新幹線」という利用者の多い路線による圧倒的な収益である。一方、東京メトロの場合は、都心部の地下鉄という立地条件の良さが強みになっている。 

 

 まんべんなくよくできた会社もあれば、強みと弱みがはっきりしている会社というのもある。もちろん弱みを抱えた事業も簡単には切り離せず、それなりにやっていかなくてはならない事情もあるだろう。 

 

 京成電鉄は、強みと弱みがはっきりしている会社である。弱みは「沿線開発」である。京成グループには東京ディズニーランドなどを運営するオリエンタルランドがあり、人気は高いものの、そこへの輸送手段はJR東日本の京葉線が中心になっているのだ。 

 

 京成のような東京の東側を走る路線は、「沿線格差」の観点からすると「そうではない」地域である。所得額の多寡や大卒以上層の割合などで西側エリアより、なかなか良い数字が出ず、不動産価格なども23区でありながら武蔵野市や三鷹市ほど高くないという現状がある。 

 

 また京成電鉄では、京成上野駅はJRの上野駅とちょっと離れており、接続する日暮里駅は、新宿駅や渋谷駅、池袋駅といった大ターミナルではない。山手線や京浜東北線と、京成線の乗換駅といった感じだ。 

 

 また京成押上線では、都営浅草線に接続し、都心部にアクセスできる。朝ラッシュ時は日暮里に向かう路線よりも押上に向かう路線のほうが混雑しており、日本橋や東銀座といった古くからのオフィス街への利便性が高い。だが東京駅といった巨大ターミナルへの接続はない。 

 

 しかし京成電鉄は、そこをなんとかしようとはしない。弱みにフォーカスする経営をしていないのだ。 

 

 数々の弱みを抱える京成電鉄だが、その弱みを補っても余りあるような同社の強みとは何か。 

 

 それは「成田空港へのアクセス」の良さであり、成田空港アクセスとなっている「スカイライナー」の存在である。 

 

 1時間に片道3本(往復6本)のペースで京成上野と成田空港を結び、日暮里には全列車必ず停車して山手線や京浜東北線からやってきた都心からの利用者を受け入れ、列車によっては青砥や新鎌ヶ谷に停車、青砥では都営浅草線や京急電鉄からの利用者を受け入れ、新鎌ヶ谷では千葉ニュータウンからの利用者にも目を配る。 

 

 そして区間によっては、最高時速160キロメートルの速さで運行する。京成上野から成田空港まで44分程度の時間で着いてしまう。 

 

 成田空港までの高頻度・速達運転が京成電鉄のほかにはない強みとなっている。特急料金は1,300円、運賃は交通系ICカードで1,267円、計2,567円である。営業キロは64.1kmだ。 

 

 成田空港アクセスには、ほかにもJR東日本の「成田エクスプレス」があるものの、東京駅から成田空港駅までの特急料金は1,730円、運賃は交通系ICカードで1,342円、計3,072円となっている。しかも、営業キロは79.2kmで、58分程度かかる。およそ30分に1本の間隔だ。 

 

 「スカイライナー」に乗る人の多くは、日暮里駅から乗る。「成田エクスプレス」は東京駅や横浜駅、新宿駅などと直結しているのが特徴ではあるものの、人気は日暮里駅から乗ることができる「スカイライナー」に集まっている。 

 

 成田空港への鉄道アクセスは、最初は京成電鉄しかなかった。空港方面への鉄道が整備されJR東日本も参入してライバル関係になったが、成田スカイアクセス線ができ速達性を向上させ、価格も高くないということで京成電鉄の空港アクセス鉄道としての地位は確立した。 

 

 こうして成田空港へのアクセスが、他私鉄に比していろいろと不利だった京成電鉄の状況を大きく変えたのだ。そして京成電鉄は、この強みを大切に育てていったことで、業績好調となっている。 

 

 

 京成電鉄は、2025年5月に発表した中期経営計画の中で、成田空港利用者の中長期的な増加や、成田空港での新滑走路の建設などの空港機能強化により、輸送サービスを増加させる方針を示している。 

 

 成田空港が年間発着容量50万回になった際には、航空旅客数が現在の4000万人から7500万人に、空港で働く人は4万人から7万人に増加することが期待されている。また現在の2つのターミナル体制から、大きな1つのターミナルにすることを予定している。 

 

 成田空港に機能強化に対応し、輸送力増強や利便性向上、新規需要の獲得のために、2028年度に押上~成田空港間の有料特急を運行する計画を立てている。 

 

 現在は押上方面から空港への利用者は料金無料のアクセス特急が運行され、また「スカイライナー」が青砥に停車し対応している。押上には京成系列のホテルがあるなどのシナジー効果が期待できると記されているものの、それだけではない。 

 

 押上発着の特急ができれば、都心や羽田空港方面から都営浅草線に乗って人がやってくる。都営浅草線を介して京急電鉄に乗り入れ、羽田空港第1・第2ターミナル発着となれば、羽田空港~都心~成田空港というルートができる。京急電鉄では羽田空港方面輸送の向上のため、駅で引き上げ線を建設中だ。これが京成電鉄をバックアップすることになるというのは容易に想像できる。 

 

 押上方面発着の空港輸送列車ができれば、さらに利用者が増えることになる。 

 

 また「スカイライナー」も次期車両を検討しており、現在は8両編成であるものがもっと長い編成になることも予定している。京成電鉄は成田空港輸送に強い。その特性を生かして、今後企業をさらに発展させようとしているのだ。 

 

執筆:鉄道ライター 小林 拓矢 

 

 

 
 

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