( 301115 ) 2025/06/21 07:19:10 0 00 自動車部品大手のマレリホールディングス(以下、マレリ)の経営が再び破綻した。6月11日、同社は米連邦破産法第11条(チャプター11)の適用に向けた申請を始めたと発表。2022年8月にも簡易再生(民事再生の一種)が適用されて経営の再建を目指していた。
マレリは日産自動車との取引が売上高の約3割を占める1次部品メーカーだ。日産の子会社だった旧カルソニックカンセイを米投資ファンドKKRが17年に買収し、19年に旧マニエッティ・マレリと統合して発足した。破綻には日産の世界販売台数の減少が大きく影響している。
●日産世界販売はピークから240万台以上の落ち込み
日産の世界販売台数はピークとなった17年度の577万台から漸減し、24年度には334万台と7年で240万台以上落ち込んだ。販売台数の減少は今後も歯止めがかかりそうにない。事実、同社は25年5月13日に打ち出した経営再建計画「Re:Nissan」において、27年度までに中国を除いた生産能力を250万台まで引き下げる方針を発表している。
業績に苦しむのはマレリに限らない。日産の主要な取引先である部品メーカーや車体メーカーの過去5年(20~24年度)の営業利益率を見ると、多くが業績の低迷に苦しんでいることが分かる。
最も深刻な影響を受け、業績不振の状況にあるのが、内装部品を手掛ける河西工業だ。20年度から22年度まで3年連続で営業利益率がマイナスに沈んだ。23年度はプラスに転じたものの、営業利益率は1%程度にとどまっている。24年度については通期決算をまだ出せていない状況だ(25年6月12日時点)。
河西工業の日産との取引比率(売上高に占める日産分の割合)は6割弱と高い。河西工業はかつて日産が描いた拡大路線と歩調を合わせ、16年から18年ごろにかけて北米を中心に生産能力を増強した。
ところが、日産の世界販売台数が17年度を境に減少に転じたことで生産能力がだぶついた。加えて、量産効果を織り込んだ低めの価格設定を打ち出していた。日産も経営に苦しんでいるため価格改定は難しく、河西工業は固定費と変動費の増加に苦しんだ。24年には日産から60億円の出資を受けており、現在は経営再建中だ。
河西工業は固定費および変動費を厳密に管理して収益改善を図り、27年度に営業利益率を4~5%まで引き上げる目標を立てている。
プレス部品を展開するユニプレスは20年度と21年度に営業利益率がマイナスとなった。同社は日産との取引比率が7割を超え、日産による米国および日本における生産台数の減少が業績を下押しした。24年度は営業利益率が3.7%まで回復したものの、25年度は再び失速して3%未満となる見込みだ。
日産車の組み立てを担い、日産との取引比率が100%に近い日産車体の営業利益率はマイナス1.6~1.5%の幅に収まっている。赤字か黒字かの境界線を綱渡りする経営状態だ。
日産車体は現在、湘南工場(神奈川県平塚市)の閉鎖問題で揺れている。米調査会社S&P Global Mobilityによれば24年の稼働率は32%と、国内における日産車の車両工場で最も低い。そのため、日産が閉鎖する世界7つの工場の1つと目されている。営業利益率を改善しようにも「事業計画すら満足に立てられない状況」(自動車系アナリスト)だ。
●変速機のジヤトコはリストラへ
変速機を手掛けるジヤトコは、営業損益が赤字と黒字を行きつ戻りつしている。20年度の営業利益率はマイナス0.4%だったが、21年度に5%とプラスに転じた。その後、22年度に再びマイナス0.9%に低下した後、23年度には4.2%に浮上している。
経営基盤を安定させるべく、ジヤトコは25年6月初旬に人員削減の計画を打ち出した。対象は勤続5年以上で、年齢が40~64歳までの非管理職。かつ製造業務には直接関わらない従業員だ。早期退職制度を利用するというが、削減する従業員数や募集時期については明かしていない。
人員削減の理由についてジヤトコは、日産からの直接の影響を否定するが、取引比率は8割と高い。足元では電気自動車(EV)販売の失速により、新規製品として打ち出した電動アクスル(モーターとインバーター、減速機から成る駆動部品)の販売を拡大する期待も薄れている。
サスペンションを担っており、日産との取引比率が6割を超えるヨロズの営業利益率は0.2~2.5%で推移する。キーやロックを製造しており、取引比率が3割を超えるアルファの営業利益率も1~3.3%の間にとどまっている。決して高いとは言えない水準だ。外装部品などを手掛けており、取引比率が約35%のファルテックは22年度に営業赤字を計上した。
比較的高い営業利益率を示しているのが、樹脂や金属でつくる留め具が主力のパイオラックスだ。日産との取引比率は3割を超えるが、20~23年度の営業利益率を見ると、6.8~9.5%と高い水準にある。
実はパイオラックス、日系部品メーカーの中では高収益経営で知られる。16年度は営業利益率が16%を超えている。だが、24年度には4%に満たない水準まで低下。25年度は3.4%まで落ち込む見込みだ。
パイオラックスと同種の部品を手掛ける部品メーカーにニフコがある。同社は様々な自動車メーカーと取引しており、この5年間の営業利益率は11~14%と高水準を維持する。自動車業界の中でもこの高収益は際立っている。パイオラックスとは対照的だ。
日産の再建計画を見る限り、世界販売台数が「V字回復」する見込みは薄い。日産に依存してきた取引先は、新たな販路を開拓して日産との取引比率を改めるしかなさそうだ。
近岡 裕
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