( 301343 )  2025/06/22 05:47:11  
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奨学金には、「将来への投資」と考える人もいれば、「借金」として捉える人もいる。

奨学金を返済中の女性が結婚を考えた際、奨学金を巡って夫や夫の家族との認識のギャップに苦しむ実例が紹介されている。

奨学金を負担として感じ、将来の不安や家族に負い目を感じるAさんのストーリーが述べられている。

さらに、奨学金返済がライフプランに与える影響や、社会全体での理解や支援が必要だとの考察が述べられている。

(要約)

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(※写真はイメージです/PIXTA) 

 

奨学金に対する認識は、個人や世代間で多様です。奨学金を「将来への投資」と捉え、自身の学びやキャリア形成のために必要不可欠な制度と考える人がいる一方で、特に家庭を持つ段階になると「借金」としての側面が強く意識され、パートナーやその家族とのあいだで認識のギャップが生じることもあります。本記事では、奨学金がもたらす現実的な影響について、アクティブアンドカンパニー代表の大野順也氏が考察します。 

 

都内在住の会社員・Aさん(32歳)は、2年前、結婚を考えていた現在の夫に奨学金を返済中であることを打ち明けたところ、思いがけない反応を受けた。 

 

「え、そんなに借金があるの?」 

 

Aさんは大学進学時に、日本学生支援機構の第二種奨学金を利用していた。当時の残債は約270万円、月収は32万円ほどだった(賞与別)。Aさんの兄や姉も同様に奨学金を借りて大学に進学しており、高校時代の友人も利用していたことから、「奨学金=進学のための必要な手段」とごく自然に考えていたのだ。 

 

しかし、結婚を控えて将来のライフプランについて話し合うなかで、夫とその家族からは「奨学金とはいえ、結局は借金」「いつまで返済が続くのか」「家計にどれほど影響するのか」と問い詰められた。これを機に、「世間では奨学金が“借金”としてみられているのだ」と痛感し、大きなショックを受けたという。 

 

話し合いの末、夫の両親からは「息子との結婚は諦めてくれ」とまで告げられ、一時は婚約破棄寸前まで追い詰められた。しかし夫は徐々に理解を示し、「一緒に乗り越えよう」といってくれた。結婚をする当人間の愛が変わらなかったことから、夫の両親の反対を半ば押し切る形で結婚。現在に至る。 

 

「進学のために借りた正当な支援のはずなのに、“負債”として扱われたのはつらかったです」 

 

現在、Aさんは夫と2歳の息子とともに都内で暮らしている。産休・育休を経て職場に復帰し、現在は時短勤務の正社員として働いている。大学時代に借りた奨学金は約480万円。毎月の返済額は約2万5,000円で、完済は43歳ごろだという。 

 

「物価は上がっているのに、給料はなかなか上がらない。保育料、教育費、住宅費、介護費用……将来の支出を考えると、本当に不安です。いまの生活も余裕があるとはいえません」 

 

さらに、Aさんには“返済してもらっている”という負い目もある。実際には夫が家計全体のなかで奨学金返済分も含めて支えてくれており、夫婦で協力しながら生活している。しかしそれでも、「自分が背負うべき負担を夫にもかけている」と感じてしまうという。 

 

「結婚前に“借金がある人”として見られたことで、どこかで『借りたくて借りたわけではない』『自分だけの責任ではない』という思いが強くなってしまいました。稼ぎどきの30歳で産休・育休を取り、いまも時短勤務です。キャリア形成に響いてくると思うと、やるせなさを感じます」 

 

 

また、子育てを通じて夫との教育観の違いも浮き彫りになってきた。Aさんは「息子にはなるべく奨学金を借りさせたくない」という思いから、学資保険の加入を検討している。一方、夫は「貯蓄でどうにかなる」と考えており、さらに「いざとなったら親にも頼れる」と楽観的に考えているという。 

 

「私は自分の進学時に親や親族に頼るという選択肢がありませんでした。奨学金を借りることも1つの選択肢ですが、返済のタイミングで自分と同じような思いをさせたくない、という気持ちが強いんです」 

 

夫と教育に対する価値観の違いを感じる場面や、奨学金を借りていない同僚や友人たちが、キャリアアップやライフスタイルの変化において、より自由な選択をしている姿を見ると、羨ましさを感じる瞬間もあるという。 

 

それでも、Aさんは奨学金そのものを否定しているわけではない。 

 

「奨学金があったからこそ大学で学べて、いまの仕事に就けました。だからこそ、奨学金を単なる“借金”ではなく、“自分のなりたい姿を実現するための手段”として前向きに捉えてほしい。学びたいことがある・挑戦したいことがあると考えている学生が、進学を諦めるような社会にはなってほしくありません」 

 

とはいえ、返済がライフプランに与える影響は無視できない。 

 

「社会に出てから返済に追われ、選択肢が狭まり、人生設計の足かせとなるようなことは、あってはならないと思います」 

 

奨学金の返済が、結婚・出産・キャリア形成といった重要な人生の選択に、ここまで深く影響するとは考えてもいませんでした──。そのような声が弊社にも数多く寄せられている。 

 

 

 

「奨学金の返済があるため、子どもを持つ決断ができない」 

 

「本当は別の職業を希望していたが、収入を優先して職種を変えた」 

 

「結婚相手の家族に返済額を問題視され、話が立ち消えになった」 

 

「昼の仕事だけでは収入が足りず、夜も働くダブルワークを数年続けている」 

 

こうした声は少なくないが、これは個人の努力不足ではなく、制度や社会構造に起因する問題だといえるだろう。 

 

 

日本学生支援機構の調査によれば、令和5年度に奨学金を利用していた大学生は約3人に1人。総貸付残高は直近10年で約1.8兆円も増加している。その背景には、物価上昇や賃金の伸び悩み、そして大卒採用を前提とする社会構造などがある。大学の授業料の高騰も無視できない。値上げを実施する大学が相次ぐなか、過去40年間で国立大学の学費は約2.4倍、私立大学では約1.8倍にまで上昇している。 

 

奨学金は「個人の選択」とされがちだが、実際には「借りざるを得ない」状況に置かれている若者が多いのが現実だ。だからこそ、「貸す」支援だけでなく、「返す」ことへの支援も社会全体で考えていく必要がある。奨学金を次の世代へと返還し、自らも自由に人生設計を描けるようにする——そのためには、奨学金を「日本の未来を担う若者への投資」であると捉え直し、返済支援を含めた包括的な制度設計と社会全体の理解が不可欠だ。いまこそ奨学金制度のあり方を見直すときである。 

 

大野 順也 

 

アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長 

 

奨学金バンク創設者 

 

 

 
 

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